第3話 カラーカースト

 【剣士】のジョブを得た少年が狼の姿をしたモンスターに切りかかり、その横から【弓士】の少年が弓を射つ。

 攻撃を受けて下がった【拳士】の少年を【癒し手】の少女が回復する。


 探索者学園に通う生徒たちはとても素人とは思えない動きをし、モンスターの攻撃を食らった時にも怪我一つ負わずにケロリとしている。

 これが【ジョブ】の力だ。ジョブを得るとそのジョブに沿った動きや【スキル】という特殊能力を扱うことができるようになる。剣士なら剣を使った戦い方、癒し手ならば回復魔法などの回復手段を覚えることができる。

 そして、ジョブには個別に【HP】という数値が設定されていて、これがバリアとして機能する。敵に噛みつかれても、角で突かれても、爪で切り裂かれても、HPが残っている状態なら一切怪我はしない。


 敵のモンスターは切ったり燃やしたりすれば普通に怪我もするし焦げるのだが、ジョブを持っている人間は怪我や後遺症の不安を覚えずに誰でも戦うことができる。

 この【ジョブ】という力があるからこそ、多くの人間が探索者を志したと言える。

 ファンタジーに憧れている人間は多いが、まともに敵と戦えなかったり、痛い思いをして怪我に苦しんでまで探索者をしようとする奇特な人間はほとんどいない。何度かモンスターと戦って、怪我をした時点で多くの人間は探索者を諦めるだろう。

 現実はゲームではない。だからこそ逆に、ゲーム感覚でダンジョンで戦えるジョブの力は探索者に受け入れられた。


 そして、ゲームのような力を与えられた人々を見て、学園の教官たちは思った。


「ジョブの種類が多すぎて画一的な教育ができない! 絶対に失敗する!」


 先ほどの一例でも【剣士】【弓士】【拳士】【癒し手】の四つのジョブがあった。

 だが他にも【槍士】【盾士】【斥候】【盗賊】などのジョブがあったり、同じ名前の【魔法使い】のジョブでもスキルが【火魔法】だったり【支援魔法】だったりとバラバラ。

 似たようなジョブはスキルの内容も似る傾向があったが、例外事例も決して無視できないくらいに多い。【格闘】と【回復魔法】で殴りプリーストをしている人間すらいた。


 この現状を見て教官たちは一つの対策をつくった。

 前衛は『赤』、後衛は『青』、支援は『黄』。とりあえずそれぞれのジョブの立ち位置ごとに分けて、三色をバランスよく混ぜることにした。

 前衛だけのパーティ、後衛だけのパーティというような歪な編成ができないように心掛け、それの振り分けを『リストバンドの色』で示した。


 このリストバンドの色分けは一定の成果を出し、臨時パーティを組む時にリストバンドの色をまず確認するというような習慣も発生する。

 同じ色のリストバンド同士で戦闘のコツやチーム内での立ち回りを教えるなど、交流を促す効果もあった。


 だが、こうして分けられたジョブの中には三色に当てはまらないジョブもあった。

 一つは『万能のジョブ』。前衛・後衛・支援の全てをこなすことができるジョブで【勇者】や【道士】という希少なジョブだ。このジョブの色は『白』に決まった。

 そして、もう一つは『特殊なジョブ』。前衛・後衛・支援のどれにも当てはまらないジョブで代表は【魔物使い】。モンスターカードを使って魔物を使役して戦わせるジョブで本人は戦わない。このジョブの色は『黒』に決まった。


 主流となる『赤青黄』の三色、万能の『白』、そして異端の『黒』。

 学校での成績上位パーティには『白』のジョブ持ちが多く、反対に下位のパーティには『黒』のジョブが多かった。

 学年トップのパーティは【勇者】が率いていて、最下位のパーティにはマサルと同じ【魔物使い】のいるパーティだった。


 こうした状況から、時とともに『白』は羨望の眼差しを向けられ、『黒』は周りから疎まれるようになっていく。


 後のスクールカーストならぬカラーカーストの誕生である。


 ◆ ◆ ◆


 パーティメンバーたちと初めてダンジョンに潜った日から早三日。

 午前は通常授業を受け、午後はダンジョンで実習をするという毎日が続いている。

 今俺たちが探索しているのは草原型のダンジョンで青空の下に草原がずっと続いているというダンジョンだ。

 ちなみにダンジョンの入り口は謎の模様が描かれた光る魔法陣。その上に乗るとダンジョンに飛ばされて、帰りもダンジョンの中の魔法陣に乗ると帰れる。


 そういう仕組みなのでダンジョンは『小さな異世界』、【異界】という呼び名もネットで使われている。この草原もずっと昼間のままで何時間経っても日が陰ってきたりしない。足元に生えている植物も地球上の植物とは別物らしく、<ダンジョン異世界説>なんて騒がれている。


 さて、あれから三日。さすがに初日の一件以降は赤ずきんもパーティメンバーをからかうこともせず、真面目に討伐しているのだが。


「どう見ても避けられてる」


 うちのパーティは五人いて、前衛あかが三人、後衛あおが一人、そして特殊くろの俺だ。

 この草原フィールドに出てくる敵は狼と狐の二種類で、狼は常に三匹の群れで行動し、狐は草に隠れながら接近して奇襲をしてくる。

 だから前衛三人で狼三匹を引き受けて横から赤ずきんに攻撃させたり、手分けして周囲を警戒して狐に備えたり、そういうチームプレイをしたかった。


「ねえマスター。どうしてあの人たち、こっちを見ているの?」

「お前がいるからだよ……完全に気が散ってるじゃん……」


 だが、どうもパーティメンバーたちの反応がよろしくない。

 目の前に敵よりもその周囲で隙を伺っている赤ずきんの方に気がいってしまい、戦闘そのものがおろそかになってしまう様子だった。

 仕方ないから隠れている狐を探して赤ずきんと二人でチマチマ狩っているがすごく効率が悪い。パーティごとの成績が毎日の授業後に公開されるのだが、うちのパーティの順位は初日から少しずつ落ちていた。


「このパーティ、無理な気がしてきた……」


 狐を見つけてさっそく切りかかった赤ずきんに反応してこっちを見ている後衛あおの生徒の姿にため息が出そうになる。


「あはははは! いつ死ぬの? ねえ、いつ死ぬの? まだ切っていいの?」


 踊るようなステップを刻みながら狐モンスターを切り刻み、スプラッターな光景を作り出している赤ずきんのハイテンションな笑い声がダンジョンの空に吸い込まれていった。

 ……まあ、あんなことしてたらつい目で追ってしまうのも仕方ない気がするけど。それでもいくらなんでも赤ずきんを見過ぎだろう……。


「これは今日も期待できそうにないな……」



 ――ダンジョン実習四日目。

 この日、俺たちのパーティが学年で一位の成績を記録した。

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