竜、転生者

 白鎌カマイタチ———

 それは、白い毛並みのイタチ。

 だが熊と同じぐらいに身体が大きい。

 特徴的なのが黒く硬化した鎌の様な尻尾。


 ケントが一番に思った事。

 それは、もふもふしてそうで可愛い。

 しかしその思いは、それに接近するにつれて、イメージは変わる。

 

 普段は温厚な白鎌だが、一度怒れば街は破壊するほど凶暴になる。

 それが今、二体。


「「グルアアアア!!!!」」

 低い唸り声で咆哮する白鎌。

 そして尻尾をグルグルと振り回す。

 すると、尻尾の先から斬撃のような真空波が生まれ、空気を裂く。


「まずい!!」

 真空波がケント達を襲う。

 ケントとアンリは左右に別れて避ける。

 アスファルトには、斬撃の痕ができていた。


「ケントくん、大丈夫!?」

 左のアンリが心配そうに見ていた。

「ああ、大丈夫!!」

 余裕そうに大きな笑顔を見せる。

 だが、そこまで余裕がなかった。


(あっぶねぇー!!!!)

 足元を見れば、ケントの右の靴底が削れていた。

 数秒遅く真空波を避けていたら足首は失くなっていただろう。

 無事に避ける事ができたが、これが直撃したらひとたまりもないのは確実だろう。


「どうする、ドラコ?」

「アイツらの出方が、分からんからな…迂闊に近づけへんわ」

 戦い方を考えている間に白鎌がもう一撃、真空波を生み出す。


「まずい!!」

 避けながら咄嗟にドラコが身体に入る。

 真空波とすれ違いざまに一気に走り、飛んで、蹴る。

「うぉらぁっ!!」

 ドスン!!

 白鎌の巨軀に前に蹴り出した足が激突する。

 しかし、背後にいたもう一体が既に鎌の様な尻尾を振り落としていた。


「しまっ……」

 振り向いたが反応ができる距離ではない。

 鋭い鎌に身体を斬られないようにと身構える。

 だが、すぐに白鎌の動きが固まる。

(止まった……?)

 その鎌形の尻尾を振り下ろさずに、ケントの方を見て震えていた。

 まるで何かに威圧されているかのように、巨大な体躯が揺れるほどに震えていた。


「【永槍チャリオット!!】」

突然、横槍が入った。

正真正銘の槍が入った。

槍はケントの目の前の白鎌を貫く。

「グニャァァァ!!」

なんとも情けない呻き声を上げて倒れる白鎌。

その後ろに、アンリがいた。


「ふぅ〜、無事でよかった」

「……あ?」

 確かに、アンリだった。

 桃色の髪をもつ、翠の瞳の少女だった。

 だが、その手に持つ槍にケント——ドラコの視線が行った。


 彼女は変身していた。


 ピンク色のフリル付きのドレスを着た魔法少女の様な見た目とは裏腹に、黒塗りの長槍を手に持っていた。


 槍の穂先は十文字になっており、黒を縁どる様な赤い刃が輝いている。


 一言で言えば、釣り合っていない。


「【付与エンチャント星光スタァライト】!!」

 アンリが詠唱して槍を振ると、その赤い刃が光り輝く。

「【光輝奔走して穿ち貫け】!!」

アンリは詠唱して槍を投げる。


 槍の穂先の光が槍の形になって奔る。

 そして瞬く間にその光槍が幾千に分散し、白鎌に向かう。

「【ゲイボルグ・閃光】!!」


ズドドドドドド!!!!

 放たれた槍は、白鎌の身体に突き刺さる。

 大きな軀だから、槍が当たりやすい。

 それは、槍の雨。

 幾度も幾度も白鎌の白い毛皮を貫いていた。


「グニャッ!!グニャッ!グニャァ!!」

 槍が突き刺さる度、情けない悲鳴を漏らす白鎌。

 白い毛で覆われた軀は赤く染まり、槍だらけになっている。

 見ていられないほどの凄惨さだった。


「おい、嬢ちゃん……!!」

 ケントはアンリの方を見る。

「もうやめろや!!そこまでせんでももいいやろ!!」



「これでっ——終わり!!!」

 ドラコの制止を聞かずにアンリは、最後の本体の槍を白鎌に振り下ろす。


「やめろぉーっ!!」

 咄嗟に槍を掴む。


「……っ!なんで……!?」

 ケントの身体からドラコが飛び出す。

「これ以上やっても、なんにも意味がねえだろ!!」

 叫ぶケント。

 アンリは槍を取り落とす。

「あ、あ……」


 見れば、さっきケントが蹴った白鎌は気絶している。

 対して、もう一匹は血だらけの瀕死——

「くそっ……やりすぎなんだよ……」




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