奇妙in歌舞伎町 sideエル・シーズン
エルは最初から歌舞伎町にある異変に気づいていた。
この街に溢れる魔力はとても流動的だった。
ものすごい勢いで魔力が生み出され、そして消えていく。
それがかえって不自然すぎた。
魔力の流れがただの街にだけ起きるというのはエル・シーズンをもってして、初めての光景だった。
(まさか…)
一つの結論にたどり着いた時、目の前にポツンと金色のカナヅチが置かれていた。
「カナヅチ?」
近づいてにそれに触れようとする。
(どこかで見たような…)
あと少しでカナヅチに手が届くその時、
「
どこからか低い声がする。
突然、カナヅチがひとりでに動き出し、アスファルトの地面を叩いた。
無数の黒い五角柱が顕現し上へと伸びる。
(あれは…)
「【柱槍】」
黒い五角柱は槍の様に尖った先端を向けてエルに襲いかかる。
「【贄よ——】」
しかし背後から現れた、アスファルトの棘によってエルの詠唱は遮断される。
咄嗟に回避をしたが、足首に棘の一撃が掠っていた。
「くっ…」
コツコツと、靴の音が奥から聞こえてくる。
「全く…僕の城に堂々と土足で入ってくるとは大したもんだねえ、キミ」
真っ黒な革製のローブを羽織った茶髪の男。
その男の右手にはさっきのカナヅチがあった。
「そのカナヅチ…お前のか?」
「あぁ、そうとも。わざわざ向こうから持って来たんだ。どうだ、すげえだろ?」
黙っているエルの前で自慢げにそのカナヅチを回してみせる男。
「そういや、名前を言い忘れたな。俺は、ジョニー・スコット。しがない冒険者だぜ」
ジョニーが誇らしげに胸を張る。
「それでお前は誰だ?」
「エル。エル・シーズンだ」
「エル・シーズン?ヘンテコな名前だなぁ」
思わず、眉間に皺が寄る。
「まぁいいや、お前は侵入者だ。お前もこの町の糧となれ」
そう言って、ジョニーは金色のカナヅチで横のラブホテルの壁を叩いた。
ホテルに亀裂がはしり、崩れ落ちていく。
「
瓦礫がまるでブロックの様に組み集い、巨大な人の形に積み上がる。
(大きい…)
その大きさにエルは見上げてしまう。
隣のビルと同じ大きさの鉄とコンクリート製ゴーレム。
通路を阻む壁の様にソレは立ち上がっていた。
「人はいねぇからよぉ、安心…しなっ!!」
ゴーレムが雄叫びを上げ、自らの巨大な拳をエルにめがけて振り下ろす。
その拳はまるで隕石の様に重圧をかけながら迫っていた。
しかし、彼もそこまで焦ってはいなかった。
「【贄よ這い出よ】」
冷静に詠唱しながら、ゴーレムの一撃を避ける。
「【贄、全断の剣】」
紫色の魔法陣が右手を照らす。
その手中に顕われたのは、刀身の輝く両刃剣。
エルがその剣をゴーレムの右手に突き刺し、複合ビルの壁をつたって、剣を引きずりながら一気に駆け上がる。
ゴーレムの腕は、綺麗に縦に両断されていく。
腕を完全に真っ二つにし終え、ゴーレムの頭部まで辿り着くと両刃剣は役目を終えて光の塵と化す。
「【贄、
新たに生成された紫色の魔法陣の中から、超高速の杭の形をした一本の槍が放たれる。
杭はゴーレムの顔の中心に大きな風穴を開ける。
だが——
「それで終わる訳がないだろう?!」
ゴーレムが左の手でエルを殴り抜く。
その巨体からは出るはずのない驚異的なスピードの動きから、エルは咄嗟の対応が出来ずに建物の壁に激突する。
身体の半分を壁にめり込ませるエル。
その直後、もう一つの拳がエルを更に壁の中へと沈める。
「ぐっ…!!」
建物は遂に耐えきれずガラガラと崩れ落ちていく。
「ハハハ…どうだよ。ゴーレムの威力は」
口を大きく開けて笑うジョニー。
その目の前には、瓦礫の山が出来上がっていた。
瓦礫を押し退けて、埃だらけのエルが出てくる。
「いやぁ、参った参った」
苦笑しながら瓦礫の山から現れた。
「やっぱり、強いね」
ニヤリと笑うジョニー。
「そうか。それなら…さっさと、死ねば、いいさっ!!」
猛々しく吠えると、同時にゴーレムが左手を勢いよく振り下ろす。
「でも、強いのは…」
エルは、不気味なほど清々しく笑う。
「その、ゴーレムだけだ」
そして、ゆっくりとゴーレムの一撃を眺め、
消えた。
「【贄、
詠唱でゴーレムが崩れ落ち、土煙が辺り一体に舞う。
「なっ、煙幕のつもりか!?」
しかし返答は返ってこない。
代わりに、ジョニーの右の脇腹に激痛が走る。
「!?」
見れば、そこに瓦礫を固めてできた短い槍が突き刺さっていた。
「キミの敗因は二つある」
その土煙の中で、エルの声が響く。
「一つは、僕の事を知らなかった事」
ジョニーが気づいた時にはもう遅かった。
エルの掴むガラスの欠片がジョニーの首筋を一閃した。
「もう一つは、その宝具に頼ってばかりで何もしなかった事」
ジョニーは呻きながらアスファルトに膝をつく。
「カッ……アッ…」
「大丈夫。致命傷は避けた。けど、失血で死ぬだろうね。もがき苦しみながら」
「ガッ…ァァァ!」
「苦しいだろう?僕なら助けられる」
悪童じみた笑みでジョニーを見ていた。
「た、たじげ……」
「そうか、なら…」
エルはジョニーの頭を掴み、睨む。
「お前の城なら全て教えろ。この歌舞伎町は、生きているのか?」
*
翡翠色の眼が、エル・シーズンの姿をビルの窓越しに見つめる。
「使えねぇ…ホームで闘っていたってのに」
燃える様な赤髪をかきむしり、椅子を蹴り飛ばす。
椅子は、2回バウンドして壁にぶつかる。
「まぁいい。計画は順調だ…あと40%…」
一人呟き、クヒヒと、狂ったような声を漏らしながら口角を上げた。
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