期末テストに向けて

第1話 期末テストに向けて

1996年6月7日(金)


中間テストの結果が返ってきた。

惨憺たる有様だった。

なんと、赤点が4つ。


テスト期間中に遠藤の告白の事ばかり考えていて

あまり勉強出来なかったからだ。

俺は基本的に、テストの赤点とかは人のせいにしてはいけない

と思うタイプの人間ではある。

だが今回ばかりは遠藤の告白を手伝ったせいだと思った。

そして遠藤の中間テストの結果も俺と似たようなもんだった。


期末テストの結果が悪ければ

夏休みを削っての補習の危機が訪れていた。


夏休みが……。夏休みが補習で埋め尽くされてしまう。

嫌だ。せっかくの夏休みが……。

そんなことになるなんて。


「鬼塚。僕かなりまずい……」

遠藤もテスト結果にあえぐ。

いや、今回はきみのせいでもあるからね。


「しょうがない。使いたくない手だが、使おう」

遠藤には使いたくない手と断わっておこう。


俺の中にはある決心があった。

テストの結果が全て出そろう前から、

マズい結果になりそうだと予想は付いていた。

その中で自分なりの決心が固まってきていた。


「なにか手があるのか? 鬼塚?」

遠藤が問う。


「頭が悪いならば……頭の良い人に、教えてもらうまでだ!」

カッコ悪い手段だが仕方ない。

中間テストの試験前にも使っていた手だ。

だが今回は通常の授業中からでも使わせてもらおう。

最大の問題点は協力者だが……。


昼休みに図書館での勉強指導を

高宮、そして清水さんにお願いするつもりだ。

簡単な内容を遠藤にも説明した。


「それで高宮にも昼休みの勉強の講師役をお願いしたいんだが、

お前からお願いできないか……

何だったら俺もいっしょに行くけど」

遠藤と高宮さんにお願いしよう。


「彼女。確かテストの順位良かったからね!」

遠藤の声は明らかに弾んでいた。

遠藤め! ウキウキしてやがる!

声がウキウキしてやがる!

なんだ彼女との勉強会でウキウキしてんのか!? こいつめ。


ちくしょう。うらやましい!


この二人付き合ってはいるものの

多少ぎくしゃくしている感はあった。

二人でいっしょに帰っていることもあるけど……。

遠藤はたまに俺と帰る事もある。

で。いつものコンビニでのろけ話を聞かされたと思えば

幸せな悩み事を相談されてもいた。


俺じゃなくて他の彼女持ちのとこに相談しに行けばいいのに……。

とは思うが遠藤は他の奴には相談したくないようだ。



何かあんのかね?



俺は彼女なんていたことないから大した役には立ってないと思うのだが?


後、誘うとしたら清水さんだな。

ただアカリとトモサカについては誘うべきかどうか、悩む。


「高宮さんにお願いに行くなら、二人で行こうよ」

遠藤が声のトーンを上げて誘う。


「まぁそうだな。俺も教えてもらうわけだし」

周囲にアカリがいない事を確認して、

高宮へ二人でお願いに行く。


高宮は二つ返事でO.Kしてくれた。

有り難い。


後は清水さんとアカリだな。


うーん。

とりあえず、清水さんの了承を得てから

アカリに向かおう。

外堀を埋めてから本丸という形だ。

本来アカリはこの昼休みの勉強会に入れたくは無いのだが……。

中間の順位を考えるとどうしてもなぁ。


この高校ではテストの上位が張り出される。

中間テストの結果は


アカリ   3位

清水さん 12位

高宮   20位

遠藤  124位

俺   135位 (162名中)

であった。


この結果を見るとね。

アカリに教えてもらった方が良いことは確かなんだよな。

はぁー。溜息が出るよ。


本来はアカリには直接お願いした方がよいことは分かっていた。

ただ、高宮や清水さん経由でお願いしてみようかどうかを迷っていた。


俺はアカリを勉強会に誘うことを躊躇している。

多くの男子がアカリに告白したことを後悔しているのと同じ想いだと思う。


奴は告白してきた男子の精神を根本から薙ぎ払う。

薙ぎ払った上に踏み潰して、踏み潰して

再起不能にする。

そんな女なんだよな。あれは。


ただし……。

仮に誘わなかったら

誘わなかったで、グダグダ文句垂れそうなんだよな。

アカリの奴……。


高宮と清水さんと遠藤と俺だけで

勉強していたと仮定しよう。

すると……

「なんで私を誘わないのよ!!!」

と怒り狂うアカリが目に浮かぶ。

アカリは高宮と清水さんとも仲がいいからな……。


しかし、教えを請えば、請うたで……

「なんで私があんた達に教えなきゃならないのよ!!!」

となりそうである。


味方にしてもメンドクサイ。

仲間外れにしてもメンドクサイ。

だったら成績いいんだし、味方にしといたほうが無難……という考えもある。

でも正直、あんま来てほしくは無い……。

いろいろと思案し、

一番良い結果は”誘ったけど断られた”という結果であろうと

俺は確信していた。


「本当に愛川さんも誘うの?」

愛川はアカリの苗字だ。

答えてきた遠藤も若干、敬遠気味である。

分かる。分かるぞ。その気持ち。


「巨○兵を前にした○蟲の気持ちだよ……」

分かる。分かるが、ジブ○を持ち込むな!


そういえば、

最近4組のテニス部男子がアカリに引っ叩かれたという噂を聞いた。

アカリにしつこく交際を申し込んだか何かだろう。

私立の中高一貫の学校から移ってきた奴だ。

哀れな奴だ。

アカリの情報を知らなかったのだろう。

見事、横っ面を引っ叩かれたという話である。

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