第4話

 俺は先に自殺スポットなどを確認したくて、もっと飛ばせないかと確認すると、これ以上はスピード違反になるために出来ないと断られてしまった。モジモジしながら、早く着かないかと焦っていると、その5分後のこと、運転手は俺の方をチラッと見ながら言った。


「着きました」

「ありがとう。1万円置く。釣りは要らないです」

「いいんですか?」

「はい。美味しいご飯でも食べてください」

「ありがとうございます。あなたもお気をつけて」

「ありがとう。また会えたら乗せてください」


 運転手にペコッと頭を下げて、俺は問題の自殺スポットまで歩みを進めた。そこに広がるのは崖と海の存在。


 崖のへりに立つと分かる。死にたくなるんだなぁと。


 こんなところから落ちればひとたまりもない。それを狙ってここまで来ようとしたんだろう。そう考えていると△くんたちを乗せているであろうタクシーが到着したようで、俺はどこかの木の隅に隠れようと急いで崖から離れる。


 △くんたちは崖まで止まらずに進んでいた。しかしその歩みはのろく、今まで生きてきた人生を振り返るかのような歩みだった。△くんは不思議そうに母らしき女性の顔を見ながらのほほんとしていた。


 そして、母らしき女性は崖の近くまで着いた途端、△くんを抱きしめながら涙を流し、大声で言っていた。


「ごめんね。こんな母親で」

「お、おかあさん……?」

「ごめんね。ごめんね……」


 俺は今が行くタイミングだと飛び出そうとした瞬間だった。目の前にありえない光景が飛び込む。


 部長と妹。そして恐らく皮の手袋であろうものを身につけた黒づくめの男たちの姿があった。


 おそらく男たちは死なれないために、何か秘密を持ったままの女を殺す訳にはいかないために、来たのだろうと予想を立てたが、妹は何故来たのか、どの足を使ってきたのかがわけも分からず、俺はただジーッと事が起きるまで待った。


 数分間妹や部長、△くんに黒づくめたちは睨み合いながら、動く素振りを見せなかった。


 事が起きたのはそこから1時間ほど経った頃だった。日が沈み始めて辺りにひんやりとした風が吹き始めた時、部長は懐から出刃包丁のようなものを出して女性を脅しながら崖まで連れて行っていた。


 そしてそのまま女性を崖から突き落とす。


 何かあってからじゃまずいと来たはずなのに、俺は女性を助けることも出来ずにただ死んでいく姿を目撃した。


 そして△くんだけは助けようと木から飛び出そうとした瞬間だった。△くんは何故か笑顔で保護されて行った。おかしいと思い、俺は飛び出そうとしたが勇気が出ずただそこに立ち止まることとなった。


 だがこれでひとつ情報が増えた。


 妹と部長には関わりがあるということだ。


 ここを徹底的に調べあげて、女を殺した部長を。そしてそれを笑いながらみていた妹を懲らしめる。


 それが俺が今動くべき事なんだろう。

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