クラクラ、ブラックアウト

——目を覚ますと、また暗い部屋にいた。

 だが、以前と違ってそこに小さなちゃぶ台と座布団というシンプルなインテリアがそこにあった。


 自分の頭の中だから仕方ないかもしれないが、もう少し豪華なインテリアがあっても良かったと思う。


 そのちゃぶ台の向こう側には自分に似た青年が背中を見せて胡座をかいている。


「あ、あの、ドラコ……」


 ドラコは不貞腐れていた。

 倒れる前の記憶ははっきりある。腕にナイフを突き立てられた事も回し蹴りを決めた事も。

 そして…ケントは——倒れた。

 しかも敗因はドラコではなく明らかに自分にある。


「その、ごめんな。俺が……何も出来なかったばかりに……」

「いや、ワイが悪い」


 ドラコはケントと向かい合わせるようにして座り直す。

 澄んだ瞳でケントを見ていた。


「お前の身体を使いすぎた。限界が来るのを知っとったつうのに……」


 ひどく後悔しているようだった。


「いや、俺がもっと鍛えれば…」

「いや、ワイがもっと慎重に動けば…」

「いや、俺が悪いんだよ!!」

「いーや、ワイが悪いんや!!」

「なんだとォっ!!」

「やんのか、ゴラァっ!!」


 ちゃぶ台の上でギャイギャイいがみあう二人。

 どっちが責任を負うかというおかしな事でいがむ二人。


 バカである。


「……」

「……」


 次第にどうして喧嘩になったのか分からなくなってしまって

「ぷっ……」 

「クッ……」


わからないままにおかしくなって、互いに吹き出した。

「「あははははは!!!」」。


 淋しい空間に笑い声が響く。

 しばらくして、笑い疲れたドラコが小さなドラゴンの姿になった。


「ま、ワイは事実を言ったまでや。さっき起こった事の顛末は全部目が覚めた時にアイツに聞け」

「アイツ?」

「あのや。多分アイツなら色々知ってるで。もしかしたら……ワイの事もな」

 屈託のない笑みを見せるドラコ。


 そこで目の前がいきなり暗転する。



 気がつくとケントはベットにいた。

 起き上がろうとするも体が動かない。

口は……


「……あ」

動いた。

「ふぅ」

 安堵のため息。


 ガラリとスライド式のドアが開く。

 視線をドアに向けると、そこにはあの少年と知らない背の高い男がいた。

「お、目覚めたか?」


 黒髪の少年が話しかける。


「体は、動かないけどな……」

「全身の筋肉断裂。特に脚部の損傷が激しいみたいだ」

「え……」


 ケントの顔が真っ青になる。


「翌日にものすごい筋肉痛が起きるだけだ。安心しろ」

「それは安心していいのか?」


 それはそれでまずいのだが。


「あ、紹介が遅れたな。オレは鷹峯ツバサ、特別機動隊隊長。コッチの背の高い方は副隊長の平蔵ヘイゾウ。無口だけどいい奴だよ」

「特別機動隊?」


 ニュースでも聞いたことのない名前につい聞き返した。


「あぁ特別機動隊てのは、異世界の調査とか都市圏に入って来た魔物を討伐したりとかをする秘密裏に行う部隊でね」

 笑顔で秘密を話すツバサ。

「特機って言われてる。まぁ、隊って言っても人は少ないが」


 へぇー、と呆けた声が漏れる。

「……そういえば君の名前は?」

「ケントです。立神ケント、高校生、です」

「高校生……17か?」

「そうだけど……」

「オレと同い年だな」

「えっ、同い年!?」


 確かに若いと思っていたがまさか同い年だとは思っていなかった。

 というよりその年で隊長になれるのかという疑問まである。


 すると少年は、少し恥ずかしそうに視線を下に逸らす。


「実はオレ、ガッコウ言ってないんだ。ずっと施設暮らしでさ」

「えぇ……不良じゃん。そんなのが隊長って大丈夫なんですか?」


 ヘイゾウが前に出ようとするも、ツバサに抑止させられる。

 さすがに言い過ぎてしまったと気づき、謝るケント。


「"特別機動隊は法の下になく、法の上にも無く、ただ自由の名において動く"」

「……なんだそれ」

「特別機動隊の創設当時からのスローガンだ。全てに縛られることなく動く……それが特別機動隊だ」

「全てに、縛られない……」

「オレだけじゃないが、他にも特例措置を出されて"特機"に入っているヤツはざらにいる」

「へ、へぇ……」


 すると突然ツバサの表情が曇る。

 そういえば、と前置きをつけて、

「何か……前と違うな…」

「さっき?」

「うん。オレと戦ってたときは口調が荒かった……よな?」

「あ……」


 多分、ドラコの事を伝えないといけないのだろうか。


「いやぁ、戦っている時はスイッチが入るというか、性格が変わるというか?」


 上手くすっとぼける事が出来た

……はずなのだが、ツバサはクスリと笑っていた。

 とても戦闘中には出したことのない柔和な笑みだった。


「別に隠さなくてもいいんだぞ?」


(バレてる)


「別に隠してなんか…」

「顔に出てる。嘘も下手だし」 

「……」

「というか戦った時に、身体から飛び出してきてたし」

「…………」

「さしずめ……あの小さなトカゲが力の根源になっているのだろう」


(バレてる)

 仕方なくツバサにドラコと出会った一連の流れを話すケント。


「……へぇ、驚いたよ」

 ツバサは興味津々に彼の話を聞いていた。

 ヘイゾウはドアの辺りでその二人を見守っている。


「しかし、不思議だな……異世界の災害と言われるドラゴンが人間に力を貸すなんて」

「災害?」

「そうだぞ。ドラゴンは神の恩寵を妨げるとか、魔王の手下とかと言われて忌み嫌われているんだ。ラノベとか漫画でもあるだろ」


(ドラコが"災害"か……別に俺と出会った時は無かったけどな…)


 するとヘイゾウが急に近寄って懐から携帯を取り出す。

 パカっと開くあのガラケーだった。

(ガラケーっていつの時代だよ…)

 ヘイゾウは何も言わずに、それをツバサに渡す。


「ありがとう」


 するとガラケーがガチャガチャと動き出し、一瞬のうちにノートパソコンへと変形した。


「!?」

「ああ、驚かせてすまないな。彼は"物をコンパクトにする能力"があるんでね」

「能力…か何かか?」

「まぁ、転生者との間に生まれた2世になるな」


 この日本には、異世界帰りなどをしている転生者が人知れずにいる。

 その間に生まれた子供の事は"転生者2世"と呼ばれる。

 転生者2世は生まれながらに能力を持っている事が多い。

 希少な存在価値はあるが、それ故のイジメが起きる事も少なくない。


 余談だが約20年前に生まれた団塊世代と呼ばれる世代には、この転生者2世が多い。


「さて……」


 ツバサはパソコンを触りながら椅子をベッドの近く寄せてそこに座る。


「君には、二つだけ話したい事がある」

「…二つ?」


’多分アイツなら色々知ってるで。もしかしたらワイの事もな’

ドラコが言っていたのは、きっとこの事だろう。


「まぁ、ゆっくりと話そうか」

ツバサは静かにケントを見つめる。

 















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