第20話 カズと数学

1996年6月20日(木)


よーし!


自宅の勉強机に噛り付きながら、少しだけガッツポーズを取る。


明日、昼休みにやる分の小テストはとりあえずやった。


間違えているのもあるが、数学以外はほっとく!


自分が担当する数学だけは全ての問題について説明出来なければならない。





数学の小テストにある問題は間違いなく、解けるようになった。


というか解答と解法自体を覚えてしまった感じだ。


んー。いや。


他人に説明出来無いワケは無いが……


これでは駄目だと頭の中で"警報"が鳴っている。


陸上でもそうだが……


"何だかマズい気がする"というのが感覚的に働いている。


それには逆らわない方が良い。


何がマズいんだ?





何でこの解答になるのかというのと


解法そのものを丸暗記してしまっていることが


"不味そうだ"




うーん。……。


解答と解法をそのまま勉強会に提示するなら、それでは意味が無い。


"解答はあるのでそれを見て下さい"で


事足りてしまうことをワザワザやってるだけになる。


これじゃ意味がねー。


解答に音声が付くだけだ。





今やっている単元は二次関数、それの移動や、最大最小を求める問題が続く。


もう一度、解答を見る


解答にあるのは正解に至る数式とグラフ。


悪く言えばそれらのみ。


そして次に自分が間違えた解答をみる。


関数の移動の問題で一度間違えていた。


自分が何故間違えたかを考え直してみる。





ある関数をY軸方向にdだけ移動する。という問題。


ある関数とは y=f(x)=ax2+bx+c (※2は二乗)


y軸にdだけ移動だから


yにy+dを代入すればいいんだろ、として計算して間違えた。





正解はy+dでは無く、元ある関数のyにy-dを代入したもの。


何でこれが正しんだと思ったけど。


参考書とかを見直してみたら分かった。


自分なりの考えとしては、


どういう関数になっていれば良いのかの具体的なイメージ……


これが出来てなかったことが間違えた原因だ。






元の関数にx=0を代入すれば、y=f(0)=cになる。


つまり元の関数は(0、c)という点を通る関数だ。


関数上のこの点もY軸方向にdだけ移動するわけだから


この点は(0、c+d)に移動していなければならない。


だがy+dを代入した関数では


xに0を代入すると、(0、c-d)を通る事になる。


だからこれは間違いだ!




この問題を解く際のポイントは2点。


①関数上のある点だけを考えて、その点が有る量へ並行移動したら、

どの位置になるのかを考えておく。

移動させた関数が出来たら、実際にその位置になかどうかを計算の上、確認する。


②①が分かり易くなるようにグラフが平行移動した際のグラフを書いておく、

または頭の中でイメージしておく。


この2点だ。




ただ、ある参考書の解法にはY軸方向にdだけ移動するのであれば


yにy-dを代入すれば良いとだけ書かれてある。


だがそれを丸暗記するのは間違いやすい。


移動したらグラフとかその関数上の点がどうなるかをイメージして、


変形した関数がイメージ通りの関数になっているかどうか確認しながら、


解くやり方じゃないから


間違えやすいんだ!




てなわけで……。


この問題はグラフを描いて


関数や点がどう移動するのかを見ながら解くと分かり易い。


これだな。これでO.Kだ。


よしっ! 頭の"警報"が消えてきた。




あとは……。


他の問題も見渡す。


うーん。解答はあるんだけど、数式の展開が途中で端折られているものがある。


紙面の都合だろうけど、端折られると分かんなくなることあるんだよな。


陸上といっしょ。


コマ送りでフォームを見た方が分かり易い。


動画での速いフォームなんて解釈出来ねーことがある。


スローか静止画できっちり追う。これが大事。


うーん。解答にも数式があるが、


途中が端折られて分かり易いものじゃ無い。


早送りで陸上見てるようなもんだぞ。これ。


全部、展開したものを作っておこう。




それと解答にあるグラフも問題だな。


少し小さくて見づらい。


グラフも書き直して準備しておこう。


昼休みの時間も限られてるし、前もって作れるものは作っておこう。




と思ったが、やべ。


ノートが足りなさそう。


あー。コンビニ行って買ってくるか、でも20分ぐらいかかるし……。


時間のロスだなー。


うーん。あ。


お袋が新聞のチラシの裏まとめてメモ用紙にしてたな。


あれをもらおう。




こうして鬼塚の数学教師としての夜は更けていった。

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