第24話 清水さんが怒った!?

1996年6月24日(月)


小テストを始めてから2回目の勉強会が終わった。

説明に疲れた……。

次の授業まで少し時間は余っている。

といっても5、6分ぐらいか?


今日も図書室に早く来て、清水さんの表情を見ていたけれど

何か大丈夫そうかなという気はする。

……高宮と笑いながら現れたぐらいだしな……。

ちなみに俺は高宮に金曜日のこともそれとなく聞いていた。

清水さん金曜日どうだった、大丈夫そう? という質問に対して高宮は

鬼塚君が大丈夫なら、清水さんも大丈夫だと思います、という

訳が分からない返答をしてきた。

んー。どう解釈していいかわからん?


「あの。私から少しいいですか?」

清水さんが手を挙げながら話し始めた。

大丈夫そうだな……。

勉強会でも自ら発言する意思を見せているし。


「小テストを始めるようになって気づいたんですが、

テストは白紙にしないで

分かるところまででいいので

出来るだけ書くようにして下さい」

と言って今日の小テストで使った化学の問題を出した。


遠藤の答案だ。

なるほど……。

8割ほどの問題は回答が書かれてあるが、

回答が白紙の部分が確かにある。


「いや。ちょっと分からなくて……」

遠藤が答えに窮しながらも答えた。


「でも。鉛筆で書いて、消しゴムで消した跡があります!」

清水さんは強い口調で主張する。


よく見ると遠藤の答案には

何か書いてあって消したような跡があった。


「あの。つまらない間違いをすると。その……」

遠藤がしどろもどろで答える。


「間違えていいんです!」

清水さんは語気を強めた。


「どこをどういうふうに間違えてるかが分からないと

遠藤君が何をどう考えて間違えたのか

私も分からないんです!!」

確かに清水さんの言う通りだ。

昨日の俺の授業でも遠藤と高宮の間違いを例に挙げた。

そう、具体的な間違いが無いと

どういう思考過程で間違えたかが分からない。


「あの。だから……。それは……つまらない間違い方だと……」

遠藤はそう言ってアカリを見た。


「えっ。何? 私なの?」

アカリが少し驚く。


「その『脳みそ腐ってんじゃないの?』とか言われるから……」

遠藤は声を小さくしながら、

そしてその身を縮こませながら答えた。

確かに俺も遠藤のその気持ちはわかる。


そしてその遠藤の返答に清水さんはアカリの方を向きながら

さらに語気を強めた。

「ほら。やっぱりそうじゃないですか! アカリちゃん!!

アカリちゃんが意地悪言うから、

みんな委縮して間違いが書けないんじゃないですか!!」

清水さんが珍しくお怒りだ。

しかもその怒りがアカリに向いている。


「えっ。ちょっと。私は……その。こいつらを発奮させようとして……」

アカリが言い訳を始めた。


「そんなの言い訳です!!」

清水さんが仁王立ちになりながらアカリに詰め寄る。


「……。そうですね。なんだかお小言が多いお局様みたいですね」

高宮までもが涼やかな口調で、だがはっきりとアカリに嫌味を言った。



おぉ!

なんということでしょう!!

高宮までもがアカリを非難し始めたぞ。



「えっ。ちょっ。ちょっと。なに。シオリまで……」

あのアカリがタジタジになりかけている。



思わぬ展開に

俺はワクワクしてしまう!!

いいぞ!いいぞ!

清水さんもっとやれ!!!

高宮ももっとやれ!!!



「男子も男子です!!!

言い返さないと駄目です!!!」



うそーん!?

清水さんのお怒りが

こっちに来たー! 来てしまったー!!



「あー。いや。その。だから……。

アカリを見返そうとは思っててさ。

まぁ。あまり口には出さなかったんだけど……」

遠藤と同じく俺も、しどろもどろで答える。


「だったら。私のアレで良かったんじゃない?」

アカリがすぐさま言葉を返してきた。

しまった!

俺の不用意な一言が、アカリの落ち着きを取り戻させてしまった。

『私の暴言があんた達のやる気を出させたんでしょ』と言わんばかりである。

アカリを擁護してしまった。

奴め! こちらをみてニヤリとしている。

くっそう。抜かった!


「ものには言い方が有ります!

あれは暴言です!!

人を傷つける言葉です!!!

言ってはならないんです!!!!」

おおぅ。

清水さんがなおもお怒りだ!

あのアカリが押されている!!

普段温厚な人が怒ると怖いっていうけど

まさにこれがそれか!!

だがしかし、清水さんが言ってる事は正論なのだが、

場所が悪い!

ここは図書室だ。

周囲がざわつき始めた。

図書室内で注目を浴びて始めてしまっている!!


そんな中、近くで勉強していた図書委員さんが

清水さんに近づいてきた。


「喧嘩かしら?」

図書員さんがスッと清水さんの横に立ち、告げる。


「貴方達のは見ていて面白いけど

残念ながら図書室では喧嘩も認めてないのよ。

それと、もう予鈴が鳴るわよ」

そう言いながら、優しく清水さんの頭をポンポンと叩いた。

それと同時に、清水さんの顔が急速に赤くなっていった。


「あ。あの。その。皆さんごめんなさい。

私、その。周りが見えなくなっちゃって」

清水さんが謝罪する。

いや。むしろ謝らないといけないのはアカリだと思うのだが……。


「でも。間違いは恥ずかしいものじゃ無いんです。

しっかり残して。何で間違えたか分かるようにしないと。

結局、また同じ間違いをしてしまうので……。

そっ。それじゃ。教室に戻りましょう」

最後の方は早口になりながらも喋りきり、

素早く荷物をまとめ、清水さんは逃げるように

図書室を飛び出してしまった。


「間違いの記録が正解の為の、第一歩……

ということを言いたかったのもあるのでしょうけど……」

高宮がそう呟き、

「愛川さん。教室に戻る途中で少しお話しましょう」

アカリを誘った。


「え。えぇ……」

アカリもそれに頷き、二人で図書室から離れていった。


男子2人がとり残された。

「なんだ。これ。女の争いってやつか?」

遠藤に振ってみたが、

遠藤も肩をすくめて、お手上げのポーズをしていた。


「貴方達もしっかりなさい」

同じく残っていた図書員さんから俺達はたしなめられた。

と言われても、俺達は何が何やらの状態だ。


図書委員さんは薄く笑いながら

「好きな人の悪口を言われたら腹も立つものよ。

貴方達もそうじゃない?」

とだけ答えた。

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