第8話 どこでいつ告白するか…それが問題だ

1996年5月20日(月)


アレコレ考えてはいたが

時の流れは速く

中間試験前の部活中止期間になってしまった。

試験まで残り1週間だ。

昼休みの図書室利用者も増えている。


昼休みでも図書室へ早く駆け込まないと

お目当ての席が取れなくなってきた。


昼休みにいつもの席に座って思案に暮れる。

うーん。いつどこで告白するかか。

土日が駄目だとすると

平日になる。


平日で自由に動ける時間は

・朝のホームルームまでの時間

・昼休み

・放課後

ま。こんなとこ。


人気のない場所は

・授業の無い部屋

・体育館の裏手

ぐらいか?

この学校は屋上は行けないし。

ただ体育館の裏手は使えないんだよな。

時期的に。


窓の外を見る。

そこには降りしきる雨。


梅雨入り前だが

近頃雨が多い。

北陸は年の半分は雨だからな。


これでは体育館の裏手とかの外では告白できんだろ。

どうすっかなー。


朝早く来てもらって告白しても

他の生徒が早く来たら、バレるっちゃパレる。


部活中に二人だけ抜け出して、うーん。絶対怒られる。

あー。でもトイレに行きますとかいって抜けだせばいいんじゃ?

場所どうする? トイレで告白する?

いやいや。それは俺も嫌だな。

教室まで行くか?

でも放課後で人が残ってるかもな。

人払いするのに俺も部活抜ける。っていうのは流石に妙に映るだろう。


校内に告白する場所や機会は

意外と無い?

うーん困ったぞ。




「ちゃんと起きて勉強しているようですね」

図書委員さんが声を掛けてくる。


「あっ。中間テスト近いんで勉強してます」


「関心!関心!」

図書委員さんがうん。うん。頷いている。


すいません。

実は友達の告白の仕方を考えていますとは

口が裂けても言えない。


「どこか分からないところがあるんですか?」

清水さんも声を掛けてくる。


「あっ。ここの英作が分かんなくて」

一応勉強道具は開いている。


「ちょっと見せて下さい」

書きかけの英文で申し訳ないけど、清水さんに見せる。


「あー。SVはしっかりしてますね。

けどスペルが間違ってるのと。三単現のsが抜けてるのと……」

GYA-!

英語苦手なんだYo。俺。

けど。清水さん優しいな。


「ノートに赤色使っていいですか」


「えっ。いいけど……」

間違えているところ。スペルと三単現のsが赤で書き加えられる。

自然に清水さんと俺との体の距離が近づく。

なんかいい匂いがする。

シャンプーの匂いかな。

ちょっとドキドキしてしまう。


「ちょっと文を書き換えて、こういうのが良いかなと」

添削までしてくれてる。

綺麗な字だ。

俺のミミズが這えずりまわった字とは比べ物にならない。


ツボを加圧され拷問を受けたことは僕達の中ですでに過去の事だ!

優しく勉強を教えてくれる彼女……。



サイコーじゃないですか!



「あのー。鬼塚君。聞いてます?」


「あ。ごめんごめん」

既に清水さんが俺の彼女である四次元空間にトリップしてました。

こっちでは未だに彼女じゃないのがつらい。

というか彼女になってくれるかどうかも分からん。

中間も近いし勉強もしないとな……。


「清水さん。教えるの上手だね」

俺。英語は苦手だけど。清水さんの説明が丁寧だってことは分かる。

問題点と改善点が分かり易い。


「私、先生になりたいな。って思ってて」

そうなんだ。

清水さんが先生か。可愛らしい先生だろうな。と思う。


「あのー。そういえば。これ……」

清水さんが筆箱から、新品の鉛筆を出して渡してきた。

あー。そういや鉛筆あげたね。


「この前頂いてしまったので……。新品をお返ししようと」


「鉛筆なんて安いから、別によかったのに……」

本当にそう思いながらも鉛筆を受け取った。

行儀がいい子だと思う。


ま。まずい。胸の内に苦々しくて、甘酸っぱいものがこみ上げてくる。

俺は鉛筆を受け取って、それをそそくさと筆箱に入れた。

緊張している事を気付かれたくなかった。




その日の放課後。

部活はテスト期間一週間前で休みだけど、

放課後の遠藤との告白相談は続いていた。


雨が降ってるからコンビニの駐車場が使えないのが難点で

人が少なくなってからの教室で相談していた。

横では試験前の小さな勉強会が開かれていて

俺達は小声で打ち合わせをしていた。


「いい案が思いついたんだ。ちょっと聞いて欲しい」

遠藤が何か思いついたらしい。

周りに人がいるというのに興奮気味だ。


「どんなだ?」


「まず前提条件だ。彼女は保健委員なんだ」


「ふむふむ」


「そして近頃は雨で男女ともに体育館で体育をすることが多い」


「そうだな」

最近は体育館で、男子はバスケ、女子はバレーをしていることが多い。

晴れてれば男子は外でサッカー、女子は体育館でバレーかバスケかな。


「ここからが案になる。これらの条件より、体育の時間にわざと怪我をした振りをすれば彼女同伴で保健室に行けるんじゃないかと……」


「でもさ。そういうのって、男子の保健委員が連れてくもんじゃない」

俺は冷静に指摘した。


「ふふっ。男子の保健委員は……。この僕さ!」

親指たてていうセリフじゃないぞ。遠藤。

そして、露骨に白い歯を見せるな。

心の中で俺は突っ込まざる得ない。


けど。思い出したわ。高宮が保健委員の立候補した時

男子の保健委員の立候補者がすげー多かった気がする。

じゃんけんで決めてたと思うけど、決まったのは遠藤だったか。


「あー。なるほどね。男子の保健委員の代わりに女子の保健委員が連れてくと」


「名案だろ」

遠藤が得意げにしてる。

いや寧ろ、告白するお前がちゃんと考えないと駄目なんだけどな。


「でも保健室にも先生いるんじゃないの?」


「この体育の時間は打ち合わせで不在のはずなんだよ」


「そうなの?」


「保健委員だからね」

先生の予定まで把握してるんかい。こいつは。

その熱意を別のところに使った方が良いんじゃないのと思う。

ま。陸上は頑張ってる方だがね……。


「それに僕自身、保健室には何回かお世話になってるし。間取りも把握してるよ」

その中の1回は俺がお前を運んだんだよ。


「どこのカーテンで仕切りを作ろうかとかも決めてある」

うわー。それは流石に考え過ぎだろう。


「ま。まぁ。いい案じゃないか」

俺が手を煩わせる必要が無い良い案じゃないか。


「それだったら、俺は協力することが無いな。一人で頑張れよ」

そっけなく帰ろうとする。


「いや。協力してもらう事はある!」

しかし遠藤は食い下がってきた。


「うぇっ!」


協力内容を聞くと上手くいくかもなー。ぐらいの案だった。

でもこれ以上長引くとメンドクサイし、とりあえず協力することにした。


ただまぁ。世の中そんなに上手くいかないんだよね。やっぱり。

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