第013話 ごめん、姉ちゃん
学校が近くなってくると、同じ学校の生徒の割合が俄然増える。
「おいおい、ひ弱そうな男と一緒に歩いてるのって調理部の部長の神崎さんじゃねぇか?」
「そうみたいだな。そのパッとしない男は一体誰なんだ?」
「なんで神崎さんともあろう人があんな根暗そうな男と……」
そんな声がチラホラと僕の耳に聞こえる。
朝夏美姉ちゃんに褒めてもらったにも関わらず、僕なんて姉ちゃんの隣にいる資格がないんじゃないか、という気持ちがムクムクと湧き上がってきて、つい俯いてしまう。
「姉ちゃん、僕やっぱり「たっくん、あんな人の陰口しか言えない人達の言葉に惑わされちゃ駄目。私がたっくんと一緒にいることを選んだ。それを否定しないで。堂々してればいいの、堂々と」」
「わ、分かったよ、夏美姉ちゃん」
僕が他人の言葉で離れようとすると、夏美姉ちゃんの僕の腕を抱く力が強まり、毅然とした態度で僕を諭す。
僕は出来るだけ夏美姉ちゃんの言葉を信じることにして心を強く持つように心がけた。
しかし、気持ちだけではどうしようもないことも時にはある。
「おいおい、夏美ぃ。誰だぁ?そいつは?」
如何にも不良ですと言わんばかりに制服をだらしなく着崩し、辺りを睨みちらしている男が夏美姉ちゃんに話しかけてきた。
確実に鍛えていて、その屈強な肉体で殴られたら僕なんて一発でノックアウトされてしまうであろう迫力があった。
「はぁ?あんたみたいなバカに答える必要がある訳ないじゃない」
「なにぃ?僕よりそこのひょろひょろで根暗そうな男の方が良いってのか?」
姉ちゃんはその男の前でも物怖じすることなく、睨みつけながら答える。
知り合いみたいだけど、この男は一体に何者なのだろうか。
「当たり前じゃない。あんたみたいな悪ぶって人に迷惑かけてるだけの構ってちゃんなんか。たっくんと比べたらカスみたいなもんよ」
「なんだとてめぇ!!ちょっと顔が良いからって調子に乗りやがって!!」
そっぽ向いて煽るように話す夏美姉ちゃんに、男は青筋を立てて切れる。
そこまで煽らなくてもいいと思うんだけど、姉ちゃんは一体どうしたんだろう。
「調子に乗ってなんかいないわよ。あんたがただカッコ悪いってだけの話でしょ。
「ふざけてんじゃねぇぞ、このクソあまぁ!!」
更に煽る夏美姉ちゃんに完全に切れてしまった男の鋭い拳が襲い掛かる。
姉ちゃんがあんなのに殴られた傷物になってしまうかもしれない!!
そんなことさせるわけにはいかない!!
「姉ちゃん危ない!!」
そう思ったら僕は体が勝手に動いていた。
―ガンッ
「ぐはっ!?」
僕は男の拳で頬を殴られて吹っ飛び、フェンスのようなものにぶつかって、地面へとズリズリと落下する。
「たっくん!!」
意識が朦朧とする中、夏美姉ちゃんが僕に近寄ってくるのが分かった。
「えへへ、姉ちゃん……無事?」
僕は僕の顔を悲しそうな表情で覗く姉ちゃんに強がって笑ってみせる。
口が腫れているのか上手く喋れない。
正直、ほっぺがジンジンしてて目の前がぐるんぐるんしていて訳が分からなくなっていたけど、ちょっとでも夏美姉ちゃんを心配させたくなかった。
夏美姉ちゃんは心配性だからね。
「ほら、こんなぴんぴんよ。たっくんたら、無茶をして……全く」
僕に見せるように力こぶを作って見せる夏美姉ちゃん。
どこも怪我してなかったみたいで良かった。特に姉ちゃんのその綺麗な顔に傷が無くて本当に良かったと思う。
「姉ちゃんに……怪我がないなら……それでいいや……」
姉ちゃんのその姿を見て僕は安堵した。
でも、男はまだそこにいる。
体に力が入らないし、意識が遠くなって起き上がれない。
もう次は弱々な僕じゃ守ってあげられない。
誰か僕の代わりに姉ちゃんを守ってほしい……。
「私……こんな傷……やっぱり……たっくん……よ」
意識が遠くなってきて夏美姉ちゃんが何を言ってるか聞き取れなかったけど、涙を浮かべて微笑んでいるのが見えた。
僕はその涙を拭ってあげたくて手を伸ばす。
ああ……やっぱり心配かけちゃったみたいだ。
ごめん、姉ちゃん。僕こんなに弱くて……。
ごめん、姉ちゃん。守ってあげられなくて……。
ごめん、姉ちゃん。心配かけて……。
しかし、僕の意識はそんな思いを抱いたまま闇に落ちた。
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