第2話 パッとしない紅茶を美味しくする方法
ティーカップに口をつけ、灯子は首を傾げた。
お気に入りのティーカップにお気に入りの紅茶。気分は弾んでいたというのに、茶葉が悪いのか、自分の淹れ方が悪いのか、なんだかパッとしない味になった。
紅茶は好きだが、こういうことがよくある。
「はぁあ、なんでかなあ」
もう一度ティーカップに口をつける。やはりパッとしない印象は変わらない。
そういえば、お店に行ったときも紅茶を頼んで飲んでみたものの、頭を捻るということがある。遠慮がちにメニューに添えてある紅茶にありがちな展開だ。
大好きな古本喫茶でもそんなことがあった。チャイは
そうして飲んで驚いた。びっくりするほど美味しくなったからだった。
甘くなったからとかそういうのではなくて、もっと、紅茶の力が引き出されたというべきなのか。香りもなんだか入れる前よりもよくなった気がするし、喉を通っていく時間の流れにも満足感が増している気がする。
ただ、甘くするだけだと思っていた角砂糖が、こんなにも能力を持っているとはと一人静かに喫茶店の奥の席で感動した。そんな記憶が灯子の頭の中を駆け巡った。
灯子は棚に足先を向ける。あいにく、角砂糖は常備していないのだが、棚にはきび糖を入れた瓶があるので、それを一杯ティーカップへと入れてみた。ゆっくりとしっかりと小さな砂糖の粒一つ一つが溶けていくのを見届け、再び紅茶を喉に通した。
あのときほどの感動は、もう二回目ということもあって大きくはないのだが、ぐん、と紅茶の魅力が引き出されているのは確かに感じた。
特別なものでもないし、大量に入れるわけでもない。当たり前というように佇んでいるものを、身近にあるものを少し加えるだけ。それだけで、それの本領が発揮されるなんて、ちょっと希望を持ってしまう。
はて、自分にもそんなものが近くに佇んでやしないか。
灯子は辺りを見渡す。読みかけの本。お気に入りの食器たち。開きっぱなしのノートとその上に転がる万年筆。
分からない。
灯子は記憶を思い返す。
分からない。
自分を見て、自分に満足できない。
なんだかパッとしない。
ああ、あの人みたいにキラキラしていたらいいのに。
ただ、もし、あの紅茶のようだったなら、あの角砂糖を入れた紅茶のようだったなら、ため息を吐くばかりではなくて、案外近くにあるものを拾ってみると、自分もキラキラしたあの人側だったりして。
せめて、この紅茶を飲み干すまでの間、自分にとっての角砂糖を探してみようか。
灯子は深くソファに腰掛けた。
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