第62話 翻弄した覚えはありませんよ?

「え、っと……?」


 これは、夢かしら?わたくし、まだ夢の続きでも見ているのでしょうかね?

 そうですわね。きっとそうですわ。

 だって……。


「見つけたよ、トリア」

「っ!!」


 ど……どうしてわたくしの目の前に、リヒト様がいらっしゃるのですか!?

 そもそもわたくし、まだベッドから出ていませんのよ!?

 お父様!?なにを驚いた顔をされているのです!!わたくしの方が驚いておりますわよ!?

 それにどうして殿方をお連れしたんですの!?こんな姿を見られるなんて、恥ずかしすぎますわ!!


「どうして、リヒト様が!?」


 と、とにかく目元までは隠さなくては!!嫁入り前なのに、こんな姿を見られてしまうなんて……!!

 もうリヒト様以外の殿方になど、嫁げませんわぁ!!


「どうして?酷いなぁ。私はちゃんと、約束を果たしに来たのに」

「や、約束……?」

「君が言い出したことだよ?ほら。私は君を、見つけただろう?」

「…………。……っ!?!?」


 ゆ、夢じゃなかったんですの!?!?

 え?え!?じゃあ、あれはっ……あの日々は、全て本当にあったことだったんですの!?あれが現実だというのですか!?

 わたくし、幽霊でしたけれど!?!?


「だから今度は、君の番だ」

「え?あの……」


 近づいてくるリヒト様に、思わずベッドの上で後ずさりをしてしまいました。

 だ、だってっ!!こんな姿、好きになった殿方になんて見られたくないじゃないですか!!


「ようやく、君に触れることが出来るんだ。それなのに……君は、私から逃げようとするのか?」

「逃げ……ち、ちがっ……」

「たとえそうだとしても、逃がしはしない。今ここで既成事実を作ってでも、私は君を手に入れる」

「な!?」


 もうほとんど既成事実が作られたようなものではありませんか!!この状況ならば!!

 わたくしに今からリヒト様以外の殿方に嫁げと!?こんな姿を見られておいて!?


「君は生きている。そして私の婚約者候補として王都へやってきた。それなら私が君を望んでも問題ないだろう?」 

「そ、れは……」

「私は君を選んだ。その事実は誰にも覆すことは出来ない」


 そう、です、けれどもっ……!!

 おかしいですわ!!リヒト様はこんなにも強引な方でしたっけ!?

 どうすればいいのか分からなくて、お父様やアンシーに目で訴えてみますけれど……。


(だ、ダメですわ!!二人とも驚きすぎて、目と口が開いたままですもの!!)


 ど、どうしましょう!?わたくしっ……わたくしは一体、どうすれば!?


「なるほどな。こうすると、君を翻弄できるのか」

「翻弄って……!性格悪いですわね…!!」

「……何を言っているんだ。元々先に私を翻弄していたのは、君の方じゃないか」

「わたくし、ですか……?いいえ?わたくしリヒト様を翻弄した覚えはありませんよ?」

「……無意識な上に無自覚というのは、本当にたちが悪いな」


 幽霊だったので、死んだと思っていたのです。なので多少は、その……羽目を外した覚えはありますが。

 だからといって、一国の王子を翻弄するような真似をした覚えは、一切ないのですけれどね……?


「意見の相違、ですわね?」

「あぁ。だが、それはおいおい解決しようじゃないか。今は君に、約束を守ってもらう方が先だ。ねぇ?ヴィクトリア嬢?」

「え……?え、っと?」

「今度こそ、答えをもらいに来たんだよ」


 それは、つまり……。


「私と、結婚して欲しい」

「っ!!」


 幽霊として過ごしていたあの日、二人きりで交わした約束を。


「…………は、い……。はい、リヒト様」


 今度はわたくしが、果たす番なのです。








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