異変のある日常
久々の、外だった。
振り返って見れば、病院と特機の施設に数日いた訳だ。
それでも東京の暑さは未だに変わらなかった。
『昨日、都内某所で謎の連続不審死が発生しました』
電光掲示板には、最近のニュースが流れている。
「はぇー…こんなのなんだ…」
隣のアンリが辺りを見渡して嘆息していた。
周りからチラチラと視線を感じる。
それもそのはず、可愛さ100%の美少女がフツメンのケントの手を握りながら歩いている。
ここで「釣り合ってなーい」とか「レンタル彼女かぁ」とかと思案されている事だろう。
まぁ一番の要因は白シャツ一枚では抑えられないアンリの胸部の膨らみなのだが。
きっかけはツバサの提案だった。
「アンリを君の家に連れていってくれないか」
「……は?」
何を言ってるんだコイツは、と思いながら目を丸くする。
「だから君の家にアンリを——」
「いや、そこは分かるけどなんでだよ?」
「それは君の家の方が安全だからだよ」
「安全ならコッチの方がいいのでは……」
「そうじゃなくて、アンリをコッチで監視するより君が直接見た方が彼女にとって安全なんだよ」
「俺の安全が消えるんだけど」
「エル・シーズンから聞いたのだが、君の中の竜によって君は半不死らしいじゃないか」
「だからって、危ない仕事をおしつけますかねえ、普通」
転生者に(物理的に)襲われると思うと、身の毛がよだつ。
ふとケントは、当のアンリの方を見る。
彼女は机に突っ伏していた。
(まさか、死んで……!?)
「むーん…にゃむにゃむ…」
寝ていた。
なんで寝てんだよ。この転生者。
……しかし、寝顔かわいいな。
机をコンコンと指で叩いてみる。ビクンと彼女の体が跳ね上がった。
「ふぁ…」
何故か涙目になっている。
何をそんな怯えているんだ。
「まぁ、そこまで危害は加えなさそうだな。それじゃよろしく頼むよ」
「まだ決まったわけじゃないだろ!!」
……という訳でケントの家でアンリを保護することになった。
「そもそも、男の家に女の子を入れますかね…」
嫌みを混ぜて呟きながらトボトボ歩くケント。
その家に帰る道中。
観光がてら、アンリと歩いていた。
街並みを好奇心に満ちた目で見渡すアンリ。
「
ケントはアンリに訊く。
「ううん、転生する前に何度か。何か変わったなって思って」
なんか混ざってる感じが特にと、言い加える。
"変わった"という事は、アンリは結構昔——おそらく次元衝突以前の人間なのだろうか。
そういえば、転生者は一度死んだ人間の事だ。
「アンリは、いつぐらいに死んだとか覚えてんのか?」
我ながらデリカシーのない質問だな、とケント自身思っている。
「うーん…憶えてないや」
苦笑しながらまた街の方を眺める。
「あっ、ミスドだ!!それにマックも!!あそこにスタバもある!!懐かしいなぁ〜」
どうやらチェーン店の事は覚えているみたいだ。
(しかし…)
ケントはチラリとアンリの横顔をみる。
アンリは街の風景に目を輝かせている。
(よく見たら可愛いな…)
「なんか変なコト考えてたやろ」
突然、目の前にドラコがいた。
「うわっ!!」
「鼻の下伸ばすな、ボケ。気持ち悪いんやから」
そう言いながら小さな尻尾でペチペチと右頬を叩く。
すると、アンリがそのドラコに近づく。
「コレってドラゴン…?」
「え、あ…そうだけど…」
がっしりと、ドラコを両手で掴むアンリ。
ぐえっと何かが鳴いた気がするが、空耳ではないだろう。
「え…え!?」
アンリがドラコに顔を近づける。
「な、何や…?」
「か…か…」
「か?」
「可愛い〜〜!!!!」
まるで人形を貰ったかの少女かのように、はしゃいだ。
「ねぇ、君ってドラゴンなの!?こんなに可愛いのに!?」
「せやけど……」
「ねぇ名前は?!無いなら私がつけよっか!?」
「名前ぐらいあるわ!!ワイはドラコや!!」
「ドラコって言うの!?めっちゃエモい!!」
「え、エモい…?」
ドラコだけでなくケントも戸惑う。
エモいとは。
「エモいでしょ!?この姿でドラコだよ!?」
そう言われても何が何だか分からない。
我に返ったアンリは、申し訳なさそうにケントにドラコを返す。
「ごめんね……私、こういうの見るとつい……」
素直に認められるとこっちが申し訳なくなる。
ケントは苦笑しながら、ドラコを両手で抱える。
「ま、まぁただ驚いただけだからさ。そんな気にしなくていいよ」
気を取り直して、街中を歩く。
すると———
『非常警報———直ちに避難して下さい』
甲高いサイレンと共に機械音声が響いた。
「まさかっ!?」
そのまさかだった。
路上に二体の巨大な物体がいた。
巨大な白い毛皮の塊だった。
「あれって……」
しかしその尻尾は、禍々しい鎌の様に曲がっていた。
「
東京で発見された新種の哺乳類だった。
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