第18話 燃える男達…ただしコンビニで

1996年6月20日(木)


「とりあえず、明日の勉強会までの分の小テストは印刷したから」

遠藤が小テストをコピーしたものを女子三人に配っていた。


俺達五人は部活後に学校近くのコンビニに集まった。

俺と遠藤は小テストと過去問を印刷しまくっていた。


「そ。ご苦労様。じゃ。後はお願いね」

アカリが素っ気なく答えた。

これから未だ印刷していない小テストと期末テストの過去問も印刷することになっている。残り一人100枚弱×五人分、よって全部で約500枚の印刷、

そしてその仕分けである。


毎日やる分の小テストを前日に印刷することも考えたが、

前もって印刷していた方が良いという事になった。


テスト前までにトモサカにキングスファイルは

返却しなけばならないこともあったし、

期末テストは恐らく7月8日ごろから

もうあと18日間しかない。


テスト前近くになると

ノートのコピーや、過去問の印刷で

コンビニのコピー機の前には行列が出来る。

であるならば、前もって空いてるときに印刷した方が良いとの判断だった。


「えっ。手伝わないの? アカリちゃん」

清水さんが非難めいた言葉を口にする。


「頭を使えない奴は、体を使いなさい!」

アカリが俺と遠藤に向かってピシャリと言い放つ。




……言い過ぎという人もいるかもしれない。


……だがある一面では正論なのだ。


……出来ない奴は出来ない奴なりに役に立たねばならないとは俺も思う。




「行きましょう。ミサキ、シオリ!

コピー機は一台だけだし、

人数が増えても、作業時間は短縮できないわよ!」




……悔しい事にそいつも正論だ。




印刷する人間が一人。

そして印刷物を仕分けする人間が一人

これで事足りる作業なのだ。


……コピー機が2台あれば話は別かもしれないが。


「ちょっと外来て!」

アカリが清水さんと高宮をコンビニの外に連れ出した。


コンビニの外で女子三人が話し込んでる。

なにやら揉めてるようだ。


「……とりあえず、俺達は俺達でやるべきことやろうか?」

俺は遠藤にコピーの続きをやろうと声を掛ける。


「そうだね……」

遠藤が応じた。



印刷物が大量の為、

他にコピー機を使いに来た人には、

「僕達、大量に印刷してるんで先に印刷して下さい」

とやり過ごしながら……


紙が無くなれば、

「すいません。紙が無くなったようなので……補充をして頂けませんか?」

と店員さんにお願いしながら……


俺達は作業を続けた。



しばらくして清水さんと高宮が店内に戻ってきた。

「ちょっと。言い過ぎだよ。アカリちゃんは!」

清水さんが不満を漏らしている。


「うん。流石に言い過ぎだね」

高宮も同意を示していた。


二人は戻ってきたが、アカリは戻って来なかった。



「何かあったの?」

遠藤が二人に声を掛けた。


「えーと。その……」

なにやら清水さんは言いずらそうだ。


「愛川さんは『アイツら。甘えてるって。タダで教えてもらえる事に甘えてる』って言ってて……」

高宮が答えづらそうにしている清水さんに代わって答えた。


「あの。その。アカリちゃんが『アイツらは私達に釣り合ってない。努力が足りない』とかも……言ってて。でも私達はそれは違うんじゃないかって言ってたんだけど……」

清水さんが俺達に気を使ってか、声を抑えてアカリの言葉の続きを話した。




「絶対にアカリの奴を見返すぞ。遠藤!」

俺は怒りに震える拳を抑えながら、残りの印刷物を片付けるべく、プリントをコピー機からスライドさせ、次の印刷物を素早くセットした。


「当り前だ。鬼塚!」

遠藤は悔しさに震える身体を抑えながら、仕上がった印刷物を五人分に仕分けしていた。


二人の男が燃え上がっていた!


ただしコンビニで……。




「はい。これ」

高宮がクリアファイルを遠藤に手渡す。

清水さんと高宮はクリアファイルを買って待っててくれた。

仕分けも少しだけど手伝ってもらった。

そのクリアファイルに五人分の資料を挟み込む。


「「「「出来た!」」」」


四人の歓声が上がる。

時間にしてみれば40分から50分ぐらいの作業だった。


四人でコンビニを出て、帰宅の途に就く。

出てくる言葉は当然のごとく、アカリに対する文句だった。


「女じゃ無かったら、引っ叩いてたところだ」

本音が出てしまった。


「いや流石に暴力は……」

遠藤の声が若干引いていた。

清水さんも高宮も声に出さないが引き気味だ。

俺はうっかり口を滑らせてしまったようだ。

……俺に暴力ネタはマズい。


ただ清水さんはアカリを少し庇った。

「でも。アカリちゃん変なんだよ。

『手伝うのはダメだけど、見守るのは良いんじゃない』って言ってたから。

だから……もしかしたらアカリちゃん。コンビニの外に居たかもしれない……」

また、それを聞いた高宮もうんうんと頷き同意を示していた。


アイツ。いたのか?

コンビニの外に。

いや。まさか。アイツに限ってな……。

俺は頭の中に生じた邪念を振り払い、

絶対にアカリを見返してやると心に誓っていた。



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