叱責

とある病院にて。

何度目の病院だろうか。

目覚めると、目の前に立神がいた。

「エル…」

話によれば、肺と胃に2発ずつ。そして、心臓に1発弾丸が入っているという。

どちらも内蔵に癒着して取れないらしいと、聞く。


「出来るだけ安静にしてくれ、ってさ」

ケントは静かにエルを見つめていた。

「…そうか」


あまりにも、あっけなく終わった池袋の調査。

調査のちの字もなかった。


ただ一つ分かった。

彼は、赤時はまだ生きている。


病院のドアが勢いよく開かれる。

ピンク色の髪が揺れながら近づく。

アンリだった。

「無事だったんだね!!大丈夫?」

「俺は、な」


ケントの言葉で、アンリが視線をベッドに向けると、エルが頬杖をつきながら不機嫌な表情で小さく手を振った。


「あいにく、君の仇はベッドで安静にしてかないといけないみたいだ」

エルが自嘲しながら言った。

「まさか、僕がやられるなんてね…」

エルは、少し考え込んでため息をつく。

「さて……」

エルは今もなお俯くケントの方を向く。

「立神…いや、ここは竜の器と言うべきか」

その眼は、強く強く、ケントを睨んでいた。


「お前は?」

ケントは顔を上げる。

「確かに原初の竜の力は使えないと言ったが、それでもお前は半不死だ。こんな傷なんて容易いもんだろ?」

「…え?」 

「君が庇っていれば、僕はあの転生者をまだ追いかける事は出来た筈だ」

ケントは瞠目する。


「ちょっとッ、そんな言い方ないでしょ!!」

アンリが怒鳴るが、構わずに続ける。

「ずっと思ったんだけどさ、君は何を守りたいのさ?」

「それは…」

エルの冷たい視線がケントに刺さる。


「守る守るなんてほざくだけで、何もない。そのくせ、無茶は全部、君じゃなくて原初の竜に任せる。歌舞伎町でもそうだったんだろ?そのせいで竜が暴走したんだろ?」

何も、言い返せなかった。

確かに、そうだったから。


「君は何もできないんじゃなくて、何もしたくないだけなんだよ。違うか?」

ケントは小刻みに震えながらも、小さく首を横に振る。


「ケントくん…」

アンリの視線がケントに向かう。

その目はあまりにも悲しそうだった。


「守りたいものがあるなら、自らの犠牲を厭わない」

エルが一人でに呟く。

「別に僕は英雄になれなんて言わない。ただ守りたいものがあるなら、その為に命をかけろ」


そして、とどめの一言をケントに突きつける。

「僕の見当違いとかは思わせないでくれ」


何も言わずに病室を出るケント。

アンリも慌てて出ていく。


それを視線で追って、そして逸らした。

「で、いつまでそこにいるんだ?」

病室に入ってきたのは、ツバサだった。

「流石に、言いすぎたかな?」

エルは苦笑しながら言った。

「いや、それで彼が成長するならいいんじゃないか?まぁ、オレならあの時点で殴ってたけどな」

「おお、怖い怖い」

「別に怖くはないだろ、お前があまりにも傲慢すぎる発言をしたら殴りたくはなる」



もうすぐ、陽が落ちる。

夏なのに、妙に肌寒い。


ふと、生ぬるい風がケントの頬を撫でる。

「ケントくん?」

「ん、あぁ…ちょっと」

「まだ、アイツの言ってる事気にしてるの?」

「まぁね……」


帰り道、それ以上の会話はなかった。



(俺は…何もできない普通の人間モブだ。それはずっと変わらねえ…)

(だけど……強くなりたい)

(自分の身が消える覚悟はまだないけれど……)

(俺は変わらなければならないんだよな)

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