第10話
部長は痛そうな顔をひとつせず、店員さんにおしぼり2つ頼み、自分の手からフォークを抜いた後に熱いおしぼりで傷口を押さえつける。
部長の行う行動全てに頭が真っ白に、腕が震え始め、やがて俺はハッと思い出す。
俺は何をしているのかと。俺は部長に何故妹との繋がりがあるのか、どこで知り合ったのか、何故妹はあのような察知能力や俺の秘密を知っているのかを聞くためにここに来たのに。
俺は部長が店員と揉めながら「大丈夫だ」と言い店外へ出ようとするのを止めるように叫んだ。
「待て。くそオヤジ!!」
「……ふむ?」
「まだ話は終わってねぇぞ……」
「おぉ。そうかい。なら帰り道話そーか」
ギャルを必ず迎えに行くからと店員に頼み、俺は部長と店外へ出て夜の涼しい風が吹く街を歩いた。ただひたすらに部長に着いて行っていると、部長はおもむろに止まって話し始めた。
「……この公園だ。君の妹と出会ったのは」
「ここは……」
「君、思い出せないのかい?」
「い、いや覚えているさ!」
「ならいいけど。まぁここで君の妹。つまり私にとっては性対象であり、私からの愛を唯一向けられる子に変化したのさ」
俺は相変わらずキモイことを並べながらニタニタと笑う部長を横目に公園を眺めていると急に部長はその公園の遊具まで歩き始めた。
手にかけたのは滑り台の階段。すると部長は俺の方を向いて再び話し始めた。
「私はここで君の妹くんと会った。妹くんは何か悲しげな顔をしていてね」
「……へぇ」
「まぁその顔がとても綺麗で、悲しげな顔を笑顔に変えたらどうなるのか、どんなにいい表情を見せてくれるのか。楽しみになってね。そこから君の妹君とお話するよーになったのさ」
要するに部長は俺の妹が可愛くて可愛くて仕方なかったということだ。俺はそう頭で整理していたが、疑問がひとつ浮かんだ。
「部長。なら何故△くんに手を出した?」
「……君が言っているのは、
「菜岐佐……?」
俺は今まで妹から△くんとしか教えて貰っていなかった。
今まで家の表札にも△としか書いていなかった。
急に菜岐佐という訳も分からない単語を出され俺の頭は混乱していた。
「な、何を言っている?」
「ふむ。ますます私は君の妹くんに興味が湧いた。ところで、君の妹くんは以前君に忠告していたね。後ろに気をつけろと」
バコンッッと鈍い音が俺の頭に響く。
目の前が真っ暗になる。
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