第3話 あなたのお役に立ちましょう

「どこ、って……どこへでも好きなところへ行けばいいだろう?」

『好きなところ……。たとえば、どこでしょうか?』

「たとえば!?たとえば、そう、だなぁ……」


 う~んと唸るその姿は、真剣に考えて下さっている証拠なのでしょうね。

 名も知らぬ幽霊にここまで親切にして下さるなんて、本当になんてお優しい方なのでしょう。


「女性ならば、花が咲き誇る庭園はどうだろうか?」

『まぁ!素敵ですわね!それでその素敵な庭園はどちらにあるのでしょうか?』

「…………」


 あら?こちらを見つめたまま固まってしまわれましたわ。

 けれど仕方がないのです。わたくし案内がないままでは、どこがどこやら何一つ分かりませんもの。


「……行く当てがない幽霊をどう扱えばいいのかなど、誰に聞いても教えてはもらえないだろうなぁ」


 あらあら。そんな遠い目をされて。

 そんな質問、わたくしだってされたら困りますわ。むしろ今わたくしが一番その答えを知りたいのですもの。


「いっそ何か特殊なことが出来るのならば、むしろ大歓迎なのだが」


 その手がありましたわね。


『なるほど。では、わたくしはあなたのお役に立ちましょう』

「は?なぜそうなる??」

『こうしてお会いしたのも何かの縁ですから!』

「…………いや……意味が分からん……」

『お任せください!わたくし幽霊ですから、きっと使い勝手はいいですよ!』

「何が出来るかも分からないのに、可能性の話をするな!!」


 はぁ~~と特大のため息をつかれていますけれど、わたくし何かおかしなことを申しましたでしょうか?

 実際幽霊であることに変わりはないのですもの。折角のこの機会、利用しなくてどうするというのです?

 それに。


『この場所にわたくしがいるということは、何も関係が無いとも言い切れませんもの』

「それは、確かにそうだが……」

『でしたらぜひ使ってくださいませ。その間にもしかしたら、何か思い出せるかもしれません』

「そう言われるとな……」


 何の関係もない場所に、ある日突然現れる幽霊、なんて。普通に考えたら、あり得ないと思いますもの。

 この場合の"普通"が何なのかは、ひとまず置いておきますが。


『場所かもしれませんし、人かもしれませんし、物かもしれませんし。わたくしがここにいる原因が分からない以上、離れるのは得策ではない気がいたしますの』

「…………本人にそう言われると、納得せざるを得ないんだが?」

『あら。失礼いたしました』


 けれどきっと、あながち間違いでもない気がいたします。

 ただの勘ですけれど。


「まぁ、仕方がない。行く当てもない相手を幽霊だからと追い出すのも、なんだか悪い気がするからな。仮にも令嬢、なのだろうし」

『ありがとうございます!』


 これでしばらくはここに置いていただけるのですね!

 あ、いえ、でも……殿方のお部屋に居候なんて、もしかしなくてもわたくし図々しい上にはしたなかったかしら?


(いいえ!この場合は不可抗力ですもの。仕方がなかったのです)


 そうわたくしはわたくし自身を納得させて、うんうんと頷く。

 下から怪訝そうな顔で見られていますけれど、ここはあえて気付かなかった見なかったフリをして。


『では、まず何からお手伝いすればよろしいのでしょうか?』

「切り替えが妙に早いな」

『きっとそこがわたくしの良いところですわ!』

「…………そうか」


 まずはこの方のために、わたくしに何が出来るのか。そこから、ですわよね!













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