第30話 腫れ物扱い

1996年6月27日(木)


テニス部内の1年男女が仲が悪いと聞き、

それとなく関係者に証言を求めまてみました。


テニス部1年女子Aさんの証言

「テニス部の1年男子!? 最悪。あんな奴らと話もしたくないわ」


テニス部1年男子Nさんの証言

「そっ。そんな仲悪いなんてことねーよ」




……。分からん!

すっぱり、さっぱり分からん!!




それとなくアカリと丹波に聞いてみたが

ますます訳が分からなくなった。


こういう話はアイツに聞くに限る。

校内での交遊関係の広さ、そして校内事情の詳しさで言えば

あの"腹黒イケメン"以外に俺は思い浮かばなかった。




「おーい! トモサカ」

休み時間にトモサカの教室を訪れる。

トモサカはクラスの奴と談笑していたが構わず話しかけた。

怯えた目や白い目で見られる。

……もうこんな視線にも慣れっこだ。

自分のクラスではこういった視線も減ってはきた。

だが、まだ他のクラスに行くとこの洗礼を浴びていた。


「暇になったらでいいんでどこかで話できないか」

別に割り込もうとは思っていない。

約束さえ取り付けられればいいと思っていた。


「話って何だい?」

トモサカが聞き返してくる。


「テニス部の1年の話」

途端に、トモサカの周りの奴らが神妙な顔つきになった。

やっぱ何かあんのか? テニス部?


「うーん。今日の帰りに話でもしようか?」


「わかった。放課後。コンビニで」

そう言って俺は自分の教室に戻った。




自分の教室に戻り次第

アカリに「今日は一緒に帰らねぇぞ」と伝えた。

アカリは「そんなのワザワザ言わなくていい」と返してきた。




放課後。

コンビニでトモサカを待つ。

そしてトモサカが現れた。


「じゃ。帰り道の途中にある公園にでも場所を移そうか」


コンビニを出て歩きながら俺達は話し続けた。



「勉強会は上手くいってるのかい?」

トモサカが聞いてきた。


「まぁまぁだよ。結果は次の期末テストを見てくれ」


「中々に自信があるみたいだね。

過去問を渡した甲斐があるよ。楽しみにしてる」

そう言ってトモサカが笑う。


「おう」

勉強会でのアカリのお小言が減ったの確かだ。

後は結果を出すだけだ。


「それで。なんでまたテニス部の事を聞くんだい?」


「んー。清水さん。調子おかしかっただろ。それなのかな? と思って」


「そういうことか……僕は違うとは思うけどね。

カズは部外者になる訳だけど、立ち入るのかい?」


「……。まずは状況把握だ。何が起きてるかもわからないまま

 首を突っ込むつもりは無え。

 ……だからトモサカ。お前に聞いてる」


「なるほど」


「ただ丹波とアカリにも聞いたんだけど、要領得なくてな……」


「丹波に聞いたのか?」


「まぁな」


「どこで、何って聞いた?」


「えっ。どこでって……。

普通に教室で、テニス部1年の男女って仲悪いのか? って聞いたら、

別に問題無いってあいつは答えて……」


「ストレートに聞きすぎだ。それに教室内で尋ねたら、丹波ならそう答えるよ」

トモサカが薄く笑って答えた。


「? 聞いた場所が悪いのかよ」


「どう説明しようかな。

そうだな……。例えばテニス部1年の男女の仲が悪く、

内部分裂していて統制が取れていないという話が広まった場合、

だれがその責任を取らされると思う」


「えーと。顧問の先生とか先輩とかか?」


「その通り!

だから仲が悪いとは言えないんだよ。

実際に悪いとしても」


「なんだそりゃ。そんな理由かよ。

じゃ。あいつも仲が悪いことは把握してんのかよ!?」


「丹波は長いものに巻かれるタチだからね」

上の人に迷惑を掛けたくないというより

怒られたくないとかそういった感じだろうか?

悪いものは悪いものだろうに……。

ただ……ふと思い出す。

網付けた時も先輩からおこぼれ貰うって言ってたっけ。

アイツはそういうタイプなんだろうな。


「悪いものを悪いと言わずに取り繕ってどうすんだよ?」

俺にはサッパリ分からない?


「……。君の竹を割ったような性格は僕は割と好きなんだけどね。

世の中にいる人がみんな君みたいなら、色んな問題も解決するかもね……」

トモサカが苦笑しながら続ける。


「どういうことだよ?」


「僕も君も見ただろう?

悪いものを悪いと認めずにのさばらせた結果を……」


「……」

言われて気付く。確かにアレはそうだった。

誰かが止める事が出来たはずなんだ。

だけどそれを大人達がしなかった。

……。そして被害が拡大した。


「悪いものを悪いと言えば

誰のせいでそうなったのかという責任問題が必ず出てくる。

だがその責任は負いきれない。負いたくない。

となれば隠す。そういう人が多いんだよ」

……。馬鹿みたいな理屈だ。


「ただ丹波は僕のところにも相談に来たんだ。

『仲が悪いのをどうにかしたい』って。

それで僕も多少絡んでる」

丹波はトモサカのところに相談に来てたのか……。


「でもさ。結局なんで仲悪くなっちまったんだよ?」


「うーん。ここからは、約束が必要だな。口外しないと約束できるか。カズ」


「あぁ。いいぜ。元々俺は友達が少ないから大丈夫だ!」


トモサカはその言葉に苦笑しながら話を続けた。

「それと話はプライベートなところに及ぶから個人名は控えるよ」


「おう。いいぜ」


「続きは公園で話そうか、込み入った話題だから、周りに人がいない方がいい」

周囲を見渡すと下校中の生徒が確かにいた。



少し寂れた公園のベンチに俺達は座る。

昼間は家族連れも来るんだろうが、

すっかり夕方から夜に変わろうとしていて

周りに人の気配は無かった。


「ほい」

近くの自販機で買った缶コーヒーをトモサカに手渡す。

俺の手にはいつも通りアクエリ。


「うん。有難う」

そう言いながら、トモサカはコーヒーを一口飲んだ。


「じゃ。聞かせてもらっていいか?」


「よくある話と言えば、よくある話なんだよ。

テニス部男子が女子の点数付けと女性蔑視と取れる発言をしてしまって

それを女子に聞かれたんだ。

……最悪な形でね」


「点数付け?」


「顔は何点、体は何点、性格は何点とかさ。

そう。よくあると言えばよくある話なんだが……。

それに加えて、アイツは処女だとかヤリマンだとかビッチだとか

挙句の果てには公衆便所だとか

すぐヤラセテくれるはずだとかね。

ま。そんな感じの話を彼等はしていたんだよ」


「……。それを女子に聞かれたのか?」

そういや。丹波と一緒に作業した時もアイツはそんな話をしていたな。

あの時、止めさせとけば……。とも思ってしまう。


「そう」


「そりゃ。まぁ。仲も悪くなるか。

けどそれだけだとテニス部内の話だろ。

トモサカ。何でお前まで絡んでるんだ?」


「うん。まぁ。テニス部内の話だけで済めば

僕も手を出さないつもりだった。

けど。さっきの話だけどテニス部男子が話していたのは

テニス部女子だけじゃ無かったんだ」


「んじゃ。全校生徒?」


「いや。流石にそこまでじゃない。1年女子までだな。

だけど。同中の女子の過去の話……。

いじめとかも含めてテニス部の外に漏らしてしまったんだ」


「過去の話?」


「そう。同じ中学出身の女子の話で、話には信憑性がどうしてもあった。

ヤリマン。ビッチ。……。

そういうふうに思わせるには十分な内容だった。

その子はそれに関して、中学でいじめにもあっていたんだ。

触れられたくない過去だったんだと思う。

だがその話をテニス部男子は外に漏らした。

そしてこの高校でもいじめ……とまではいかないと思うが、

少なくとも腫物に触れるような扱いを受けるようになってしまったんだ」


「つまり、カズ。君と同じだよ」

トモサカが申し訳なさそうな顔をしながらそう告げた。

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