幕間
「フィランディアが結局どこいう場所かって?」
エルは疎ましげにケントの質問を聞く。
「もしかしたら、俺の思ってる場所なのかなって思って」
「どういう風に思ってるんだ」
「石造りの家とかが多くて、身分格差とかもある……って思うんだけど」
小さく頷かれる。
「確かに、君の思っている世界とほとんど同じだ。農村では石を積んで家を造っているし、身分の違いにおける弊害も沢山ある。だが、そんなの誰も苦にしていない」
エルはポットのお湯をカップに注いだ。
芳しい香りが辺りに漂う。紅茶だろうか。
「12歳になれば選定の儀という儀式で、秘められた能力を神から授かるし、冒険者のギルドもある」
つらつらとケントが聞きたかったであろう事も言ってくれた。
あぁ、やっぱりか。
ケントは一人で納得する。
ライトノベルとかでよくある中世ヨーロッパ風の世界だ。
だから、次元衝突で石積みの家とか教会が現れたのか。
つまり、フィランディアは言ってしまえば、異世界という
「じゃあ、魔力ってのはやっぱりマナって言われるのか?」
「そうだ」
「一般市民から王侯貴族への成り上がりは?」
「あったさ。なんなら冒険者が革命と謳って前の国王を処刑した」
「それじゃあ、パーティーから追放した途端にすごい強くなった冒険者とかは!?」
「……やけに詳しいな」
実は立神ケント、ラノベをよく読む方で。
クラスの隣の席の人がラノベ好きで、よく本を貸してもらう事があるのだが、それはまた別のお話。
ケントは次元衝突の話をする。
「……なるほど、つまりは僕の世界が君の住む東京にぶつかったという事か。
それはカオスだな」
冷静に分析をするエル。
彼はもう一つカップを取り出して紅茶を注ぎ、ケントに渡す。
「ヴェルデという茶葉を使った紅茶だ……香りを嗅げばリラックスできるよ」
もちろん、異世界の茶葉だから日本にある訳がない。
紅茶を一口啜る。
ミントのような清々しい爽やかさが口いっぱいに広がった。
それでいて少し苦い。
「ソイツは薬草の一種。向こうではポーションの素材として使われる」
「へぇ〜」
「薬草にも種類があって、食べればどんな傷でもたちまち治るというものもある」
「どんなって……腕が無くなったとしても?」
「そう。再生力を増加させ腕が生えてくる」
「すごいな、異世界」
「だがその分中毒症状も強く、恒常的に使えば確実に廃人へと真っ逆さまだ」
言葉が引っ込む。
「君が思っている程、異世界は甘くない。この東京の様に、便利じゃない」
ティーカップを揺らすエル。
「あのさ……」
「なんだ?」
「俺に魔法教えてくれない?」
「何故だ、いきなり」
「いや、お前魔法使えるから……」
「おい勘弁してくれ。僕は無属性の魔法しか使えないんだぞ」
「無属性でもなんでも良いから頼む!!」
地面に頭を擦り付ける程のジャパニーズ土下座。
エルは舌打ちをしながらケントを見る。
「人殺しに魔法を教えてくれって……お人好しにも程がある」
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