第9話 体育で怪我をしよう

1996年5月21日(火)


遠藤と打ち合わせした次の日。

遠藤の執念が実ったのか、天気は雨。

あいつは陸上やるよりシャーマンするのが向いてると思う。


しかし5月のこの時期に雨とはね。

北陸だからしょうがないといえばしょうがない。

ただし時期が悪すぎる。


インハイ予選前。


外で満足な練習が出来ない。

3年の先輩方は今日もピリピリするだろうな。

遠藤にとっては恵みの雨かもしれないけど

先輩達にとっては呪いの雨だな。




そして遠藤の望みどおり体育館での授業となった。


内容は予想通り、男子はバスケ、女子はバレーだった。


体育館のど真ん中を簡単に備え付けのカーテンで仕切って、それぞれ男女別々に各々の球技を始める。クラス内で数グループ作って、ローテーションを回して時間いっぱい、プレーする。そんな簡単なもの。


そしてついに遠藤のグループがコートに入った。


バスケでリバウンドというプレーは確実にある。

そのリバウンドの為に、ジャンプした際にバランスを崩して着地。

遠藤が足首をひねる。

そしてその遠藤を保健委員の高宮と一緒に保健室に連れて行く。

というのが遠藤が描いたプラン。


ようするに、

どっかのゴリラ風のキャプテンが試合で足首ひねって怪我して

「いいからテーピングだ!」

とか言いそうな場面を作るという計画。


……。俺。あの漫画好きなんだよな。


そして遠藤がついにリバウンドを獲りにジャンプをし、そして直後にうずくまる。



作戦開始だ!



ややあって試合が止まる。

体育の先生が遠藤の元に向かう。


「足首ひねったのか?」

そんな声が周りから聞こえだす。


「保健委員誰だ?」


俺は周囲のそんな声を無視して、体育館角にある担架を取りに行く。


「保健委員は……。自分です」

遠藤が苦し気な声で、自分が保健委員だと名乗り上げる。



名演技だね。



陸上部より演劇部の方が向いてるんじゃないか?

あれ。あいつシャーマンだったっけ?


担架を取り出すと、今度は高宮を探す。

遠藤の元にいっしょにいかないと。


これが俺の役割、怪我した遠藤に対して

担架と高宮を連れていく。


それで高宮と俺で遠藤を保健室に運ぶ。

こういう筋書き。

だったんだけど……。


「保健室から担架持ってきました」

と他の男子が担架を手に現れてしまった。


あれ。保健室からとってきちゃったの?


「よし。じゃ誰が運ぶかだが……」

先生が仕切りだす。

話が俺達の思惑とは違った方向に進みだす。


遠藤が怪我してないのに怪我したような不安な顔つきになって

キョロキョロしている。



うん。こっち見んな。



「先生。俺。柔道やってて実家も整骨院やってるで、多少医療の心得あります」

嫌な発言をする奴が現れた。


「そうかじゃ。君と君で彼を保健室に運んでくれ」

先生がささっと決めてしまう。

あららららー。



憐れ遠藤君。ムサイ男二人に保健室に運ばれましたとさ。



んー。よく見るとあの実家が整骨院とか言ってた柔道男。

遠藤が休みの時に高宮と話してた奴だ。


あっ。あいつこっち見た。

なんかしてやったぞって顔してる。

これってもしかして……。

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