第6話 壁が!!すり抜けられる!!
「今一番に考えるべきは国の腐敗の阻止と、貴族たちによる民からの必要以上の搾取についてだろう?それ以外は二の次だ」
「ですが、リヒト様が国王陛下となられることが決定すれば、それら全てが解決へと向かわれるはずです」
「それが簡単にできないことなのは、お前たちもよく知っているだろう」
「それはっ……」
「この話はここまでだ。心配するな。別に何も考えていないわけではない」
「……そう、ですね。差し出がましいことを申しました」
「いや、いい。……あぁ、そうだ。いつものことながら、紅茶の茶葉選びも淹れ方も上手いな」
「お褒めにあずかり光栄です」
「これからも、頼むぞ」
「はい」
たしなめてから、褒める。
良い言葉で会話を終わらせるのは、もしかしたらこの方の常套手段なのかもしれない。人心を、掌握するための。
(けれど実際、一体何人の方がそれを日常的に出来るのかしら)
知識として知っていても、出来るかどうかはまた別ですもの。
何より声を荒らげるでもなく、静かにたしなめつつ相手に不快感を残さず、そして謝罪はすぐに受け取る。
(確かに、王の器なのかもしれませんわね)
果たしてリヒト様以外のご兄弟が何人いらっしゃって、どんな御方なのか。わたくしは何一つ知りませんけれど。
この方が国を動かすのであれば、わたくしも安心して死んでいられるというものですわ。
とはいえリヒト様の王位継承権の順位も分かりませんし、そのあたりは難しいのかもしれませんけれども。
(情報が、少なすぎますわね)
何も分からないこの状況、なんだかモヤモヤいたしますわ。
せっかく幽霊という便利な状態なのですし、何とかこれを利用できないものかしら――――
「いつまでそこに張り付いているつもりなんだ」
『…………あら?』
声をかけられてようやく、考え事に没頭していたのだと気付かされました。
いつの間にやら先ほどのおじさまは部屋を出て行っていたらしく、呆れ顔で見つめてくるリヒト様が小さくため息をつかれていて。
『まぁ!失礼いたしました』
「いやまぁ、そこが好きならいくらでもいてくれて構わないが」
『まさか!天井とはお友達ですけれど、お話しできませんもの!』
「…………」
きっとしばらくはまだあの天井部分にお世話になるのでしょうけれど。
それとこれとは、話が別なのです。
『それよりも、こんな風にお話を聞いてしまって……』
正直本人には知られた上での立ち聞き……あ、いえ。浮き聞き。
申し訳ないとしか言いようがありませんわ。
「いや、いいさ。どうせここにいるのなら、遅かれ早かれ知っていたことだろうしな」
あら、まぁ。
本当に何とも、心の広いお方ですのね。
「まぁとにかく、今日は――」
「失礼いたします」
『きゃああぁぁっ!?』
お話しすることに集中しすぎていたあまり、扉を背にしていたことをすっかり忘れてしまっていたわたくしは。
後ろから聞こえて来たノックの音と声にすぐには反応できず、思わず天井ではなくまっすぐ前に向かって飛び出してしまっていて。
気づいた時には、既に遅く。
「……リヒト様?どうかなされましたか?」
「……あ、いや。何でもない」
『…………』
わたくしはリヒト様をすり抜けて、さらにその先の壁の中に頭からすっぽりと…………。
『あら?も、もしかして……』
恐る恐る、体を後ろへと動かしてみると。
ようやく目の前に現れたのは、どう考えても壁。
「お時間になりましたので、執務室へのご移動をお願いいたします」
「あぁ。今行く」
後ろで交わされている会話すら、聞こえているけれど記憶に残るかすら怪しいくらい、今わたくしは……。
『ま、まさかわたくしっ……』
壁が!!すり抜けられる!!
その事実に、興奮しておりました。
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