第7話 告白相談 with アカリ
1996年5月14日(火)
次の日、俺は遠藤から付せんのコピーを受け取った。
確かに黒猫が描かれた付せんに"早く元気になってね"と書かれてあった。
そして休み時間中、高宮が席にいないときに
ノートの文字をチラッとみた。
確かに字が似てる……。
付せんも同じものを使っていた。
多分彼女が書いたものだとは思う。
けど問題がある。
これだけで高宮が遠藤が好きっていえるかどうか分からないところだ。
ギリギリ友達程度でもするような内容だとも思える。
ともあれ、トモサカ以外にも相談してみよう。
告白するにあたり女子からの意見もあった方が良いという判断から
次の相談相手は女子である。
同じ中学校出身で
俺が唯一このクラスで普通に話せる女子……
アカリだ。
アカリは同じクラスの女子でテニス部。
顔良し。スタイル良し。
ただし自意識過剰で
口がとんでもなく悪い。
ハキハキ何でもものを言い過ぎる。
でも逆に相談して回答を貰うのであれば
ハキハキしてる方がいいだろう。
曖昧に返答されると良く分からんし、
相談するなら多く告白されてる女子の方がいいと思う。
「そういう男っているのよねぇ。
ちょっと女子に優しくされて勘違いしちゃう奴。
だいたい友達少なくて世間知らずなのよ。そういう奴に限って」
しょっぱなから遠藤と俺にバズーカぶっ放してきた。
しかしアカリらしいと言えばアカリらしい発言だった。
「ホント。単なる"お礼"とか"励まし"という社交辞令を誤解されたら、
たまったもんじゃないのよ」
昼休みに中庭近くのベンチにまで
何とか誘って来てもらった。
恋バナだとわかるまでは
「なんであんたと話ししなきゃいけないの」てな感じだった。
ただし恋愛相談と分かった瞬間、喜んでついて来た。
女子ってあれか。みんな恋バナ好きなのかね?
しかしトモサカとは別の意味で
モテナイ男全員に喧嘩売りやがったよ。
この"毒舌美少女"。
ちなみにアカリへの説明には遠藤の名前は出してはいない。
上手いコト、"友達の告白の件で相談が"と説明したつもりだ。
話を変えて、どう告白したら良いかを聞き出してみる。
「最近された告白でなんか心にぐっときたのとか無いのか?」
少しでもヒントを聞き出そうとする。
「告白だったら高校入って3回されてるけど……」
こいつ。まだ1年生の5月だぞ……。中学含めたらどんだけーってやつだ。
顔は整ってるからな。スタイルもいい。
口はとんでもなく悪いけど……。
「あっ。もしかして今付き合ってる奴いるのか。俺と二人でいるのまずいのか?」
俺も最低限のTPOはわきまえている。
「大丈夫よ。三人とも断ったから」
「なんで。三人とも……」
「だって知らない番号からいきなり電話掛かってきてさ。電話に出たら
いきなり"何組のだれそれです。付き合ってください"って。
私はあんたの顔も名前も知らないっての。
それに面と向かって告白する度胸も無い男なんて
絶対嫌! こっちから願い下げよ!」
気持ちはなんとなく分かる。
いきなり知らない番号から電話がかかってくるのも嫌だろうし。
顔も名前も知らない人間から告白を受けるのはちょっと恐怖だ。
しかし知らない人間から電話がかかってくるとは
電話番号が漏れてるということだ。
漏れてるとすればそれは彼女の友人から……。
うーん。それでか……。
「それでか。それで中学の時ほどクラスで仲良くしてないのか」
アカリは中学の1,2年の時、同じクラスだった。
その時の女子はアカリを筆頭にして仲が良かったと思う。
口は悪いが、サバサバした性格だからだと思う。
女子の中でも一定の人気があったし、
間違いなくトモサカと共にクラスの中心にいた。
俺はアカリと高校でも同じクラスだが
中学の時ほどアカリは友達づきあいが良くないように見えた。
おそらくPHSの番号が高校で作った友達の中から
漏れたからというのもあるんだろう。
アカリは電話番号の流出を恐れて、交友関係を限定したんだと思う。
「そう。仲良くなるのとピッチ(PHS)の番号伝えるのってセットなところあるから」
「本当はさ。中学の時みたいにしたいなって思ってるのよ。
みんな仲よくてさ。あの時の男女みんな仲良かったじゃない。
ま。あんたは少し壁作ってたみたいだけど」
「壁作ったっていうか。作られた感じなんだがな。俺としては」
少し苦笑いをする。
「確かにあんたから見ればそうなんだろうけどね。
それに元々、輪の中心っていうより
輪の端っこにいるような感じだし。鬼塚は……」
アカリも少し苦笑いをする。
「そういや。告白してきた3件とも電話で告白だったのか?」
「うん? 違うよ」
「残りの二人はちゃんと面と向かって告白してきたけど」
けど?
「顔が好みじゃなかったし……」
顔っすか。そうっすか。なんだかんだで、そんなもんなんだよな。やっぱり。
「あのさ。気になったんだけど。どうやって断ったんだよ」
めっちゃ嫌な予感がする。
「えっ。正直に言ったわよ。顔が好みじゃないです。身長も低くて嫌ですって」
うわー。
これはトラウマになるんじゃねーの?
まぁアカリに告白するってことはそういうことだけど。
強く生きろよ。アカリに告白してきた男子。俺は名前も知らん奴だけど。
「お前。そのうち刺されるぞ」
「だって私と付き合う人なのよ。つり合いが取れなきゃダメじゃない!」
つり合い……。
出たよ。この"自意識チョモランマ"。
「それに正直に言った方がいいじゃない。そんなの」
「もうすこしビブラートに包んでさ……」
「声を震わせて断ったらいいの?
私♪ あなたが♪ タイプじゃないですー♪って」
「間違えた。オブラートだ。オブラート」
ビブさん。オブさん。ごめんなさい。
決してアメリカから抗議の電話を入れないで下さい。
「話変わるけど、お前は顔ってどんなのが好みなんだよ?」
釣り合いっていうのはどういう意味だと言外に聞いてみた。
「えっ。ジャニーズの……」
ベタベタだった。
けど"ジャニオタ"か。こいつ。
「近くにいねーだろ! そんな顔した奴」
自分の知り合いだとトモサカぐらいだ。そんな顔した奴は。
「私は条件を下げるつもりは無いわ!」
強気だ。
アカリぐらい整った顔してればチャンスあるかもしれんが……。
ただしこいつの場合、好きだから付き合うじゃないんだよな。
条件が合えば付き合うというやつだ。
正直それってどうなのと思わんでもないが……。
人それぞれとも言えるし……。
「あー。あとね。自信なさげな顔してるのもいた。
私。そういうのも駄目。
オドオドするぐらいなら鍛えなおしてきなさいって感じかな」
うわー。遠藤なんて自信なさげな顔した男子そのものだぞ。
自信ありそうな顔……。
俺の知り合いで言うと、ぱっと頭に浮かぶのはやっぱりトモサカになってしまう。
そういえば一時期トモサカとアカリが付き合ってるって噂もあった。
俺は基本的に人のプライベートに干渉しない主義だ。
トモサカは内面を誉められたときにぐっと来たといっていた。
まさかアカリがトモサカの内面を持ち上げるとは思えない。
この二人が付き合ったとすれば、何で二人は付き合ったんだろう。
気になるところではあるけど聞かないでおこう。
ふと。中学の時のことが頭によぎった。
「そういや。しつこく言い寄られてるとか無いのか。困ったら言えよ。助けになれるかどうか分かんねぇけどな」
アカリがふっと笑みを浮かべる。
「ふふっ。あんた変わんないよね。強面の顔して意外に面倒見が良いし」
強面は余計だ。
「中2のときのあれもそうだったんでしょ」
「そんなんじゃねーよ!
ムカついたからあいつらブッチめただけだ。関係ねーよ」
俺とアカリの会話にしばしの静寂が訪れた。
俺にはあまり思い出したくない過去だった。
「こんなとこでいい?」
アカリがその静寂を破る。
「あぁ。いいよ。参考になった。サンキュ」
いや。あっ。しまった。もう一つあった。
「すまん。アカリ。もう一つ聞きたいことがあった」
「ん。何?」
「お前テニス部だろ」
「そうだけど」
「あっ。あのさ。テニス部にミサキって名前の子いないか」
「いるけど?」
「その子の苗字をさ。教えてくんない」
「"清水"だけど……」
俺は思わずガッツポーズをしていた。
やっぱ図書室のあの子はそうだった。
テニス部の俺にいつもお辞儀をしてくれる子だった。
ということは。あの子も俺に気があるんじゃ……。
「あんた。もしかして……。ミサキの事……」
アカリは怪しんでいる表情だった。
あっ。やべーかも。バレちゃまずい奴にバレちゃったかも。
「それじゃ。午後の授業はじまるし。サンキュな」
そう言ってダッシュで逃げ出す。
「あっ。ちょっと待ちなさいよ!」
待てと言われて待つ奴はいませんよ。
さっさと図書室に行って清水さん。いや清水ミサキさんとお話しよう。
ウキウキ。
顔が笑顔でとろけ切っていた。
スキップスキップ。
足取りも軽い。
このまま天まで昇ってしまうかもしれない。
だけど今日、彼女は図書館に来なかった。
うそーん。
何でなの!?
しょうがない。
教室に戻って、アカリから聞いた話を遠藤に伝えるか。
それで。戻ってみたら、仲良く話して盛り上がってましたよ。
俺の席に座って、遠藤と高宮が。
いや。きみら告白いらないんじゃない!?
そんな気がしてきた。
部活帰りのコンビニでアカリからのアドバイスを遠藤に告げる。
「顔とか身長とかで判断する女子もいる……か」
それで判断すると
"どちらかといえばモテナイ男子"というカテゴリに入る遠藤は
苦虫を噛んでしまったような、それでいて自信無さげな顔をしていた。
「ま。そういう子もいるという事だ」
"間違いなくモテナイ男子"というカテゴリに入る俺は
遠藤にも現実というものを知っておいたもらった方がいいと思い
正直にアカリの言っていた内容を話していた。
傷口をなめ合う準備をしているワケでは無い。
決して傷口をなめ合う準備をしているワケでは無い。
大事な事なので二回言いました。
「自分に自信が無いのも駄目だそうだ。オドオドした態度にでるらしい」
聞いた瞬間に遠藤がさらに落ち込んでる。
「僕が……。僕が高宮さんと釣り合っていないことぐらい
僕自身が一番分かってるんだよ!」
やっぱ自信なさげな感じなんだよ。こいつ。
「自分の実力を正確に把握するのは良い事だが、
卑下するのは良くないぞ。遠藤」
遠藤は悪いというか変なトコロもあるけど、良いトコロもあるはずだ。
……。
はずだ。
ただナヨナヨしてると一般的に女子から嫌られるのは確かなんだよなぁ。
ともかくアカリからの意見をまとめると
以下3点
・条件(顔、身長、成績、運動)で付き合う女子もいる
・自信なさげな態度は駄目
・直接告白するのが良い。電話厳禁
といったところか。
「どういう告白がいいと思う?」
遠藤が尋ねてきた。
トモサカとアカリの共通点は
直接告白である。これは避けては通れない。
「面と向かって直接告白した方がいいことは確かだよな」
それと高宮は見た目が綺麗な女子だ。
外見を誉められての告白は中学時代も含めて受けている可能性が高い。
であればトモサカの案を採用した方が良いと思う。
つまり……。
「あとは相手の内面に惚れた事を説明する告白がいいんでない?
流石に言葉は自分で考えろよ」
「わかっている。それぐらいは自分で考える」
どうやらこれは遠藤に納得してもらったらしい。
「それと自信ありげな表情しとくこと」
「な。何とかやってみる……」
個人的に言えば自信というのは成功体験の積み重ねだと思う。
多分、遠藤にはそれが少ない。
本来であれば、成功体験を積むのがいいんだが……。
流石に時間が無いねぇ……。
「それとあとは。告白する時間と場所だね」
遠藤が思い出したかのように呟く。
チッ。忘れてなかったか。
「それはそれで考えるよ。けどお前も考えろよ」
「わかってる。もし考え付いたらでいいよ。頼む」
遠藤はどうも心ここにあらず。といった表情だった。
高宮がアカリと同じように
顔、身長、成績とかを重視する女の子だったら
どうしようと考えているのかもしれない。
でもそんな子が世の全てとは言わないが
そういう子は多いと思うぞ。遠藤。
これは世間を学ぶいい機会だ。
そう自分にも言い聞かせた。
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