第009話 添い寝

―コンコンッ


「はい」


 僕が悶々としたものを何回も処理して窓を開け、空気を入れ替え、出てしまったゴミはクローゼットに隔離した後、ベッドに横になっていると、部屋のドアがノックされた。


「入ってもいい?」

「どうぞ」


 夏美姉ちゃんがなぜか僕の部屋へとやってきた。


 薄手のパジャマに着替えていて、胸元がきついのか上の方のボタンが閉まっていなくて、夏美姉ちゃんの大変立派なものの上部がチラリと覗いている。


「どうかしたの?」

「あ、えっとね。部屋にベッドがないからどうしようかなって」


 夏美姉ちゃんの言葉に僕は愕然とした。


 そういえばそうだ。家具とか欲しい物は伝えるように言ったけど、すぐに届くわけじゃない。今日どうするかなんて全然考えていなかった。


「あぁああ、ごめん。忘れてた。恋人でも出来るまで一人で過ごすつもりだったから、そういう物の予備とか買ってないんだ。あ、そうだ。僕の部屋のベッド使ってよ。僕はリビングのソファーで寝るから」


 ひとまず夏美姉ちゃんには、申し訳ないけど僕のベッドを使ってもらって、僕がリビングのソファーで寝るという提案をする。


 これで問題ない。


「いいよいいよ、たっくんがベッド使いなよ」

「駄目だよ。夏美姉ちゃんが色々やってくれて凄く助かるんだから、ちゃんとベッドで寝てもらわないと」

「えぇ~いいよ。私がソファで寝るから」


 しかし、夏美姉ちゃんは僕に気を遣っているのか、ソファーで寝ようとするので、僕がそれを止めたら、再び拒否された。


 僕もここは譲る気はない。


「姉ちゃんがベッド!!」

「たっくんがベッド!!」


 僕が答えると、売り言葉に買い言葉のように姉ちゃんも返す。


「姉ちゃん!!」

「たっくん!!」

「姉ちゃ!!」

「たっく!!」

「姉!!」

「た!!」

『はぁ……はぁ……はぁ……はぁ』


 お互いに譲らずに暫く言葉の応酬が続くと、二人の荒い息だけが室内を包み込む。


「あ、良いこと思いついた!!」


 しかし、そんな時、夏美姉ちゃんの頭の上に電球を幻視出来そうなくらいスッキリとした顔で夏美姉ちゃんが叫んだ。


「え?」

「物凄く簡単な事だったよ」


 僕は意味が分からず、戸惑いの声を漏らすと、夏美姉ちゃんが腕を組み、鼻息荒く目を瞑ってウンウンと頷きながらドヤ顔をする。


 一体何が簡単なんだろうか。


「どういうこと?」

「一緒に寝ればいいじゃん」


 僕がその真意を問うと、至極当然といった表情で突拍子もないことを言ってくる。


「はぁ!?」


 僕はあまりの衝撃に大声を出して驚いてしまった。


「お風呂もそうだけど、昔は一緒に寝たんだからいいよね。ベッド大きいし」

「そ、そんなのダメに決まってるじゃん!!」


 夏美姉ちゃんは全然気にしていないようだけど、僕は滅茶苦茶意識してしまうので、一緒に寝るなんて困る。


 せっかく処理しきったところだって言うのに、これじゃあまた悶々としてしまう。


「なんで?」

「そ、それは……僕は男で夏美姉ちゃんは女だし……」


 その理由を問われると、お風呂での言い訳じみた答えと同じものしか出てこない。


 しかし、それは世間一般ではそれで通じるはずの答え。


「たっくんは私に何かするつもりなの?」

「しないけど……」


 ただ、夏美姉ちゃんには無意味で、そう聞かれればしないとしか言えない。


「じゃあいいじゃんそんなの。一緒に寝ようよ、昔みたいに」

「わ、分かったよ」


 僕は断り切れずに夏美姉ちゃんと一緒に寝ることになった。


 なんでこの人はこう人のパーソナルスペースに入り込んでくるんだ。


 それを断り切れない僕も僕だけど。


「それじゃあ、失礼しまーす」


 夏美姉ちゃんが僕のいるベッドに上がり、布団をめくって僕の隣に横になった。


「うっ」


 風呂上がりの姉ちゃんの良い香りが漂ってくるのと、すぐそばに夏美姉ちゃんがいるという事実が僕を鼓動を早める。


 僕は横になると、恥ずかしくて思わず夏美姉ちゃんに背を向けた。


「えへへ、懐かしいね」

「そ、そうだね」


 夏美姉ちゃんが嬉しそうな声色で呟いたので僕は、上擦った声で同意する。


「ねぇ……もっとそっちいっていい?」

「いや、それはその……」

「ダメって言っても行っちゃうけどね」


 夏美姉ちゃんの質問に僕が答えを出せずにしどろもどろになっている間に、彼女はゴソゴソと動き始めた。


「なら最初から聞かないでよ……」


 僕が呆れるように呟いたけど、何の返事もない。ただ、布が擦れ合う音と共に夏美姉ちゃんの気配近づいてくるのが分かる。


―フニョン


「え!?」


 僕の背中にそれはそれは柔らかな感触が伝わり、首の下から手が滑り込まされ、僕の胸の前あたりで白く美しいの腕が交差した。


「うふふ、あったかい」

「な!?ちょっと止めてよ」


 突然、僕の背中を襲う感触と、余りに近い夏美姉ちゃんの涼やかな声と匂いに僕の鼓動が跳ね上がる。


「えぇ~、いいじゃん。たっくんにくっついてると安心するんだもん」

「そ、そんなこと言われても……」


 僕は非難の声を出すも、夏美姉ちゃんは僕を抱きしめて離す気配はない。


「いや?」

「嫌じゃないけど……」


 夏美姉ちゃんにそんなことを聞かれたら、嫌じゃないという答え一択しかない。


「ならいいよね?」

「はぁ……分かったよ」


 再度問われたら、僕は諦めるように首を縦に振った。


「やった。ありがと」


 夏美姉ちゃんは、嬉しそうにそう言って、さらに腕に力を込めて僕に密着する。すると、僕の背中と姉ちゃんとの間でたわわに実った果実が柔らかに形を変えてさらに僕に押し付けられる。


 その余りに暴力的な刺激に僕の体の一部に血が集まってしまう。幸い夏美姉ちゃんが僕の後ろから抱き着いているのでバレていないのが救いだ。

 

 しばらく他愛のない雑談をしていると夏美姉ちゃんの反応が遅くなり、曖昧になり、そして返ってこなくなった。


「zzz……zzz……」


 夏美姉ちゃんの寝息が聞こえてくる。


「全く……人の気も知らないで……」


 夏美姉ちゃんの寝顔をチラリと振り返り、僕は仕方ないなぁと肩を竦めた後、僕は寝る努力を始めた。

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