第016話 二人目の来客
「ん……んん……ここは……」
辺りを見回すと病室だった。
そうだ。僕はぶん殴られてここで治療してもらっていたんだった。夏美姉ちゃんと雫姉が学校に行った後、僕はまた眠っていたんだな。
外を見ると、少しオレンジ色になっていてかなり長い時間寝ていたことが分かる。
―シャーッ
「あ、たっくん起きてる」
「拓也、もう大丈夫そうね」
僕が起きたすぐ後に、カーテンが開く音がして二人に人物が僕の所にやってきた。二人は僕が起きているのを確認して嬉しそうな表情を浮かべた。
「おかえり二人とも。うん、もうすっかり元気だよ。痛みも朝より少ない」
「そう。それは良かった」
「良かったね」
僕がシップのようなものが貼られた頬に手を添えて話すと、二人は安堵するように頬を緩める。
「それじゃあ、たっくんも大丈夫そうだし、帰りましょ」
「そうだね」
夏美姉ちゃんが帰宅を促すので僕はベッドから降りて、カバンをもって受付に向かった。
「それではこちら今回の費用になります。お支払いは今日でなくて大丈夫です。お大事にしてくださいね」
「分かりました。ありがとうございました」
僕は請求書を受け取って病院を後にした。
「ねぇねぇたっくん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
雫姉と二人で前を歩いていた夏美姉ちゃんが、後ろにやって来て僕の耳元で囁く。夏美姉ちゃんの汗と甘い匂いが混じった甘酸っぱい香りが僕の鼻孔に突き刺さる。
ち、近い……。
相変わらず距離感が近すぎるよ姉ちゃん。
僕は慌てて心を落ちつかせる。
姉ちゃんの頼みなら大抵のことは叶えたいと思うけど、内容によっては難しいこともある。
「な、何?」
「あのね、雫もたっくんの家に連れてったら駄目?心配してたみたいだし」
夏美姉ちゃんの願いは予想外の事だったものの、叶えられない内容ではなかったので安心した。
そんなことならお安い御用だ。
「ああ、そういうこと?雫姉ならいいよ。言いふらすような人でもないし。今日もお世話になっちゃったし」
雫姐は信頼できる人だし、僕を昔から可愛がってくれた幼馴染の内の一人だ。彼女は誰かに僕の仕事の事を言ったりしないと分かっているし、家の中を荒らすような人でもないので、来てもらって全然構わない。
「そ。よかった。ありがとたっくん」
「お礼を言うのは僕の方だよ」
「ふふふふっ」
僕の許可を得た夏美絵ちゃんは、再び前にいる雫姉の隣に並んで歩き始めた。
「あれ?拓也の家ってこっちじゃなかったけ?」
本来曲がるべき道を曲がらない僕達を見て、雫姉が立ち止まり、今まで僕が通っていた道を指して僕に尋ねる。
「ああ、引っ越したんだ。昨日」
「へぇ、そうだったの?」
「うん、だから帰りは真っすぐなんだ。後十分くらいかな」
「分かった」
雫姉は納得しようで、僕たちの元に近寄ってきて二人の間に僕が挟まれる形で歩き始めた。
「ここが僕の家だよ」
「おっき!?」
さしものクールな雫姉も僕の家を見るなり驚愕を浮かべる。
「ははははっ。昨日の夏美姉ちゃんもそんな感じだったね」
「煩いな。しょうがないでしょ。こんな大きな家は見たことないし」
僕が夏美姉ちゃんを引き合いに出すと、夏美姉ちゃんは腰に手を当ててプクゥっと頬を膨らませて僕を睨んだ。
全然怖くなくて可愛いだけだけど。
「なんで?」
「とりあえず、立ち話もなんだし、中に入ろ」
昨日みたいにまたこんな所で話すのも良くないし、詳しい話はリビングですることにして僕は雫姉を中へと誘う。
「そうよ、話は中で話せばいいよ」
「わ、分かった」
僕と夏美姉ちゃんから誘われた雫姉はすぐに頷いた。僕は物々しい門の通用口を開けて二人を中に招き入れた。
「それで、話を聞く前になつのその恰好はなんなの?」
「メイドよ、メイド。私はたっくんのお世話をするためにここに住んでるからね。やっぱり身の回りの世話をするのはメイドじゃない?」
夏美姉ちゃんと似たようなイベントをこなした後、リビングのソファに腰掛ける僕たち。
ただ、夏美ちゃんだけは、荷物を置いてくると同時にメイド服衣装に着替えてここにやってきた。
「相変わらずだね、なつは。拓也も大変だね」
「ははははっ」
夏美姉ちゃんを見て苦笑いを浮かべる雫姉。僕は思わず苦笑するしかなかった。昨日からいろんな目に会いましたとは言えないよね。
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