第7話 特待生制度

1996年8月27日(火)


「載ってないか……」

部室に置いてあった陸上の月刊誌を見る。

そこには期待していた名前は無かった。



小山さん……未だ怪我から復帰できていないのかもしれない……。



月刊誌を見ていたら丸山先輩が部室にやってきた。


「あの……。この雑誌って?」

手に持った陸上の月刊誌を丸山先輩に見せる。


「あぁ。俺が個人的に買ってるんだがな……。

他の部員も見ると思って古いのは部室に置いてる」

丸山先輩の私物だったらしい。

部室に部活に役立つ私物を置いてくれるとは……。

筋肉フェチである事と

デリカシーが無い事を除けば

丸山先輩は本当に、尊敬すべき先輩である。

でも砲丸競技に誘ってくるのは止めて欲しい……。


「2,3ヶ月前の借りれますか?」


「家に有るとは思う。持ってこようか?」


「お願いします」


「タイムか?」


「あっ。はい」

その辺りに過去のインターハイ地区大会「突破のタイム」やら

主要競技大会の記録が載っているはずだ。

最新のを知っておきたい。

ただし確実に15分は切らないと駄目だろうけど……。


「あの。それと。質問がありまして……」


「何だ?」


「大学のスポーツ特待生の話です」


「ふむ?」


「どれくらいの成績が必要なんですか?」

高校入学の時も特待生は狙っていた。

けど、あんなウワサがたてば無理だった……。


「スポーツ特待生か……」

丸山先輩が腕組みをする。

190cmはある高身長の丸山先輩が

腕組みをすると流石に迫力がある。


そして少し悩んだ風で丸山先輩は切り出した。

「修めた成績にも依るんだがな……。

一応、ウチの部活からも昔、特待生で大学に行った人もいるにはいる。

ただ……全国大会に出場していたはずだ。

県大会上位の成績でもできなくはない。

まぁ。そういう場合は県外の知名度が無いから

地元の大学に限られる事が多いとも聞いている」


「鬼塚。お前は学業の成績もそれなりだろう。

どうして特待生を目指してるんだ?」


「……自分は勉強よりは走ることの方が優れていると思います。

それに、陸上で頑張りたいと思っています」


「それだけか?

一般入試からでも大学は入れるんだぞ」

見透かされている気がした。


「……特待生になれば、授業料がいくらか免除されることがあると

聞いたこともあったので……」


「そうか……。授業料免除狙いか……。

そうなると本当に修めた成績で変わってくるぞ。

全国大会の上位レベルまで行くと

授業料が全額免除とかもあるんだが……

それこそ、インターハイで上位とかだな。

県大会レベルだと半額免除とか4分の1の免除だったりとか

成績によって変わるはずだ。

まぁ。学校によっても変わるんだがな。

ただし修めた成績が良い方が

免除額が大きくなるというのはどこも変わらんがな……。

しかし。そうだな……。

こういうことは久我山先生に相談した方がいい」


「久我山先生……ですか」

サボり気味の陸上部顧問クガセンのことである。


「……お前達。1年の評判は悪いのかもしれないが

あれでしっかりした先生なんだぞ」

露骨に少し遠慮したい顔をしたからだろう……

丸山先輩から苦言を呈された。


うっ。

裏でクガセンとかあだ名付けて呼んでるのとか

バレてそうだな。

でもあんま部活こないんだよなー。

あの先生……。


「鬼塚。頼るべき人は頼れ」


「わ。分かりました」

そう答えるしかなかった。


高校入試の時にも特待生制度は調べていた。

大学入試にも特待生制度はある。

……。

親父はしきりに大学へ行けという。

何故、親父がそう言うのかもわかる。


高卒の親父は出世が出来ず、

大卒の社員にいいようにこき使われているからだ。

息子の俺に同じ目に遭わせたくないんだというのは痛いほどに分かる。


ふぅ。

ひとつ大きく息を吐いた。


よしっ! クガセンのトコロに行きますか。

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特待生制度……

スポーツ、学業等で優秀な成績を修めた者が学費等の面で特別な待遇を受ける制度。

基本的に私立校での制度であったが国公立の大学法人化等に伴い、国公立大学でも導入する動きがある。

学校ごとに制度(選考基準、不祥事などによるはく奪、他奨学金制度との併用不可等)が異なるので注意が必要。

最近では各大学ホームページ上に特待生制度についての詳細が記載されているケースが多い。

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