邂逅
家の近くで人を助けるのは運命的らしい。
だけど、コレは違う。絶対に違う。
例の靴を拾った少し離れたところに人がいた。
近づいてみると、確かに人だった。
まっ白い短髪に吸い込まれそうな金色の瞳。
髭もニキビもない精悍な顔は少し汚れていた。
今は夏だというのに厚手の黒いコートを着ている。しかもボロボロで泥だらけ。
ケントは真夏日の中、立ち尽くしていた。
「え、だr……」
言葉が途切れる。
言い終わる前に、ケントの顔の前にナイフが突きつけられていたからだ。
「叫ぶな」
第一声は脅迫だった。
青年の低い声がケントの耳朶に響く。
鈍色のナイフがギラリと光り、思わず口をつぐんでしまう。
「どしたんや、ケント、ト、ト、ト……」
あまりにも帰って来ないからと不審に思ったドラコが後ろから出てくる。
「……な、なんかおる!!」
できれば自分より先にドラコを出せば良かったと思うケント。
「……アレはお前の連れか?」
「お、おう」
何度も首を縦に振る。
対してドラコは。
「なんやコイツ?!見た事ないヤツや!!」
と、ぐるぐる青年の周りを飛んでいる。
「おい、うるさいぞ。コイツをどうにか……」
突然、青年の顔が歪みナイフを取り落とす。
その隙を逃さずケントは腕を掴んで青年の背中へと捻っていた。
簡単な護身術である。
「ちょっとかじっといて良かった…」
ホッとして青年を見ると、青年は苦しそうに呻いていた。
「その、手を……退けろ……」
(何か……おかしいぞ)
怪訝に思うケント。
ふと、青年のコートの袖の右肩あたりが破れていることに気づく。おそるおそる破けた部分を覗いてみると、
弾創からダラダラと赤い血が溢れ出ていた。
「なっ……」
「何や、どうした?」
「ドラコ、携帯持って来て!!病院に連絡する!!」
「け、ケイタイ?何やそれ……」
「じゃあドラコは逃げない様に見張って!!」
「わ、分かった」
ケントは家へと戻ってテーブルに置いて来たスマホを手に取る。
『はい、119です。火事ですか?救急ですか?』
「きゅ…救急をっ!」
『落ち着いて、救急車を呼ぶ場所を教えて下さい』
「は、はい——」
10分もしないうちに救急車がサイレンを鳴らしながらこちらへと走ってくる。
やがて、青年は集中治療室へと入り、無事容態は回復した。
青年には親族がおらず、仕方なくケントが青年を看病することになった。
彼の眠っているベッドに貼ってある名札は、真っ白なままだった。
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