第017話 告白
「それで、僕がなんでこんなウチに住んでるかだけど、実はラノベ作家として働いて既に自分で稼いでるからなんだ」
「え、ホントに?」
「うん」
夏美姉ちゃんが皆の分の飲み物を出してくれた所で僕の秘密を打ち明ける。案の定、雫姉はその澄ました顔をほんの少し驚愕に染めた。
「代表作は?」
「ダンジョンドリフターズ」
「私の一番好きな作品……」
「え!?そ、それは嬉しいな」
代表作を聞かれたので答えると、雫姉が一番好きな作品だと言ってくれる。
なんだか、自分自身が褒められているみたいですごく嬉しい。
「え?え?ホントに?私試合前にあの作品のいつも主題歌聴いてるよ?作詞作者がしてるんだよね?拓也なの?」
「えっと、そうだよ」
「信じられない……」
主題歌はなぜか作詞家が急にダメになったとかで、「先生書いてみません?」って言われて、そう言われたら断りづらかったから仕事として受けた。
雫姉は目を見開いて口元を手で覆ってポツリと呟く。
「えっと、そうだよね、僕なんかが書いてるなんて信じられないよね……」
でも雫姉には信じてもらえないみたいだ。
僕は悲しい気持ちになる。
「違うよ……。信じられないのは、まさかこんな所で大好きな作品の作者に会えるとは思わなかったってこと」
「えへへ、恥ずかしいね」
呆然としたまま僕の思い込みを否定してくれる雫姉。
そこまで言ってもらえるなんて書いてみた甲斐にあるな。それに雫姉はちゃんと僕の言ってることを信じてくれる。とってもいい姉ちゃんだ。
「拓也は昔からお話が好きだったけど、まさかこんなことって……」
雫姉はあまりに衝撃を受けたのは言葉を失う。
「夏美姉ちゃんに話してたらいつの間にかウェブ投稿するようになって、気づいたら作家になってたよ」
「たっくんってホント凄いよね。雫からもちゃんと言ってやってよ」
僕が軽口のように言うと、夏美姉ちゃんが困った顔をして雫姉に頼んだ。
「うん、拓也は凄い。……サイン貰ってもいいですか?」
すると、雫姉はカバンの中をゴソゴソとした後、少し俯いて顔を赤くして上目遣いで僕にダンドリの最新刊を差し出した。
その表情は普段の雫姉のクールな印象とのギャップで、より一層可愛らしく見えた。
夏美姉ちゃんがいなければ恋に落ちていたかもしれない程に。
「え!?そりゃ勿論いいけど……皆には内緒だからね」
「分かってる。嬉しい」
僕が驚いて最新刊を受け取った後、口元で人差し指を立てると、雫姉ちゃんはほんのり頬を赤く染めてはにかんだ。
その照れ笑いは先ほどの雫姉の表情と共に、僕の中で一番可愛い笑顔の一つになった。
「ふふふ。それじゃあ、今日は雫も夜食べてく?」
僕と雫姉のやり取りを見守っていた夏美姉ちゃんが提案する。
「いいの?」
「何言ってるのよ。たっくんが嬉しそうにしてるもん。良いに決まってるよ、ね、たっくん?」
「うん、僕は勿論いいよ」
雫姉が夏美姉ちゃんに意味ありげな表情で尋ねたけど、夏美姉ちゃんはとてもいい笑顔で僕に問いかけるので、僕はもちろん首を縦に振った。
三人でご飯だなんて昔みたいで嬉しいし、僕に拒む理由はない。
「そう?それじゃあ、ご相伴に与ろうかな」
「うんうん、そうしなよ。たっくんと色々話そ?」
「うん、楽しみ」
話がまとまったところで二人が僕と話すのを楽しみにしてくれている。
「僕はそんなに大した人間じゃないんだけど……」
しかし、僕はそんなに楽しみにされると、なんだか申し訳ない気持ちになってついつい自分を卑下してしまった。
「何言ってるのたっくん?ここにもう二人も大ファンいるんだから、そんな風に言わないで?」
「そう。少なくとも私はいつも力を貰ってるし、結果も出せてる。とっても感謝してるよ。私の大好きな作品を書いてる自分を否定しないで?」
「ごめん、気を付けるね」
すると、二人が悲し気な表情で僕に懇願するように見つめる。
そんな二人を見て僕は素直を頭を下げた。
今度からこういう部分を少しずつでも直していきたいと思った。
「うんうん、もっと自分に自信をもって、たっくん」
「そうだよ。拓也は本当に凄い。私たちが保証する」
「ありがとう」
二人に励まされると、自分を肯定する気持ちが生まれるから不思議だ。
僕は思わず二人に感謝の言葉を述べた。
「それじゃあ、私は料理を作ってくるからちょっと待ってて」
夏美姉ちゃんが時間を見てソファーから立ち上がる。
「私も手伝うよ?」
「いいよ。たっくん一人になっちゃうし。たっくんと話してて」
「分かった」
夏美姉ちゃんは料理を作るためにキッチンへと向かった。
「それじゃあ、何か話して待ってよっか」
「うん、あ、ちょっとそっちに行っていい?」
「え、うん、いいけど?」
「ありがと」
雫姉は僕から少し離れた位置に座っていたけど、僕の隣に腰を下ろす。
雫姉の体が僕に触れるほどに近くて、夏美姉ちゃんとは違った塩素のようなプールの香りと女性の甘い匂いが混ざり合って爽やかな柑橘系のような香りが僕の鼻孔を擽る。
「雫姉なんだか近くない?」
「近い方が話しやすいの。だめ?」
「う、うん。分かった。いいよ」
「ありがと」
しかしあまりに近いので僕が尋ねると、雫姉がそんな風を言うので僕は断れなかった。
夏美姉ちゃんといい、雫姉と言い、最近なぜか僕との距離が近い人が現れる。可愛い美少女にくっつかれるのは男として嬉しいんだけど、少し困惑している自分も居た。
下半身も大変なことになるし。
いやいや、いかんいかん。
「それで、何を話そっか?」
「うん、やっぱりダンドリの話がいいな」
「僕はいいよ?」
「それじゃあ、えっとね、私はダンドリ三巻のあのシーンが……」
僕と雫姉は夏美姉ちゃんが戻ってくるまでダンドリの話をして盛り上がるのだった。
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