第018話 暴露

「雫、今日はここに泊まってったら?」

「え?」

「だってもうこんな時間だよ?」


 夏美姉ちゃんが雫姉に提案する。


 確かにもう九時を回っていて、女の子が一人で帰るには少々物騒な時間。僕たちはご飯を食べた後、リビングでダンドリの話で盛り上がり、気づけばこんな時間になっていた。


 僕も少し仕事しなきゃな。


「そうだね、泊っていってもいいよ。もしくはタクシーで送るよ」

「ああ、そういう選択肢もあったね」


 ただ、僕にはタクシー契約もあるのでそれを使ってもらってもよかった。まだ契約している時間内なので呼んだら来てくれる。


 姉ちゃんは僕が上げた選択肢に、掌をポンと叩いてなるほどという顔をしている。


 無理して泊まる必要はないしね。自分の家の方がしっかり休めるだろうし。


「タクシー?」

「うん、たっくんってば自分用のタクシー契約してるんだって。契約時間内ならいつでも使えるらしいよ」

「まだ自分じゃ運転免許は取れないから」

 

 雫姉が僕たちの言っていることが理解できなかったのか、オウム返しのように言葉を繰り返して首を傾げる。


 夏美姉ちゃんが詳しい説明をして、僕は苦笑しつつ肩を竦めた。


「すご」


 雫姉は僕らの言葉に眼を見開いて驚く。


 雫姉がここまで表情を崩して驚く姿は今まで見たことがない。今日は雫姉の知らない表情をたくさん見れて嬉しいな。


「だから、雫姉の好きな方にしたらいいよ」

「わかった。タクシーはなんだか申し訳ないから泊まらせてもらうね」

「別にいいのに……。それより、着替えとかは大丈夫?」


 僕は本当にどちらでもよかったんだけど、雫姉は僕の家に泊まる事を選択した。


 ただ、急に泊まることになったからその辺りは大丈夫なのか気になった。


「私とそう変わらないし、私の貸せば大丈夫じゃない?」


 しかし、突然、夏美姉ちゃんが僕たちの会話に割り込んでそんなことを言う。


「なつ……」


 雫姉はその言葉にムッとした表情で夏美姉ちゃんを睨み、彼女の名前を呼んだ。


 つまり夏美姉ちゃんと雫姉ちゃんは体型的に殆ど差がないということだ。


 夏美姉ちゃんのがあれくらいだから、夏美姉ちゃんより少し背が低い雫姉にもあれと同じ大きさのものが付いているとなると、夏美姉ちゃんより大きく見えるかもしれない。


 確かにパッと見夏美姉ちゃんとそう変わらない程に大きい。


 僕は雫姉の服の下を想像して少し顔を赤くする。


「あっ。ごめーん」

「あははっ」


 夏美姉ちゃんが物凄く申し訳なさそうな顔をすると、僕は苦笑いを浮かべるしかできなかった。


「はぁ……。拓也ならいい。誰にも言わないだろうし」

「たっくんは口硬いからね!!」


 諦めたようにため息を吐く雫姉。思えば、昔からちょいちょい夏美姉ちゃんが口を滑らせて雫姉がその害を被るっていうのは何度かあったように思う。


 二人は相変わらずの関係らしい。


「なつはもっと反省して」

「はぁい……」


 雫姉がそんな軽口をたたく夏美姉ちゃんを再び睨むと、夏美姉ちゃんはしゅんと肩を落とした。


「それじゃあ、僕は仕事してるね。二人は好きにしていていいから」

「わかった」


 僕が席を立つと落ち込んでいる夏美姉ちゃんの代わりに返事をした。


「あ、ねぇ拓也、後で少し仕事してるところ見てもいい?」

「え、そりゃあ別に構わないけど。何も面白いことないと思うよ?」


 僕がリビングから出ていこうとすると、雫姉が僕にそんなお願いをする。僕は別に誰がいようがいまいが仕事をするのに支障はないので了承した上で、問い返した。


 仕事中は集中していて他の事に眼が入らないし、呼んでも中々気づかないからね。


「いいの。拓也がどんな風に仕事しているか見てみたいだけだから」

「そ、そう?なら僕は構わないよ。ただ話したりは出来ないかもだけど、許してね」


 嬉しそうにほほ笑む雫姉の普段見せないその優しい笑顔にドギマギしてしまった。


「うん、仕事の邪魔したいわけじゃないから」

「わ、分かった。多分ノックされても気づかないから、後で勝手に入ってきていいから」


 僕の言葉に微笑んだままの雫姉。僕は直視できなくて少し俯いて返事をする。


「うん、ありがと」

「うふふっ。それじゃあ、私も飲み物のお替りもって一緒にいくね」

「りょ、了解。夏美姉ちゃんありがとう」

「どういたしまして」


 そんな僕たちをにっこりとした笑顔で見守っていた夏美姉ちゃんが話をまとめると、僕は書斎に移動した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る