予想外デデンデンデデン

——防衛省跡、特機本部


「…どうだ?」

「うーん、怪我は回復していっていると思う。でも、まだ身体の中に歌舞伎町の魔力が残ってる」

「そうか…」

手元のカルピスウォーター(自販機で買ったヤツ)をあおるケント。

プハーと一息つく。

「なぁ、エル。ドラコは歌舞伎町の魔力を吸収して暴走したって事なんだよな」


歌舞伎町でのドラコの事は既にエルに話している。

「恐らくね。竜は魔力を喰らうって前も言っただろ?今回も例外なく当てはまる」

「でも、アンリがそれを封じ込めた」

「…そうなるな」

「その後、俺は死んだ。そしてドラコに身体を喰わせた」

「本来なら、その後君の理性は消滅し、竜が暴走して抑えられないハズだった。だが君はそうはならなかった」

 

エルは顎を撫でながら唸った。

「君の言っていた黒い炎。アレは煉獄インフェルノ——全てを焼き尽くす炎だ。本当なら、今の君が扱えるものじゃない」

「闇の…」

「言ったよな。歌舞伎町はあらゆる欲望を魔力に変換しているって。君の中にある"竜の力"も、その影響を直に受けていたんだよ」


ふとケントはあの時の事を思い出す。

あの時の、ノイズ。そして数多の罵声を。

何か、怒りと悲しみの混ざった声だった。

それが、鋭いナイフの様に次々と、心に突き刺さる。そんな感じがしていた。


ズキリと、胸に痛みが響く。


「……がみ?…立神?」

エルの声に、ハッと我に返るケント。

「どうした?何か変だぞ」

「い、いや…なんでも」

「そうか……まぁいい。それで歌舞伎町の魔力はさしずめ"闇"といったところだ。闇の力が君の中に流れ込んだ事で原初の竜の力が戻ってきたわけなんだ」


淡々と冷静に説明してくれるエル。

心配されるよりかは、だいぶマシだった。


「だけど、だ」

エルはずいとケントに顔を近づけて言った。

「はっきり言って君の身体は、ボロボロだ。これ以上、竜の力を本気で使えば、使ことを覚悟しろ」

「…ゑ」

顔がひょっとこみたいになりながら驚いているケント。


「器のお前が竜の力に耐えきれてないんだ。まあ、それでも破滅するよりはマシだけど」 

「……」


お前は弱いと遠回しに言われている。

言われて当然だった。


「それでも、」

エルはケントの肩に手を置いた。

「君も、頑張っているさ」

「エル……」


エルは黒革のコートを着ていた。

「任務開始……だろ?」



池袋。


『次は池袋、池袋 お出口は左側です。

埼京線、湘南新宿ライン、東武東上線、西武池袋線、地下鉄丸ノ内線、地下鉄有楽町線、地下鉄副都心線はお乗換えです』

山手線のアナウンスを聞きながら、2人は電車を降りた。


ケントとエルは駅の中の喧騒を眺める。

「なぁ、立神」

「ん?」

「お前は、お前の中の竜を信頼できるか?」

「ドラコを?」


腕を組んで唸るケント。

ドラコの全体像が頭の中に浮かぶ。

ギャイギャイ騒がしくて、おだてると調子に乗って、でも強くて…


「うーん、疑えない」

「それは答えになってないぞ」

「そうじゃなくてさ、信頼できないけども疑いもかけられないってあるだろ?」


エルは何かを言いかけて、そしてやめた。

そして何も言わずに前へと進んでいく。


池袋駅の中は、やけに静かだった。

人間や、ポツポツといるオークやゴブリンが流れてくるが、それでもどうしてか違和感を感じてしまう。


「んぁ?」

何かを察知するケント。駅の中に一羽の鳥が飛んでいた。


灰色の鳥。羽ばたくその姿はいかにも重そうで。

「鳥…?」

エルも、ケントの視線を追って鳥を見つけた。


石造りのフクロウだった。

なぜ、石像が飛んでいるのかは分からない。

だが、確かに飛んでいた。


その直後。

ダダダと、連続する破裂音が聞こえた。


「え…?」

ケントは音のした方を見る。

エルが、脇腹から胸にかけて舐めるように血が噴き出す。

鮮血を飛ばしながら倒れていく。


「エルっ!!」

慌ててケントが駆け寄る。


エルを囲むようにして周りに人だかりができる。

「大丈夫か!?」

「あぁ…だ…大丈夫だ…」


エルは苦しい顔をしながらも、傷から溢れる血を手で押さえていた。


ふと、ケントが視線を上げる。

「おい、なんで…」

前方の人の群れの間に。

見慣れた赤髪の男がいた。

翡翠色の瞳は確かにこちらを見ていた。


「なんで、まだいるんだよ……」


赤時開智。


彼の手に持つマグナムの銃口がケントに向けられる。

しかし、その前に赤時はパニックになった雑踏の中に紛れて消える。


ケントはスマホを取り出し、ツバサの元に連絡する。

『どうした、ケント?』

「エルが…エルが!!」


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