決闘

 俺達は橋を渡り、平原に出た。


 決闘のルールは1対1で3セット制2セット先取で、互いに決めた順番同士で戦うというルールだ。


 俺たちリリーナスは最初にルーカス、次にリュンテ、最後にチハたんだ。チハたんは先陣を切れないことを嘆いていたが「チハたんは切り札だから最後の方がいいだろ? 主役は遅れてやってくるって言うしな」と言ったら、満足そうに納得してくれた。


 そうして俺達はマサト達クラメディアの代表達と相対した。


──────────


 ルーカスは相対したクラメディアの剣士を観察する。


 背中の直剣の鞘は優美な装飾を施しており、なかなかの業物であることが伺え、防具は胸当てなど重要な部分だけで、恐らく手数で攻めてくるタイプなのだろう。


 対してルーカスは、腰に掛けた剣は青と紫を貴重とした冒険者時代に使っていた愛剣、凛天の剣りんてんのけん。そして頭以外をフルプレートアーマーで覆っており、単純に判断すれば速度は絶対的に負けている。だがルーカスには自分以外の時を完全に止めることが出来るスキル、時止之魔眼タスト・アイを使えば速度などは関係なくなる。それに、そもそもスキルを使わなくてもルーカスは早いため、フルプレートアーマーを着ても素早く動くことが出来るのだ。


「我はクラメディア随一の騎士マラルである」

「僕はリリーナスの1剣士ルーカス」


 名乗り合い準備が整った。


 互いに剣を抜く。マラルはルーカスの予想通り両手剣で体の正面に構えている。対してルーカスは片手剣を逆手で持ち、左手を前に向け、左足を前に出す。


「「────」」


 睨み合いが続く。だがそう長くは続かなかった。


「──覚悟っ!!!!」

「──シッ……!!」


 マラルが大剣を振りかぶって突撃してくる。恐らく振り下ろしと見せかけての横薙ぎ──と思わせての切り上げだろう。だが関係ない。なぜなら──


「遅い……!」


 ルーカスは時止之魔眼タスト・アイを使って瞬時に後ろに回りこみ、剣の刃をマラルの首筋に当てた。


「な……??!! み、見えなかった……!?」


 マラルが驚愕の声を上げる。他の人達も同様でルーカスの動きは、魔眼系スキルの最上位にあたる全能之魔眼パーフェクト・アイを習得しているレイン以外誰にも目で追えなかった。


 そうして割とあっさり1セット目が終わった。


──────────


 ──魔眼つぇぇーー!!


 そこそこ強そうな両手剣使いに一瞬で勝利した光景を見て、ルーカスが味方になって良かったと心から思った。


 とりあえず一勝、あと1回勝てば俺達の勝ちだ。そうすれば──


「……ん?」


 これって俺らに何か良い事あるのか? たしかに友好国になってくれるから有事の際は頼りになるが、それ以外に何かあるのだろうか……。


「──レイン様、貿易や取引などが私たちの有利に進めることが出来ると思います。……リュンテ殿はそこまで考えていないでしょうけれど」

「な、なるほど……」


 たしかに単体の武力でこちらが優位に立てば、クラメディアとの貿易も、言い方は悪いが俺達の良いように進めれるだろうし、周辺国への威嚇にもなるだろう。まぁリュンテ──加えてチハたんの事だからそんなこと考えてないだろう。けどルーカスは分かっているだろうし、威嚇も込めて一瞬で決着をつけたのだろう。流石ルーカス!


「次アタイの番ね!!」


 ルーカスと交代でリュンテが前に出る。相手は片手剣を持ったピンク髪の女性──いや幼女? ──いや俺も幼女なんだが────とにかく女の子だ。剣を収めたままの鞘を、だらりと下げた右手で持つ姿は不気味に思えるほど戦意を感じない。まるで操り人形だ。


 不気味な幼女剣士とリュンテが相対したが、なかなか互いに剣を抜かない。何か話しているのだろうか。聞こうと思えば聞くことはできるが、制限があるためやめておく。


 すこししてようやく剣を抜いた。だが剣を抜いたのはリュンテだけで、クラメディアの幼女剣士の方は俯いたままで微動だにしない。あまりの不気味で、俺は嫌な予感を感じた。


 ──リュンテが負ける。


 そんな予想が頭によぎった。だが今更メンバー変更はできない。


 リュンテが振りかかる。右上から左下への振り下ろしだ。幼女剣士はそれに答えたかのように、瞬時に左手で剣を抜き、リュンテの剣を受け止め──


「「な……!!??」」


 俺そしてルーカスの驚愕の声を漏らす。


 幼女剣士はリュンテの剣を受け止めるのではなく、受け流した。さらにそれだけでなく、リュンテの顔めがけて剣を突き、右に避けたリュンテに追撃の横なぎ。小さい体をフルで、かつ巧みに使った早業、そして凄技だった。さすがのリュンテも大きな直撃は食らわなかったものの、シュッとした頬に切り傷があるのか、小さく血が流れている。


「まさか……あれ……いや彼女は……??!!」


 ルーカスを見ると何か口を動かし、大きく目を見開いている。


「な、何か知ってるのか? あの幼女剣士の事とか」


 ルーカスは少し目をそらし「ええ…………」と小さく呟く。


「あれは……いや彼女の名前はエリンナ。──僕の友人パーティーメンバーです……」

「な、なんだって!?」


 ──ルーカスの元パーティーメンバーだと!? ……ってことは相当強いんだろ!? リュンテ大丈夫か……?


 「バッ!」っと視線を戻す。リュンテとエリンナは今もなお斬りあっている。だが戦闘は一方的で、リュンテが斬りかかればエリンナが受け流してすぐに反撃、逆にリュンテが距離をとればエリンナがすさまじい速度で接近、斬撃を入れる。それらが繰り返されるたびにリュンテの傷ばかりが増えていく。


 そしてついに──


『キィィン!!』


 リュンテの手から剣が離れ、同時に首筋に剣が当てられる。


 リュンテが負けてしまったのだ。


 そうして二セット目は俺たちの負けで終わった。


──────────


「アタイが……負けた……?」


 リュンテは野に膝をついたまま、深い喪失感を感じていた。


 今までの人生で、リュンテが負けたことは数えるほどしかなかった。それにほとんどがまだ剣を握ったばかりの頃であり、ここ最近で負けたのはルーカスに負けた時のみ。それも不意打ちをくらってだ。


 だが今回はそんな言い逃れはできない。お互い面を合わせた状態で、なおかつリュンテは先制攻撃したにもかかわらず負けてしまったのだ。


 どれだけ経っただろうか、後ろから『キャラキャラ』とチハとレインとシャーリスが近づいてきている。


「リュンテ殿大丈夫ですか!?」


 シャーリスが医療セットを持って駆け寄ってくる。そんな大げさな──と思ったが、そういえば自分は切り傷だらけだったと自身の体を見て思い出した。


「大丈夫だわこんな傷! どれも切り傷ばっかだし、薬塗っとけば治るわよ!」

「そうですか……。よかったです」

「リュンテ、大丈夫か?」


 続けてレインがチハからサッと飛び降りる。たった今大丈夫って言ったわよ! ──と言いそうになったが口を閉じる。きっとレインの事だからメンタル的に大丈夫なのかの確認なんだろう。


 そう察したリュンテは「フッフッフ……」と笑いを漏らす。


「負けて何よ、私が落ち込むとでも思ったら大間違いだわ! 魔人だって生きていれば負けることは多々あるわ。剣士なんてなおさらよ! 今勝てないなら次勝てばいい。その為に強くならないといけないのにダラダラ泣きべそをかくような女じゃないわよ私は!」


 そう、リュンテはこの負けが悔しくも新鮮な感覚で、あらたな壁が現れたことに嬉しかった。この壁を越えれば、さっきのアイツに勝てば自分はもっと強くなれるのだから。


 レインに言い放ち、チハの横の地面に刺さっていた剣を鞘に戻して後ろに下がった。


「……絶対勝ちなさいよ」

「あなたに言われなくても勝てますよ」


 チハとすれ違う瞬間言葉を交わし、リュンテは自分に何が足りなかったにかと考えながら、シャーリスと一緒にルーカスがいる方へ下がっていく。その眼は先刻ぼこぼこにされた者とは思えないような、ギラギラとした眼をしていた。


──────────


「やっとチハの出番が来ましたか」

「ああ。リュンテの分も勝つぞ! チハたん」

「言われなくても、レイン様の前に立ちはだかる者は全て殺します」

「……あの、殺さなくてもいいから程々にね……?」


 3セット目は大将戦ということで、俺はチハたんに乗って前に出る。


 一見、戦車に乗ってる俺達が有利に思えるが、俺はなんとなく嫌な予感がする。例えばこう……相手も戦車を、それも現代戦車とか──。さっきもこういう予感が的中したから尚更心配だ。まあそうならない事を祈って──


『キャラキャラキャラキャラ……』

「ア……」


 明らかにキャタピラの音がする。


「よぉ」


 マサトが戦車に、それも近未来的でチハたんの数倍は大きい。絶対近代戦車だよこれ……。


「ハッ! どうだ驚いたか! こいつは零式重戦車だぜ!」

「ぜ、零式ぃ??!!」


 前世ではミリオタであった俺でも知らない戦車がでてきた。


戦後の日本戦車の命名法は予算案が出された年の下二桁、例えば90式戦車は1990年に予算案が出されたため90式。つまりこのことからマサトが乗っている戦車は2000年に予算案が出された戦車だということになる。だがその後の跡取り戦車は10式戦車のはずで、零式重戦車など聞いたことがない。


 ──一体どうなっているんだ……?


「こいつはなぁ、人工知能が勝手に動かしてくれるからよ、狙いも百発百中だぜぇ!」


 ──なんと……オート照準ですか……。チハたんもそうだけど!


 俺はチハたんに聞こえる大きさで話しかける。


「……チハたん、ちょっとお願いがあるんだけど……」

「なんなりとお申し付けください」

「あの戦車、ちょっともったいないから一発、無茶苦茶どデカいの打って降参させてほしいんだけど……」

「…………………………わかりました。その代わりレイン様もチハのお願い聞いてください。」

「もちろんだ!」


 これでよしと、俺はチハたんの頭……砲塔? を撫でる。


「そろそろ始めるぞ!」

「わかった! 勝ち負けはどちらかの戦車を行動不能にすれば良いんだよな?」

「あぁそれで問題ねぇ」


 そうして、3セット目の勝負が始まった。

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