生き残り
「まず君の素性についてだ」
「素性?」
「素性というよりかは…生い立ちかな…」
ツバサはパソコンを巧みに使ってある記事を見せる。
"謎の環状線閉鎖!そこで起きた惨状とは!?"
大々的な見出しの書かれた新聞であった。
しかも、その新聞の日付は13年前。
「…」
「首都高環状線閉鎖事故。およそ13年前に突如、首都高速環状線内の全てのインターチェンジが一斉に閉鎖。そこに約5ヶ月間おおよそ11万台の車両が閉じ込まれるという事故が発生した」
「……」
「5ヶ月の間、不可解にも誰一人として脱出を試みる事がなく、環状線の中で死んでいった。だが……その中で何故か一名だけ生存者がいたという…」
ケントは無意識に拳を強く握りしめていた事に気づいた。
次にツバサが何を言うのかはもう分かっていた。
「立神ケント。お前が…その事故の生き残りだ。そうだろう?」
そう言ってツバサはケントを見つめる。
ケントが窓の外を見る。温かい風が頬を撫でる。
驚きはしなかった。
「あぁ、そうだ」
重々しく頷くケント。
「少し、その時の話をしてくれないか?」
「どうせそこまで大した事がない」
ケントは当時を思い出して、天井を見つめる。
「ただ、俺以外の人間が消えただけだよ。そん中で半年過ごしただけの話だ」
勝手に声が震えていく。
「そして、同じ時期に日本と異世界が混ざった」
ツバサの淡々とした声がケントを現実に引き戻す。
「次元衝突。その初期に起こった“異界侵攻”。学校で習わなかったか?」
ツバサの見せた画像には
———異界侵攻。それは次元衝突によって数多くの異世界の人間が魔物を連れて東京23区内を襲ったとされる戦争。
自衛隊が各地から東京へと派遣されるも、勢力は拮抗。
結局、日本が異世界の介入を認める事で戦争は終わった。
日本は負けたが別に不利益を被ってなければ、異世界の占領地になった訳でもない。
逆に異世界の人間が、東京へと来るという恩恵がそこにある。
それでも、あの出来事は日本の負の歴史の中に深く刻まれている。
ツバサがパソコンをヘイゾウに渡す。
ヘイゾウはすぐにガラケーに変形させポケットの中へとしまう。
「おかしいだろう?あの一斉閉鎖事故と同時に次元衝突が起きるなんて事、偶然にしては出来すぎている」
「故意的に起こったって言いたいのか?」
「あぁ、そういう事だ」
「じゃあどうして?わざわざ環状線に閉じ込めたりなくても…」
「生け贄」
その一言が一気に空気を凍らせた。
ケントは驚きつつもツバサを見つめた。
更に話が続く。
「これは、あくまでオレの考えなのだが……
環状線を使って多くの人を生け贄にしたんだろう。モンスターを召喚させる為に……
そして強いモンスターである程、生け贄の数が多くなる…」
まさか……
「それがドラコ……」
「そう、さっき言った様にドラゴンは"災害"の一つ。国一つを業火で消し去る程の脅威……召喚されてもおかしくはない」
「それじゃあ俺は…」
「もちろん狙われるだろう。せっかく喚んだ最強のモンスターが他人の手に渡っているからな…」
ケントは何も言わずに天井を見ていた。
指先が小刻みに震えているのに気づく。
「しかもオレとの戦闘を見るにそのドラゴンもしっかり君に身を委ねているという……」
"狙われる"。
彼の中でその言葉が響いていた。
コレは悪い夢だと頭のどこかで囁いている気がしていた。
一時の沈黙の後、ツバサが小さな咳払いをする。
「だから、我々、特別機動隊は君とエルを保護する事にした」
「……」
黙ってしまったケントを見てツバサはため息を一つ吐く。
「まぁ、話す事はこれぐらいだ。しばらく安静にしてくれよ」
ツバサは苦笑しながらもヘイゾウと共に、ケントの部屋から出ていった。
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