第4話 幽霊って便利ですわねぇ
「それで?実際に何が出来るんだ?」
『そうですわねぇ……』
幽霊になる前に何が出来たのか、は分かりませんし。仮に分かったとしても、今も同じことが出来るとも限りませんものね。
今のわたくしに出来ること。
確実に出来ることといえば。
『まずは、お話し相手にでもいかがですか?』
「…………」
あら?黙ってしまわれましたわ。
けれどあながち悪くはないのではないかしら?少なくとも、今こうやってお話ししているのですから。
『……あ。もしや、既にそういったお仕事をされている方がいらっしゃるとか!?』
「いや、いないが……」
『ではぜひ!』
「…………それは本当に、必要か?」
あら!分かっていらっしゃいませんね?
簡単には口にできないようなことも、死んでいる相手ならば話しやすいかもしれないではないですか!
『必要になった時に、お使いになって下さればいいんですのよ。日々の愚痴でも構いませんわ!』
「愚痴、か」
おやおや?その感じですと、愚痴はないわけではなさそうですわね?
人間ですもの。しかも生身の生きている人間。愚痴りたいことがない生活なんて、出来るはずがないですもの。
…………わたくしもそういう生活をしていたのかもしれませんが、記憶はございませんね。なので勘ですけれど。
でもほら、間違っていないのではなくて?
「だがそれを君が他の者に話してしまわないと、どうして信用できると思う?」
『あら。だってたとえわたくしがそれをどなたかにお話ししたとしても、わたくしには何一つ得がありませんもの』
「損得の問題ではないだろう?」
『そうですか?わたくしとしては、あなたにここから追い出されてしまうことの方が損ですもの。むしろそんなことをする意味がありませんわ』
「……まぁ、そうだな」
ほら、そうでしょう?
『ですからまずは、お試しとして――――』
どうでしょう?と。わたくしが口にする前に。
コンコンと、部屋の扉を外からノックする音が聞こえてきたのです。
「!!!!ひとまずどこかに隠れていろ!」
『え!?え、っと……どこかって、どこへ……』
「どこでもいい!とにかく見つからない所へ!早く!!」
『は、はいっ!!』
小声だけれど焦ったようなその言葉に、ついついわたくしは急かされてしまって。けれど人間、急いでいる時ほど思考が追い付かないものですのね。
隠れようとしても、隠れられるような場所がすぐには見つけられなかったわたくしは。
苦し紛れの策として、入り口付近の天井まで昇って行き。そこでぴったりと張り付くようにして、息を殺していたのです。
……幽霊なので、息、していないはずなのですけれどね。
「おはようございます、リヒト様。本日のご予定をお伝えに参りました」
「あぁ、ご苦労。早速だが教えてくれ」
「はい」
あら、所作が綺麗なおじさまですのね。
そして先ほどからお話ししていた方は、リヒト様と仰るのね。
(それにしても……)
これだけで気づかれないあたり、幽霊って便利ですわねぇ。だってまさかこんなところに人がいるなんて、普通は考えませんもの。
いえ、本当にこんなところに人がいたら怖いですけれど。
(……ん?あら?こんなところに人ではなく幽霊がいるのも、それはそれで怖くないかしら??)
わたくしはわたくし自身を怖いとは思いませんけれど。自分の部屋に突然幽霊が現れたら驚くでしょうし、恐ろしいかもしれませんわね。
そう考えると、普通に会話を続けてくださっているリヒト様はとても心の広いお方なのかもしれません。
まだ続く一日の予定をなんとなく聞きながら、わたくしは真剣な表情で頷くリヒト様に感謝の念を抱きつつ。
その場でじっと天井に張り付いていたのです。
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