4章

第1話

 目が覚めると、ふかふかのベッドに横たわる自分の身体、そして俺の傍には【妹】が居た。


「お、おい」

「んー?」

「俺何してたんだ」

「うん。私とゲームして遊んでたよ」

「なんのゲームを?」

「このRPG」

「そ、そうか」


 俺は曖昧な記憶の中、目の前に居る妹だけが俺が寝ている間のことを知っていると思い、質問で詰めてやろうと、再び妹に声をかけようとした時だった。妹はニコッと可愛い笑顔を浮かべながら言った。


「すみません。貴方にお話合わせてましたが、貴方どなたです?」

「え?」

「私は道端に倒れていた貴方を助けた迄で、妹なんかじゃありませんけど」

「はい?」

「貴方お名前は?」

「えっと俺は。俺は誰だ?」

「記憶喪失なんです?」

「記憶喪失?」

「深い原因がありそうですね。私と少しずつ思い出しましょう」


 かすかに残る記憶から【妹】と導き出した目の前にいる人物。その人物は【妹】ではなくただの別人だった。ただただ困惑していると、その女性は次に俺の頬に手を当てながら言った。


「貴方は私を知っているのですね?」

「いや、妹じゃないなら分かりません」

「あらそうなんですか。ところで妹さんは私に似てるんです?」

「そう言われれば、えっと」


 俺はどうにかして妹の姿、顔、服装、声を思い出そうとしたが、何も思い浮かばない。むしろ、妹なんて本当に存在したのかどうかさえ怪しいように思えてしまっていた。


「貴方の脳細胞が壊死してるのかしら」

「え、壊死?」

「はい。つまり記憶喪失よりも酷いってことですよ。まぁ、そんなことは有り得ませんが」

「あの、ところで貴方のお名前教えて貰っても?」

「あぁ、自己紹介遅れましたね。【ゆき】って言います」

「ゆきさんですか」

「以後お見知りおきを」


 ゆきと名乗る女性は次に何か注射針のような物を持ちながら俺の腕に刺してこようとしていた。俺は抵抗しようかと思ったが、何故かこの人になら刺されてもいいなんて思ってしまっていた。


 注射針が腕に刺さり血管に到達した瞬間、俺の瞳の奥にさささっと何かの記憶が溢れ出る。


 そこには男のモノを持って悲しげな笑みを浮かべながら誰かを見ている女性の姿。

 なにかの機械を耳に近づけながら聴いている青年の姿。


 その後ろからその青年を見守る、今先程まで話していた【ゆき】の姿。


 そしてその光景が終わった瞬間、俺は【ゆき】の目の前に帰ってきていた。


「大丈夫です?」

「へ、へ?」

「なんか意識飛んでたみたいですけど」

「い、いや変な光景を見たというか」

「へー。とりあえず今日はゆっくり休んでください。貴方の原因が分かるまで私が看病するので」

「あ、はい」


 ゆきさんはどこかに消えていき、俺はだだっ広い部屋に1人きりになった。自分の身に何が起きているのか分からないが、今わかることはひとつ。


【ゆきさんめっちゃ可愛い。好きになりそう】


 ということだけだった。

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