第3話
俺は小学生全員が学校からいなくなる15時を目安に戻っていく。△くんが現れたらオンボロアパートまで尾行し、実態がどうなのかを確かめるためだ。
午後2時半を回った頃小学校から低学年と思われる子達が楽しそうに下校し始めていた。ランドセルを振り回し遊んでる子、女の子同士で話しながら楽しそうな姿。
そしてその10分後に△くん○ちゃんが現れ、その中に妹の姿を視認する。校門前まで来ると妹と○ちゃんは同じ方向へ、△くんは別方向へと行った。
静かに△くんを尾行していると、△くんはタラタラと歩き、早く帰ろうという素振りを見せていない。むしろ帰りたくないのではないかと思わされるほどだった。
すると△くんが左へと曲がった時黒い車に乗せられている姿を確認する。助けなければと思ったが、黒い車には見覚えがあった。部長の車だ。
俺はアパートに先回りしようと全力で走りながら行ったが、数十分後。先に着いていたのはやはり黒い車の方だった。仕方なくジーッと見つめていると、頭をペコッと下げながら何かをもって出掛けに行く女性と△くんの姿、そしてその姿を笑いながら見ている部長の姿を視認する。
何が何だか分からず、恐らく妻であろう女と△くんを尾行しようとした時だった。後ろからあの時の老人が声をかけてくる。
「あのアパートの件には手を出すな」
「……?」
「あそこには深い闇がある。解体されると前は言ったがどうやらその話は無くなったようでね」
「そんな情報どこで手に入れるんです?」
「……長年生きてきたら、なにか異変があれば気づくものさね。あんたの闇もね」
「……それでも俺は闇に突っ込みます」
「死んでも知らないよ」
「死にかけの俺にはそんな言葉」
「そうかい。なら御守りだけでもやるよ」
「……ありがとう」
老人はゆっくりと帰って行った。老人から貰った御守りをギュッと握りしめながら俺は出来るだけ早足で△くんたちの姿を探そうとしていると、案外早めに見つけることが出来た。
だが、見つけた矢先△くんたちは車に乗り込み遠くへと向かっていった。尾行はここまでかと諦めようとしたが、何故か胸騒ぎがして、俺はタクシーを急いで拾い「前のタクシーを追ってください!」とドラマのようなセリフを吐いて△くんを追いかけた。
ずっと前を走るタクシーに、俺が乗っているタクシーの運転手は言った。
「お客さん。あのタクシーに何かあるんですか?」
「……妙な胸騒ぎがしまして。ちなみにこの先って?」
「えぇ。なんか自殺で有名なスポットがあるみたいです」
「……急いで。先回りしてください」
「もしかして……?」
「はい。その可能性がある」
「分かりました。安全運転を心がけている私でも1%でも死ぬかもしれない人を助けるためなら飛ばします」
運転手が話の通じる相手でよかったと安堵しながら、運転手の荒い運転に耐えながら先回りしようとタクシーを飛ばしてもらった。
もし仮に俺の予想があっていればあの女性は△くんを道連れに、心中するつもりだ。
死なれたくない。これは俺のエゴだがまだ助かる道がある。
助けるために手を伸ばしても助からないことはある。
だが、助けなきゃいけない時だってある。
この世界の命は尋常じゃないほどに大事だから。俺はそのためなら恨まれてもいい。その覚悟がある。
△くん。助けるからな。
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