第25話 カズの恋愛観

1996年6月24日(月)


帰り道のコンビニ。


今日の遠藤との勝負は

1000m×4本。4本とも勝ったが、1本やばかった。

まぁ。こういう日もある。

何とか今日もアクエリを頂く。


コンビニの外に出てアクエリを飲みながら

アカリと清水さんを待っていたら、

高宮から声を掛けられた。


「鬼塚君。ちょっとお願いが……」

珍しいな。高宮が頼み事とは……。


「うん。何だ?」


「出来れば明日の部活で……」

高宮から頼み事を聞く。

うーん。出来ない事では無いが、

一応、陸上部の顧問のクガセンに断りを入れんと駄目かなとも思う。


「クガセンが良いって言えばいいよ」

高宮に俺はそう返した。


「大丈夫。今日久我山先生に話したら良いよって言わてるから」

まぁ。クガセンならそう言いそうだ。


高宮は遠藤が俺の近くにいる時に頼んできた。

そんな中では当然、断りづらくなる。

元々断るような頼み事では無かったけれど……。

ただ、それを狙ってやってたとすると……。

高宮も頼み上手だなぁと思う。

それに前もってクガセンに断りを入れてくるあたり

しっかり先回りしてくるなぁとも思う。


案外したたかなんだよな。高宮は……。


それは今日の昼休みの出来事を見てもそう思う。


遠藤は抜けてる事が結構あるし、

ま。俺も相当抜けてることは否定しないのだが、

しっかり者の彼女で良いんでないの?


「あっ。そうだ。愛川さんが

帰り道に色々と質問してくると思うから、素直に答えてね」

と高宮が別れ際に言葉を残してきた。

何だろう? 質問って?



あー。しかし、うらやましいねぇ。

遠藤と高宮の二人を見送りながら俺はいつものようにそんなことを考えていた。



さて。今日、清水さんとアカリは来るのかな?

昼休みの勉強会を思い出す。

清水さんは顔を真っ赤にして図書室を出て行ってしまった。

高宮の言葉を察するにアカリは来るんだろうけど……。


うーん。

恥ずかしくて来れないとかあるかもね……。


しかし俺の心配は杞憂だった。

清水さんとアカリはいつも通り二人連れだって

コンビニに来た。

何かいつも通りみたいな感じかな?

喧嘩するほど仲がいいってことなんだろうか?


ただ、清水さん会うなり昼休みの一件を謝ってきた。


「気にしてないよ」

と俺は答えるが。何か他に気の利いた言い方があるんじゃないかなと

思いながらも口にすることはできなかった。


3人で連れ立って下校するも、少し場の空気が気まずい。


そんな中、

「カズってさ。浮気とかする人?」

はいぃぃぃー!?

いきなり何だー?

アカリがトンデモナイコトを聞いてきた。

予想の斜め上過ぎる。

何かの誘導尋問か? これ?

高宮、お前、昼休みのあの後にアカリに何言ったんだよ!


「いや。浮気とかいう前に彼女すらいねぇぞ……」

俺は当たり障りのない、残念な事実を口にすることにした。


「まぁ……。それは知ってるんだけど」

アカリが得意げな顔をして続ける。

うん……。その顔ムカつく。やめれ!


「アカリちゃん!!! 失礼です!!!!」

清水さんが怒ってる。


「聞いてみただけじゃない?

それに、浮気する人として見てると言ってるわけじゃないでしょ!?」

まぁ。微妙なラインだ。

浮気するかどうかを聞いているだけで

浮気するような人だと見ていると言ってるわけじゃないからな。


「そっ。それは、そうですけど……」

清水さんが答えに窮する。

できれば昼休みにアカリをやり込めたように

再度アカリをやり込めて欲しい。


「じゃ例え話にしましょう。カズ。

あなたにはすでに付き合ってる人がいたとします。

けど他に気になる子が現れました。

あなたならどうする?」

アカリがなおも詰め寄ってくる。

高宮、ホントにアカリに何吹き込んだんだよ。


「いや。どうって。今まで付き合ってた子とそのまま付き合うんじゃねーの?」


「どうして? 二人とも付き合うとか、乗り換えるとかしないの?」

アカリがさらにトンデモナイことを言う。


「あんまり。分かんねーんだけどさ。

その今まで付き合ってた子も嫌いになったわけじゃ無い前提なんだろ?」


「うーん。そうしときましょう」


「だったら。その子と別れるのとかは無いし、それに……」


「それにー?」

アカリが興味津々に聞く。


「こういうのを陸上と同じように考えちゃダメなんだと思うんだけどさ。

俺はそんな器用に二人とか三人とか付き合える奴じゃないと思う」

遠藤が聞いたら、また鬼塚は陸上に例えて……とか言いそうだ。


「中学でさ。俺。三種競技やってたんだよ。

アカリは知ってんだろ?

短距離と高跳びと砲丸投げ。

やってたんだよ。

でもどれもなんか中途半端な感じがしたんだ。

全部上手くやれるような、そんな器用な奴じゃなかったんだ。俺は」


「恋愛も一緒って言っちゃおかしい気がするけど。

一人にしないと俺は駄目な気がするんだ。

上手くいかないと思う」


「それに好きな人が二人できて、

二人ともと付き合うって言ってもさぁ。

なんかそんなことしたら、好きな子二人。

その二人両方に辛い思いをさせる気がするんだよ。

だから俺は一人としか付き合えない……と思う。

未だ誰かと付き合ったわけじゃ無いから分かんねぇけど……」

素直に俺は答えた。

高宮からも素直にって言われてたしなぁ。



途端にアカリが満足げな笑みを見せる。

そして清水さんに目配せのようなものをする。



何だ!? 

何なんだ!?



「フフフっ。カズって何か犬みたいね。忠犬って感じ」

なんだとっ!

アカリから人間扱いすらされなくなるのか俺は!!

遂に俺は犬畜生にまで堕ちた扱いを受けるのか!!!


「あッ。アカリちゃん!!! それも失礼!!!」

清水さんが非難する。

なんか顔が真っ赤だ。


「ミサキー?

私は犬みたいって言っただけで、

犬になれとか、犬ねとか言ったわけじゃないでしょ?」

得意げにアカリが話す。

残念ながらアカリの攻勢が続いてしまう。


「うぅー」

清水さんが唸る。

どうにも清水さんの旗色が悪い。

口喧嘩でアカリに勝つのは大変骨が折れる。

そう。無駄に頭が回るのだ。アカリは……。


「なんだよ。俺に"三回周ってワン"とか"お手"とかさせたいのかよ」

アカリと高宮の意図がイマイチ分からん。


「私じゃないわよ。させたいのはミサキよ!」

はぁーん!?

清水さんが!?

言葉を聞いた瞬間に清水さんを凝視してしまう。


「ち。違います。違います。私はそんなこと考えてません!」

清水さんが手を大きく振って

慌てながら否定する。


「ボールとか拾ってきてほしいのよねー。ミサキは」

あー。そういう意味か。

道端に出ちまったテニスボールは今でも拾ってるからな。

清水さんは仲良くなった今でも丁寧にお辞儀してくれてる。

正直、嬉しい。


「タイム測ってる時とか以外は拾ってるぞ」

そう言いって、アクエリを一口飲む。

練習がジョグの時は拾ってる。


「それもあるけど。それだけじゃないのよねー」

アカリが続ける。


「?」

何なんだ?

俺に何をさせたいんだ?


「添い寝して欲しいとか……」

アカリが続けてとんでもないことを言う。

飲んでいたアクエリを思わず吹き出しそうになる。

ヤベー。

ヤベー。

女子に向かって吹きそうになるアクエリを俺は何とか飲み込んだ。


「アカリちゃん!!!!」

清水さんが身を乗り出してアカリを非難する。

これは非難していい。

というか高宮はホント何をアカリに吹き込んだんだ?


「ごめんごめん。ちょっとからかっただけじゃない」

いや。ちょっとどころじゃねぇぞ!

危うくアクエリ吹くとこだぞ!


「カズって"忠犬タロ"って感じ」

アカリがなおも続ける。


「それいうなら"忠犬ハチ公"だろ!」

流石に俺でも知ってる。


「タロで良いのよねぇ。……。ねぇ。ミ・サ・キ!?」

アカリはそう言って

顔に笑顔を浮かべて

清水さんに同意を求めた。


「アカリちゃんの意地悪……」

清水さんが顔を臥せって、不満を口にしていた。


「??」

アカリの会話の意図がマジでよく分からん。

高宮も裏で手を引いてるようだし。

清水さんは何か分かっているようだが……。


俺一人だけ蚊帳の外じゃねー? これ?

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