第006話 ご褒美の感触
「あ、なになに~、見惚れちゃった?」
呆然とする僕にニヤニヤとした顔で近づいてきてわかりきったようなことを聞く。
ああ、そうだよ、その通りだよ!!悪いか!!
「ち、違うよ。突然変な事言うから驚いただけだよ」
「ふーん。まぁいいよ。今回はそれで許してあげる」
でも僕は悔しいのでそっぽを向いて言い訳を並べると、夏目姉ちゃんはフムムと笑った。
「それよりもご飯だよ。早く食べようよ」
僕は無理やり話を切り替えて夏美姉ちゃんの背を押して部屋から押し出す。
「そ、そうだった。沢山作ったからいっぱい食べてよね」
無理やり振り向いて僕に話す夏美姉ちゃん。
結構時間が経っていたから気づけばお腹が滅茶苦茶減っている。
「お腹減ってるからいくらでも食べられるよ」
僕は軽い気持ちで安請け合いをした。
見た瞬間後悔するとも知らずに。
「どう?腕に縒りをかけて作ったんだよ?」
「いや、それはそうだけど……」
ダイニングキッチンに向かった僕を待っていたのはテーブル一杯に並べられた料理の数々だった。
僕の好物ばかりが並べられていて、夏美姉ちゃんが確かに僕のことを考えて作ってくれたことが分かる。しかし、それは明らかに一食分としては多すぎる量。
パーティか何かかな。
僕は思わず狼狽えて言葉を上手く紡ぐことが出来なかった。
「何?食べられないとは言わないよね?」
「はい、食べさせていただきます」
しかし、夏美姉ちゃんが少しムスッとしたので、僕は思わず敬礼してしまった。
「よろしい。さぁ席について」
「了解」
不機嫌そうな顔を微笑みに変えた夏美姉ちゃんに安堵しつつ、僕は席についた。
「さぁ召し上がれ」
「いただきます」
七海姉ちゃんが数々の料理を小皿に取り分けて僕の前においてくれる。とりあえず量に関しては一旦棚の上に置いておいて、夏美姉ちゃんの料理はおいしいのでその久しぶりの味を堪能することにする。
「~~!?」
僕は一口料理を口に入れると、そのあまりの美味しさに目を見張った。
以前食べさせてもらった料理も美味しかったけど、疎遠になってから半年以上経った今はその味により磨きがかかっている。
僕は思わずガツガツと小皿に取り分けられた料理を全て平らげてしまった。
「美味しい……」
僕は満足げに呟く。
「あはは、良かった!!」
テーブルの上で頬杖をついてこっちを微笑ましそうに眺めて笑う。
その表情はまるで聖母のように慈愛に溢れ、神々しいものだった。そしてテーブルの上に乗っている母性の塊が大きく歪んでいたのに目を引かれたのは男として当然である。
「僕はいいから姉ちゃんも食べなよ」
「はいはい、ダメだよ。これはメイドの仕事ですからね、ご主人様は大人しくしているように」
姉ちゃんは立ち上がって再び僕の皿に料理を取り分けるのを止めさせようとすると、立ち上がる前に肩を押さえられて逆に制止されてしまった。
夏美姉ちゃんからご主人様って言われるのゾワゾワしていけない感情が沸いてきそうになるからホント止めてほしい。
「それじゃあ、私も食べるよ」
「うん」
「いただきます」
夏美姉ちゃんも自分の分を取り分け、それから僕たちは夏美姉ちゃんの料理に舌鼓を打った。
「うぷっ。もう無理……」
僕は今リビングのソファーに横になってぐったりしている。服の上からでも分かるくらいにお腹がポッコリと出ていて、今にも吐き出しそうだ。
絶対に吐き出したりなんかしないけど。
僕はなんとか料理を全て平らげた。絶対無理だと思ったけど、そこは気合でどうにかして無理やり胃の中に押し込んだ結果、今の状態になっている。
「無理して全部食べなくても良かったのに……」
洗い物を終えた姉ちゃんがリビングにやってきて、僕の近くに腰を下ろし、僕の顔を心配そうにのぞき込む。
「せっかく夏美姉ちゃんが作ってくれんたんだから残せるわけないじゃん」
「冗談のつもりだったのに、まさか全部食べてくれるなんてね……。それじゃあ、そんな頑張ってくれたたっくんにご褒美を上げる」
僕が力のない笑顔を浮かべると、世話の焼ける弟を見るような眼をした後、そんな事を言った。
え?ご褒美?
「いや、いらないよ?僕が食べたくて食べただけだし」
「だーめ」
僕がご褒美を拒否しようとしたけど、夏美姉ちゃんは有無言わさずにサッと動いて僕の頭を自身の膝の上に乗せた。
それは所謂ひざまくらと呼ばれる行為だった。
夏美姉ちゃんの程よくむっちりとした太ももの柔らかな感触が後頭部を伝って僕の脳髄を溶かす。目の前には夏美姉ちゃんの顔を遮るように存在する二子山が聳えっている。
「ご褒美の感想は?」
少しかがむようにして僕の顔を覗く夏美姉ちゃん。
かがむと当然二子山様が僕の顔に迫ってくるわけで、その光景は圧巻の一言だった。
いやいや、そのままかがんだらマズいよ、姉ちゃん!!
しかし、その二子山はギリギリ僕に触れる前で止まった。
ふぅ。僕は残念な気持ちが沸くと同時に安堵する。
「え!?ああ、と、とってもいいよ」
「そ。それは良かった」
僕は慌てて取り繕うと、自分の胸でほとんど僕が見えないのか、彼女はにっこりと太陽のような笑みを浮かべた。
あのまま当たってたらヤバかったな……。
僕は心の中で独り言ちた。
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