第003話 願望の詰まった家 後編
「そういえば、入り口の辺りにエレベータみたいなのあったよね?あれは?」
「あれはそのままエレベーターだよ。この家って三階まであるし、地下もあるからね」
「地下!?」
七海姉ちゃんはエレベーターの事よりも地下があることに驚く。
「うん」
「ち、地下には何があるの……?」
夏美姉ちゃんは恐る恐る僕に尋ねる。
「僕用の図書室かな。今まで買った本を集めて置いてるんだ」
「へ、へぇ」
「行ってみる?」
「いや、いい。また今度にするね。流石に驚き疲れちゃった」
「そう?」
図書室に案内しようとするお腹一杯と言った苦しそうな症状浮かべる夏美姉ちゃん。
地下にある図書室は結構自慢の場所だったんだけど残念だな。
僕がこれまでに買った本が数万冊くらい収められていて図書室って言うより図書館って言葉ぴったりの場所なんだよね。そこで読書するのが楽しみなんだ。
「他には何があるの?」
「そうだなぁ。スポーツ系なら、体を鍛えたいって言われるかもしれないからジム。泳ぎたいって言われるかもしれないからプール。テニスをしたいって言われるかもしれないからテニスコートがあるかな。あ、他にも道場、それに弓道場があるよ。家の中に卓球やビリヤードができる遊戯室もあるね。ただ、サッカー場とかそういう多人数でやる施設も作りたかったけど、金額的に無理だったよ。スポーツ系以外だと、歌を歌いたいとか楽器をやりたい言われるかもしれないから、防音室やスタジオもあるよ。防音室繋がりで、大音量で映画を観れるシアタールームもあるかな」
「どれだけあるの……これまさか全部一人で管理するの?」
呆然として僕に尋ねる夏美姉ちゃん。
「それは無理でしょ?各施設の管理は信頼できる業者にしてもらうよ」
「そう。それはよかったわ」
僕の返事に夏美姉ちゃんは安堵の息を吐いた。
流石にこれだけの施設の管理を一人の人間が出来るはずがない。夏美姉ちゃんには三階のプライベートルームのことをやってもらえればいいと思う。
ダイニングキッチンとかがあるのもその階だ。それでも大変だと思うから、後で追加で何人か雇うのもありだし。
信頼できる人を探すのが大変だけど。
「そろそろ自分が使う部屋が見てみたいわね?」
「分かった。今度はエレベーターで三階に行こう」
「ええ」
再び三階にやってきた僕たち。
「ここが個室がある区画だね。一番奥の両脇が僕で、右側が僕の寝室。左が僕の執筆部屋だよ。他は空いてるよ」
「そう。それじゃあ、たっくんの寝室の隣の部屋にする」
「分かった。実際に入ってみてね」
「うん」
僕たちは一番奥の隣の部屋の前で止まって扉を開ける。
「ここも広いねぇ」
「居づらいかな?」
「ううん、ここも物を置いたら良くなるでしょ」
「それは良かった。ウォークインクローゼットもあるし、収納には困らないはず」
「分かった」
室内は伽藍とした一室で特に何かあるわけでもないからそこまで驚くことはなかった。
そういえば言い忘れていることがあった。
「あ、ベッドとか注文するから欲しい家具とかあったら言ってね?」
せっかくやってくれるなら最高の環境を用意したいからね。
「え?別にいいよ?家から持ってくればいいじゃない」
僕の提案を蹴る夏美姉ちゃんだけど、それは僕が許容できない。
「ダメだよ。僕の身の回りのことをやってくれるって言うんだから、最高の環境を用意するのは当然だからね」
「分かった。後で欲しいものは言うね?」
「うん。遠慮しちゃダメだからね?」
「言ったねぇ?後悔しても知らないよ?」
「夏美姉ちゃんが喜ぶのに後悔なんてするわけないじゃん」
「〜!?」
僕の念押しに挑戦的な笑みを浮かべたけど、僕が後悔することなんてないので、笑い返したら、何故か夏美姉ちゃんは顔を赤くした。
「どうかした?」
「んーん、なんでもないわ。……心臓に悪い」
体調を崩したのかもと確認したら、夏美姉ちゃんは慌てて首を振った。
―トゥルルルルルッ
そんな時僕の携帯電話が鳴った。
「もしもし。あぁ編集さん、こんにちは。え?ああ、そうなんですか?ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。ええ、はい、分かりました。それじゃあ」
相手は編集さんで、用件を聞いた後で電話を切った。
「ん?どうかした?」
「いや、ホントに仕事してるんだなって」
呆然とこちらを見つめている夏美姉ちゃんに首を傾げると、ポツリと呟く。
「僕が嘘でも言ってるとでも?」
「んーん。ただたっくんが仕事してる姿が想像できなかったから。あんなにちっちゃかったたっくんも随分大きくなったんだなって。それに……ホントにもう立派な男だね」
僕が少しだけ不機嫌に答えると、夏美姉ちゃんは困惑したような笑みを浮かべて答える。
感慨深そうに呟く夏美姉ちゃんの顔。そこには何かの思いがあるように感じるけど、僕には何もわからなかった。
「そりゃあそうだよ、成長期だもの」
「そう言う意味じゃないんだけどまぁいいわ」
僕はさも心外といった心情を露わにして答えたら呆れた顔をされてしまった。
一体なんだと言うのか。
「それでなんの連絡だったの?」
ふと話を戻す夏美姉ちゃん。
「ああ、アニメと劇場版の続編制作決定だってさ」
「えぇ〜!!すっごいじゃない!!今から楽しみだわ!!」
夏美姉ちゃんには特に隠すことではないのでそのまま答えると、夏美姉ちゃんは物凄くはしゃいでくれた。
この笑顔が見れただけでダンドリを書いてた甲斐があるって思う。
「はははっ。夏美姉ちゃんが楽しみにしてるなら決まってよかったよ」
「ったくもう。少し口まで上手くなったみたいね?そんなこと言ったって料理が一品増えるだけなんですからね?」
「それは楽しみだな」
僕が笑って答えると、夏美姉ちゃんは恥ずかしそうに笑みを浮かべてそんな事をいった。
僕は夕食がもっと楽しみになった。
「それじゃあ、ひとまず生活に必要な部分は見れたと思うけど、どうするの?」
普通に生活するスペースに関しては見終わったので夏美姉ちゃんに尋ねる。
「私は一旦必要な荷物を取りに帰って、その後で料理に必要な食材を買ってくるかな」
「分かった。ついていこっか?」
「んーん、一人で大丈夫だよ。仕事あるんでしょ?」
流石に生活に必要な物を持ってくるとなると大荷物になると思う。
絶対に一人じゃ大変だよね。
「まぁそうだけど、ちょっとくらいなら平気だよ?」
「ホントに大丈夫だよ。チャチャっと帰って戻ってくるから」
そうは言っても荷物が多いのもそうだけど、もうすぐ日も暮れるし、夏美姉ちゃんみたいな美少女が一人でうろついてたら物騒だ。
「あ、そうだ。タクシー使ってよ。呼ぶからちょっと待ってて」
「え!?そんなのいいのに!!」
思いついた僕は夏美姉ちゃんが制止するのも構わずにタクシー会社に電話してタクシーを呼んだ。
「全く……タクシーなんて別によかったのに……」
「気にしないで。ちゃんと家に帰って荷物持って、こっちに帰ってくるまでタクシー使ってね。そのタクシー僕が契約してる奴でお金かからないから」
困ったような笑みを浮かべながら呟く姉ちゃんに、僕はしっかりと念を押す。
「ホントにお金持ちになってたんだね……ありがたく使わせてもらうからね」
夏美姉ちゃんは諦めたように呟いた。
辛い思いなんてしてほしくないし、これくらい良いよね。
僕は夏美姉ちゃんを玄関までついていってタクシーに乗るのを見送った後、執筆部屋で仕事に取り掛かった。
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