第12話
「げ、ゲーム?」
「そうなの。ゲームなの」
わけも分からず俺は聞き返した。妹は悲しそうな顔をしながら、再び「ゲーム」と答えた。なんのゲームをしているのか、そしてそのゲームの対象が何故俺なのか不思議で仕方なかった。
ふと横を見ると部長は妹と違いニヤニヤと俺を見下すかのように笑っていた。
「何が可笑しい!」
「いやぁ、美由紀と君は呼んだね。それは私の妻の名前なんだよ」
「は?」
「君の初彼女の名前は【夏美】だ」
「何を言っているんだ?」
「まだ分からないか。いやまだ分からない方が面白いのかもな。さて【ゆきちゃん】お兄ちゃんの手錠を外してあげて?」
ゆきちゃん?
お兄ちゃん?
何を言っているこいつらは。いやむしろなんで俺は人の名前に対して疑問に思っているんだ。いや、待てよ。俺は誰なんだ?
手錠がガチャンッッと床に落ちる。その音で俺の頭の中は真っ白になった。
気づけば目の前に部長と妹が居た。俺は叫んだ。
「お前らなんなんだよ!」
「え?」
「俺になんの恨みがあって殴ったんだ」
「そこからか……」
部長や妹は悲しそうな顔を浮かべながら、俺を連れて外へ出る。綺麗な景色が拡がる庭、風でゆらゆらと揺れる木々。以前来たかのような感覚に襲われる。
「ここはなんなんだ」
「お兄ちゃん。帰ろ」
「あ、あぁ」
「帰ってゲームの続きしよ」
「え?」
「ううん。なんでもない」
妹は俺の手を強く引っ張りながら、足音をズシズシと響かせ前に進んだ。俺はただそんな妹の後ろをついて行くしか無かった。
ただこの時俺は【何か忘れてるんじゃないか?】なんてことを思っていた。いやむしろ思い出さなければいけないことがあるんじゃないか。そう思っていたが、それが【なんなのか】、そしてそれを思い出して【なんになるのか】が分からず思考を放棄した。
気づけば数十分も歩いていた。
俺は妹に聞いた。
「どこに向かってる?」
「おうちだよ」
「いやそれにしても」
「うん。だってこの街には電車が無いから」
「あるだろ。【松本駅】行こうぜ」
「そんな駅無いよ」
「え?」
「忘れたの。【松本駅はお兄ちゃんが7歳の頃に無くなった】ってお母さん言ってたじゃん」
「な、何を言ってる?」
俺は分からなかった。俺の記憶ではここから歩いても1分もしないで駅に着くはずなのに、それを【無くなった】なんて言う妹の思考にただ理解が出来なかった。
何が起きているんだろうか。いやそもそも部長って誰なんだ。可笑しい。俺はまだ【7歳】なんだから。
待てよ。俺は7歳なのになんで妹なんか居るんだ。
そう思った瞬間俺は叫んだ。
「お、お前は誰だ!」
「え?」
「お、俺は7歳だぞ?!」
「あ、お兄ちゃん。徐々に思い出してるんだね」
すると突然俺の脳に痛みが走り目の前が真っ暗になり始めた。薄れゆく意識の中でひとつの言葉が聞こえて来る。
「お兄ちゃん。ごめんね。私はもう優しい妹じゃ居られないかも。起きたらまた遊ぼうね」
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