必殺技
──さて……どう動くか。
俺は腕を組んで考える。
今まではチハたんとは対人戦しかしてこなかったから、対戦車戦の要領がわからない。とりあえず正面は装甲厚いだろうから背後……いやせめて側面に回り込んでの射撃が有効か?
そう呑気に考えていると「バババババ……!!」と弾丸が頭上をかすめる。
「うぉっと……!? 危なっ!?」
慌てて俺はチハたんの中に入る。戦ってる最中だし、身を乗り出してたら狙われるか……。まぁ当たらなかったし、次気をつけよう。
ちなみにチハたんの車内は割と快適で、冷暖房完備で夏でも冬でも快適な温度で過ごすことができ、周囲の騒音も全く通さず(なお、戦闘時の騒音はチハたんが興奮状態なので通す)、さらに外の状況もチハたんのタブレットで見ることができる。だがさすがに走行時の振動はあるが、まあ他がいいから気にしない。
「レイン様、あの戦車を一撃で怯ませれば良いんですね?」
チハたんがスピーカで話しかけてくる。
「あぁ。これからの事もあるから、あんまりあの零式重戦車を傷つけたくないからな。撃破するより難しいと思うけど頼む!」
「任せてください。必ずや捕虜にしてみせます!」
「捕虜にしたいわけじゃないんだけどな……」
俺はタブレットで外の状況を確認する。どうやらマサトはずっとこちらに向けて機銃を乱射しているらしく、機銃の発砲炎と銃弾の光が見て取れる。だがそれらの銃弾は、チハたんから一定の距離に近ずいた瞬間に威力を失い、ポロポロと地面に落ちていく。
「これも大和魂か……」
「その通りです。大和魂があれば銃弾なんか寄せ付けません!」
──恐るべし、大和魂……!!
とその時、俺の魔眼によって通常時も良い眼が、零式重戦車の砲身からチハたんの通常弾の一回りも二回りも大きい砲弾が打ち出されたのを捉えた。俺は咄嗟に魔眼を発動させようと思ったが砲弾はすぐ側まで来ていた。このままでは車体正面に穴が──いやなんならチハたんの車体丸々貫通してしまうかもしれない……!?
そんなことを考えているうちにも砲弾は接近、そしてついにチハたんの紙装甲と接触し──。
『コン……』
聞こえた音はそれだけだった。そう、チハたんの装甲が零式重戦車の砲弾を弾いたのだ!。それも軽々しく。
──これも
俺は大和魂の凄さ、チートさに気付かされつつ、この勝負はこちらの圧勝だなと悟った。
──────────
「おや、当たってしまいましたか………………チハに触って良いのはレイン様だけだというのに……!!」
チハは敵の砲弾が当たったところを気にしつつ、敵に標準をする。狙いは操縦者──いや搭乗者がこちらを見ているであろう覗き口だ。
──ワクワクしますね
チハは心中でニヤッと笑う。
リリーナスに着いてから1ヶ月間、チハはずっと最強の術式を練っていた。それをチハが敬愛するレインに見せることができるため嬉しいのと、ただ単に初めて使うためどんなスキルになっているのかが楽しみだからである。
「
詠唱を開始した途端周囲は暗闇に包まれ始め、チハのを中心に囲うように赤、白、黄に輝く魔法陣が出現し、下の雪を照らす。
「回れ回れ、我が力の源泉となる魔力達よ。世界を変える立役者よ。今こそ、その奔流を我が身に託し、終末の音を奏でよ!!」
チハを囲う並んだ魔法陣が不規則方向に回りだす。続けて『ギィィィィン!!』という音が鳴り響く。
「何が装甲だ。何が砲口径だ。そんな重しなど大和魂の前ではただの鉄クズに化すのだ!!」
砲身に赤い魔法陣が組み込まれ、それを囲うように白と黄色の魔法陣が旋回しながら集まり始める。
そしてチハは最後の術式を唱えた。
「これがチハの本気、世界を変える終末の輝き!
魔法陣の中心を通るようにチハの砲弾が放たれた。それの威力はもはや短砲身の57ミリ砲のものではなく、この世界で例えるならば
その絶対的な威力を持った砲弾は、敵戦車へ向かっていき──
『ドゴォォォォォン!!!!!!』
見事、ものの見事に敵戦車は爆発四散した。いやしてしまったのだ。
──────────
「ッつっはー!! んまい!!」
ベレッタがジョッキを「ドンッ!」と置いて幸せそうな笑みを浮かべる。
3セット目でチハたんが盛大にやらかしたため、一時はどうなることかと思ったがベレッタの巧みな外交戦術によって事なきを得た。そしてなぜか、いや意図的に交流会という名の宴が開かれた。そして案の定、ベレッタは酒を飲みまくって酔っている。
「あ、あの……ベレッタさん。もうそろそろ飲むのをやめてはどうでしょうか……?」
引き気味に言ったのは、マサトの秘書である紫髪のディルカという女性──ではなく、なんと酒に酔ったマサトである(ちなみにディルカさんはベレッタと一緒に飲んでいる)。飲んだら人格が柔らかくなるのか……。
ちなみに俺はオレンジジュースである……。マルナ曰く「レイン様はまだ10歳ですからお酒はダメです!」加えて「15歳まで飲んじゃダメですからね!」とのこと。いや自分子供じゃないのですが──と言いそうになったが、なんか質問されてもあれなのでやめておいた。
──フッ……39歳したいい大人が飲むのは子供のオレンジジュース、か……。
「……それも良いじゃないか……」
俺はクイッとオレンジジュースが入った
「そういえばレインさん! 僕の零車を爆裂四散させたあの魔法凄かったです! どうやったんですか?」
「ぜ、ゼロ……? あ~あれか」
あの時、チハたんのあまりな変化と周囲の魔法陣の数で危険を悟ったマサトは零式重戦車、通称零車から避難していたお陰で無傷であった。だが勿論、チハたんの必殺技、
「う~ん……俺も曖昧にしか分からないんだよ。チハたんに直接聞いてみたらわかるんだけど……」
「……そういえばチハさんはこの交流会におられないのですね」
「ま、まあな……」
俺はツーっと少し目を逸らせながら言う。
今チハたんはここ、開店したばかりでリリーナスの唯一のレストランにはおらず、家のチハたんの家に帰っている。業火爆裂焔を使った反動で行動不能状態に陥っているのだ。
チハたんの状態は好ましくなく、交流会が始まる前、服や身だしなみを整える為に家に戻った時、すぐ横にあるチハたんの
今頃どうしてるかな~──と、遠い目をして考えていると、マサトが心配そうに話しかけてくる。
「どうかなさいました?」
「あ、ああいやなんでもない……。……そういえばマサトさん、あった時俺に「お前エイリスタの関係者か?」って聞いてきたけど、結局エイリスタって何なんです?」
何気なく質問すると以外にもマサトはビクッと肩を震わせた。そして周囲に目を向け、まるで周囲を警戒しているのか一段と声を低く、かつ俺にしか聞こえないくらいの声で言った。
「……場所を変えましょう」
俺とマサトは席を離れ、誰もいない小さなテラスに移動し、お互い手すりにすがる。
夜なので外の景色は見えないが、空はどんよりと曇っていて月の光は遮られ、数メートルも見えないような暗闇に覆われている。
「まず、そもそも今回こちらに来た理由は最初に述べた通り「エイリスタの関係者が近くに国を作った」という情報が入ったため確認をするために来ました。」
「ふむ……来た理由は分かったけど、俺ついこの前に転生したばかりだからさ、この世界のことまだよくわかってないんだ。だからエイリスタって何なんだ?」
「わかりました。エイリスタについて説明しましょう。──この話は1千年前までさかのぼります──」
──一千年と少し前、一人の少女が戦争によって荒廃した土地に国を築き上げました。その国の名前こそがエイリスタ、です。最初はただの小国でしたが、女王である少女に仕える十人の天将の尽力によりいつしか大国と言われるほどに成長しました。しかし、それを当時の覇権国ザートラスは気に入らず、エイリスタはザートラスを筆頭とした連合軍と戦争状態となりました。結果は歴然でした。ザートラスの五神の一人であるカルシャナ・ベル・リレストライ率いる第一戦機車団は、十人の天将の中でも最強格と言われた二人、リーチェとルーチャを瞬殺しそのまま王都まで進撃、そしてエイリスタ国民は女王である少女以外皆殺し、生き残った少女も遠い島に流され──
「だ、大丈夫ですか!!??」
「え……?」
ずっと集中して話に聞き入っていた俺は、突然マサトが心配そうに声をかけてきてハッと我に返る。
なぜだろう、視界が歪んでいる。それに頬に雫が流れているようだ。
「な……んだ、これ…………ない……てる?」
そう呟く言葉も弱々しく、震えている。
話を聞いているうちに何故か無意識に泣いてしまっていたようで、涙が止まらない。なぜ泣いているのか、その理由さえも分からない。けど一つだけ確かなことが、分かることが、心が伝えてくれることがある。そう──
「……かな、しぃ……」
悲しい。心の底から湧き上がってくる感情は、この涙は悲しい涙だ。いや、それに悔しさもある。もどかしさもある。辛さもある。苦しさもある。──絶望も、ある。
「ぅ……ぐっ……」
次は寂しさが込み上げてきた。
──だれか……そうだ、マルナ。マルナは……
そう思った瞬間、俺の視界に何かの情景が映し出された。
少し高めな机に座っている。そして目の前には料理がのったお皿が並べられている。目の前には黒髪でロングヘア―で、緑色の瞳をした女性がなぜか苦笑いを浮かべて料理を見ている。スッと顔を左に向けると、レインと同じ艶やかな白い髪と透き通るような白い肌の少女が座っていて、ニコニコと細めた目を黒髪の女性に向けている。そして開いた瞳の色は、レインと同じ水色の瞳をしていた。
フラッシュバックした
──────────
「…………やっと落ち着いてくれました……」
マルナは階段を降りながら言った。
「落ち着いてくれましたか……よかったです」
リビングの椅子に腰かけているマサトはふぅ……と肩をおろす。
レインが泣き出してしまった後何とか家まで送り届け、それでもなお涙を流すレインを付きっきりでマルナがなだめ、深夜12時頃にようやく眠りに落ちた。
だが、マルナはまだ一息つくことはできない。レインがマルナに「助けて……」や「奴らがまた……」や「ずっと一緒にいて……」など、普段言わないようなことをずっと言ってきたのだ。それに何かに怯えているのか、手の震えは止まらない。明らかに異常だった。
聞いたところによるとレインの状態がおかしくなった時、マサトと何かを話していたようで、マサトは必ず何か原因を知っているはずだ。
「……マサト様、何があったのか教えてください」
もはや相手が一国の王であることも忘れたマルナは、鋭い目でマサトを睨んだ。
「……わかりました。僕が知っていること、全てをお伝えします」
マサトはギュッと拳を握ると、少し躊躇していった。
「まず最初に、レインさんは
「えっ……?」
予想外な言葉に、マルナは目を見開いた。
そして、全てを知った。
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