第002話 願望の詰まった家 前編

「凄ーい!!滅茶苦茶良い家じゃない!!ホントにここってたっくんの家なんだよね?」

「そうだよ、僕がちゃんと設計士に頼んで一から作ってもらったんだから」

「へぇ、それじゃあここはたっくんの理想の家って所なの?」

「そうだね。自分で稼いだお金かなり使って作ったから、理想に近いと思う」


 室内に入るなり、きょろきょろと辺りを見回してはしゃぐ夏美姉ちゃん。


 目をキラキラさせてはしゃぐ彼女の姿はとても可愛らしい。


「それにしても本当に広いね?本当にこんなところに一人で済む予定だったの?寂しくない?」


 室内の広さに対する驚きが落ち着いたころ、夏美姉ちゃんがふと僕に尋ねる。


「そりゃあ、今は一人で済む予定だよ。でも、僕だって将来的には好きな人が出来ると思うし、その人と結婚したら、ここで何不自由ない生活をしてほしいから色々考えて作ったんだ」


 主に夏美姉ちゃんの事を考えて作ったんだけど、そんなことを言ったら夏美姉ちゃんに引かれてしまうので、具体的な名前は出さずに将来のことを話す。


 今から将来の事を考えて家を建てる高校生もそれはそれで引かれてしまうかもしれないけど。


「ふーん。たっくん結婚するんだ」


 無表情の夏美姉ちゃんがそっけなくつぶやく。


「そりゃあ、いい相手がいたらするでしょ」

「ふーん、そうなんだ……」


 僕も悟られまいと顔を背けながら返事をすると、何かを考え込むように再び夏美姉ちゃんは呟いた。


 僕としては本当は夏美姉ちゃんと結婚したいという願望はあるけど、根暗で引きこもりの僕じゃ夏美姉ちゃんにふさわしくないと思う。


 そんな叶うことのない自分の願望を詰め込んだのがこの家だった。


「私じゃ……ダメかな?」


 夏美姉ちゃんが小さく何かを呟いた気がしたんだけど聞き取れなかった。


「ん?何か言った?」

「んーん、何でもない!!ほらほら案内してよ!!」


 視線を夏美姉ちゃんに戻して尋ねると、彼女はことさらに明るく振舞い、僕の視線から逃れるように僕の後ろに回って僕の背中をグイグイと押す。


「わかった。わかったから押さないでよ」


 僕は後ろを振り返って必死に抗議しつつ、靴を脱いで玄関から奥に向かった。その時垣間見えた夏美姉ちゃんの顔を朱色に染まっていた。


「ここがリビングだね」

「どこのセレブなの……」


 階段を登って三階にやってきた僕たち。


 リビングには滅茶苦茶大きなテレビに、十人以上が座れるソファーとテーブル、見栄えのいい観葉植物などが置いてある。これはインテリアコーディネーターなどに頼んでいい感じにしてもらった。


 夏美姉ちゃんはそのお洒落な空間に驚愕している。ここは主に夏美姉ちゃんがテレビを見てうっとりしていたり、羨ましそうにしている時の映っていた部屋を参考にしている。


「ここがダイニングキッチン」

「このダイニングキッチン広すぎない?何畳くらいあるの?」

「どうだったかな?三十畳くらいじゃない?」

「三十畳……」


 ダイニングキッチンも同じインテリアコーディネーターなどに夏美姉ちゃんが気にいる感じにしてもらった。キッチンはアイランドキッチンですぐに料理が出せるような形になっている。


「調理器具も物凄く揃ってるね、素敵……」


 部屋を一通り見た後、夏美姉ちゃんはキッチンに行ってフライパンや鍋などの料理器具を見てうっとりと見つめる。


 夏美姉ちゃんは結構さばさばした性格だけど、料理が得意でこういう料理器具が大好きなんだよね。僕はそれを知っていたので詳しい人に頼んで集めてもらったんだ。


「うん。使う人が困らないように全部そろえてもらったんだ。夏美姉ちゃんこういうの好きだよね?」

「ええ、好きよ」


 僕は分かってて敢えて尋ねると、彼女はにっこりと笑って答えた。


 僕にとってはその笑顔がご褒美だ。


「それは良かったよ。全部自由に使っていいからね」

「ありがと。腕に縒りを掛けて美味しい料理を作ってあげるね!!」

「こちらこそありがと。楽しみにしてるね」


 僕もニッコリと笑って返事をすると、彼女は力こぶを作ってやる気を出した。僕は夏美姉ちゃんの料理が好きなので夜がとても楽しみになった。


「ああ一応、このキッチンとは別に本格的な料理用の厨房もあるけど、見る?」

「厨房!?み、見たい!!」

「それじゃあ、隣にあるから行こうか」

「ええ」


 この家にはこの家庭用のキッチンとは別の料理人が使うような厨房もある。


 夏美姉ちゃんが食い気味に問い詰めるので、別の階のその厨房に向かった。


「もうこれ完全にお店とかのやつじゃない……」


 厨房に辿り着くなり夏美姉ちゃんは呆然と呟く。


「ほら、好きな人がいきなり料理人になりたいとかいうかもしれないじゃない?」

「そんな人はほとんどいないと思うよ?」


 そうは言うけど、夏美姉ちゃんは料理が好きだし、活発な性格をしているから、突然料理人になりたいって言いだすかもしれないんだよね。


「でもいるかもしれないからそんな時のために作っておいたんだ」

「たっくんって結構変わった子だったんだね……」

「そんなことないと思うよ?」


 そう答える僕に夏美姉ちゃんが信じられないという表情で呟く。


 夏美姉ちゃんに呆れられた気がするけど、夏美姉ちゃんも中々個性的なのでお互い様だと思う。


「ここはトイレだね」

「個室沢山あるね」


 次はトイレ。扉を開けるとさらに扉が複数あってそれぞれが個室トイレになっている。全部で六個ある。


「うん、だって誰かが入っていて間に合わないとかなったら大変だし」

「流石に多すぎじゃない?」

「ほらだって家族何人になるか分からないし、お客さんが来るかもしれない。一つのトイレにこのくらいないと困るかもしれないじゃん」


 子供が何人生まれるか分からないから一応四人くらい生まれたとして六人全員が同じところで催したとしても問題ないようにしている。


 お客さんが来てもこのくらい有れば大丈夫だと思う。思いたい。


「トイレってここだけじゃないの?」

「各階に五カ所ずつあるよ」

「流石に多すぎない?」

「家結構広いからね、どこで行きたくなるか分からないから沢山作ったんだよ」

「そ、そうなの。それは安心ね」


 さらに同じ造りのトイレが各階に五つずつある。かなり広いからね。


 これだけあれば流石に家の中で漏らしてしまうということはないはず。


「次はお風呂だよ」

「お風呂!?楽しみ!!」


 夏美姉ちゃんも女性だけあってお風呂が大好きだ。


 ここも僕が力をいれた場所の一つだ。


「うわぁ凄いね!!いろんなお風呂がある。まるでスーパー銭湯みたいじゃない!!」


 お風呂を見て興奮冷めやらない夏美姉ちゃん。


「どう?温泉を引いてるんだ」

「え!?温泉!?」

「うん、この辺にあったらしくてね。掘ったら出てきたんだ。ちょうどいいから温泉にしてもらったよ」

「そんなことまでできるの……ホントに凄いよ」


 夏美姉ちゃんは温泉と聞いて驚愕する。


 たまたまあった、なんていったけど、実は調査して温泉がある場所を探してその土地を交渉して買った。


 それもこれも夏美姉ちゃんに温泉に入って欲しかったがためだ。夏美姉ちゃんが喜んでくれているようで何よりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る