第7話 桃から生まれた桃太郎

 今年で大学生となった桃は、バスに揺られて田舎の祖母の家へと向かっていた。バスには珍しく同い年くらいの男子が一人と、あとは自分だけだった。

 祖母の家に着くと、彼女は嬉しそうに茶と菓子を出してくれ、そういえばと口を開いた。なんでも昔一度だけ遊んだことのある近所の孫もここへ来ているらしいと。同じバスに乗ってきたあの男子だろうかと頭の中で思い出しながら、祖母に頼まれお裾分けをその家へと持って行った。

 家の前に立った瞬間、桃は思い出した。何回か前の、自分が『宮子』という女性だったときのことを。

 そしてその瞬間扉が開き姿を見せた男子の顔を見てさらに驚く。相手も桃と同じようにハッと息を飲んだような顔をした。


 「い、いさおさん・・・・・・」

 「みやこ・・・・・・」


 彼の家は、元々彼らの家があった場所にあった。

 宮子を思いだした桃が桃太郎のことを思い出すのは必然で、桃はかつて勇男の墓があった場所であり、桃太郎の生命樹である桃の木のある場所へと走って向かった。

 息を切らしてたどり着いた小高い場所、そこにあったはずの桃の木は、もうそこにはなかった。もう桃太郎は、この世界にいないのだ。


 桃は桃太郎と過ごした日々を思い出し、涙した。最期まで、幸せだったのだ。そんな彼女の肩を、勇男は黙って抱き優しく摩る。


 彼らは数年後、結婚し夫婦となった。

 そしてその数年後、二人の愛の結晶が生まれる。



 「おんぎゃぁあああ、おんぎゃぁああああ」


 艶やかな黒髪に一筋の桃。







 桃から生まれた桃太郎は、初めて触れる新しい世界に猛々しい泣き声を上げ、それは病室を揺るがすほどだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おうなとももたろ。 狼蝶 @momogi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ