日常、異変

 あれから1ヶ月、とりあえず皆の役割や立場が決まった。


 俺はリリーナスの国王、軍務最高司令長官になってしまった……。簡潔に三文字で表すとである。……責任重大すぎて今にもつぶれてしまいそうだ……。


 チハたんは【レイン様親衛隊】とやらの大将、軍務幹部、そして内政官という何とも忙しそうな──一部よく分からんのがあるが──役割となった。まぁチハたんは戦場じゃなかったら全然真面目だし頼りになるから大丈夫だろう。……多分。


 リュンテは剣士隊大将兼訓練所総官。実は内政官にもなってもらおうとしたのだが、シャーリスやベレッタに猛反対された為断念した。理由は、バカだから、だそうだ。


 マルナは術士隊大将、親衛隊副大将である。なぜ術士隊の大将になったかというと、元々マルナは剣よりも魔法の方が得意らしく、その腕は魔人の中でもピカ一らしいため術士隊に行ってもらった。ちなみに【レイン様】が抜けているのは、チハたんしか言ってないためである。


 ベレッタは内政総官兼外交官、そして軍師で主に内政を担当してもらう。実はベレッタは武術などは得意ではなく、逆に本を読んだり考えたりする才能──いや技術があったためである。ついでにこの中じゃ一番年齢が高いためでもある。


 シャーリスは補給及び援護部隊の総責任者、内政官である。なにやら前までは後方や戦陣で負傷者の治癒に当たっていたらしく、この役割がベストだと思って決めた。


 そしてルーカスは訓練所副長官になってもらった。元々は幹部クラスにつける予定はなかったが、余りにも訓練所総官殿がアレなため、特例で副長官として就任してもらった。


 他にも色々役職や役割があるものの俺は誰が誰かが分からないため、そこらへんの人事は顔が広いらしいべレッタに一任した。


 そんなこんなで、順調に国造りが進んで行った。


──────────


「ん〜朝だぁ〜…………って寒っ!」


 起きた途端、猛烈な寒さが肌を撫でる。俺は良質で暖かいふわふわした毛布に包まりつつ、恐る恐る外を見る。いつも寝室の窓からは、まず手前に沢山の家が見え多くの人が行き来し、奥には畑が広がっている。しかし今日は見渡す限りので、家々の屋根には雪が厚く積もっていて、人々は雪かき作業をしており、奥の畑も全て雪に覆われている。幸い今は作物を植えていないため作物系の被害はない。


「……大雪やん……」


 そういえばこの前マルナが第一冬季に入ったとかなんとか言っていた事を思い出す。前の世界で言うと12月頃かな?


 寒さに凍え、今更ながら暖房器具の偉大さに気づきつつ、押し入れの中から服を取り出す。着てみるとこれまた冷たい。こればっかりはしょうがないと、渋々部屋を出る。


 俺の住んでいる家は、持ち主のいなくなっていた大きな空き家を大幅改装して建てた家だ。二階建てで部屋は10以上あり、なんと魔法を使った水道なんて物もある。


 洗面台で顔を洗い、パッと鏡を見る。鏡にはボサボサだが光沢のある白髪、キラキラした水色の瞳、少し膨らみがあり幼さがある顔、そして透き通るような白い肌の幼き少女が映っている。元々自分の顔には何かしらの違和感や「誰こいつ?」とか思ったりするが、元々40代近いおっさんからいきなりこんな姿になってしまったら。違和感とか「誰こいつ?」とかすっ飛ばして苦笑いしてしまう。だって違和感の塊だもの。


「…………かわええぇぇ……」


 こぼれるように言ってしまったがハッと我に返り、ブンブンと顔を振って恥ずかしさを紛らわせる。しかしまぁなんと俺は可愛い姿に転生できたのだろう。当分は鏡で自分の姿見てるだけで癒されそ──


「レイン様、いつまで顔洗ってるんですか? 朝食、できましたよ」

「ふゃ、ふゃい!」


 自分で自分の顔を見てニタニタするところを見られそうになり、焦ったためかなんとも間抜けな返事になってしまった。


 声をかけてきたのはマルナで、いつも身の回りの事をしてくれる。これくらい自分でもできるよと言っても「レイン様の身の回りのお世話が私の仕事なので」と言われて断られ、申し訳なく思いつつも家事のほとんどをマルナに任せきっている。ちなみにマルナはこの家に住んでくれていて、とても心強い。…………できれば風呂に入るときは一人にしてほしいのだが……。


「………………可愛いなぁ……」

「……? 今何か言──」

「早くいかないとシチューが冷えてしまいますよ」

「なにっ!? そりゃぁ大変だ!」


 「シチューが」と聞いた瞬間、俺は寒い時だからこそ食べたい熱々のシチューを食べるため全力でリビングに向かうのであった。


──────────


「あ、危ないですから走らないでください!」


 いきなりレインが走り出した為マルナは慌てて止めようとしたが、レインはそのまま走っていってしまった。


「……行っちゃった」


 廊下に一人残され、マルナはそっと呟く。


 いつもはしっかりしていて頼りになるレインだが、朝と食事の時に関してはどこか幼さを感じてしまう。


 マルナは元々料理や家事などしたことがなかったが、最初にレインに褒められ自信がつき、その後も主にべレッタに色々教わって、今や達人の域にまで達している。だがマルナは余り自分の料理をレイン以外に食べさせたくない。理由は単純。照れくさいからだ。


 だがレインに対しては積極的に食べてもらいたい。というかそれが仕事でもあるのだが、自分の手料理を美味しそうに食べてくれる姿はどこか、死んでしまった弟のマルタのように思えてきて切なく思ったり、余りにも可愛らしくてこっちも幸せになってきたり、そしてちょっと羨ましくさせてくれる。


「……まったくしょうがないですね」


 そう言うとマルナはレインがいるリビングに向かった。


──────────


「雪ヤバいわ……」


 マルナ作の朝食を食べ、外に出た俺はあまりの雪の多さに立ち止まってしまった。


「レイン様、おはようございます」

「おはようチハたん……って、雪だらけじゃん」


 チハたんは車体のそこらかしこに雪が付着していて、前に雪かきのような物をつけている。どうやら雪かきをしてくれていたらしい。そういえば道には雪が積もっていない。


「みんなの為に雪かきしてくれてたのかチハたん?」

「いえ、チハが通行するのに邪魔だったからです。」

「あーたしかにチハたんだとこの雪じゃ移動できないもんな……。そういえばチハたんは寒くないのか?」

「ご心配ありません。チハは戦車ですから寒いという感覚はありません。それに大和魂があるので全然寒くなックシュンッ!」

「いや寒いんじゃん!!」

「ズビビビビご心配なくレイン様。寒さの対策などシベリア出兵以後から完璧に万全ですから──フッ!」


 そう言うと『ブルルルル……!!』とチハたんがエンジンをふかした。


「なるほど……この手があったか」

「レイン様もやってみますか? 暖かいですよ?」

「いや俺エンジン無いから……」

「冗談ですよ。」

「レイン様、お話し中失礼します。」


 そんな会話をしていると、ルーカスが話しかけてきた。


「どうした?」

「先ほど、この街に何者かが近づいてきている気配を感じました。まだどのような者なのかは分かりませんが、一人だけ物凄い魔力を感じます」

「ふむふむ……」

「そんな奴らこのチハが蹴散らしましょう」


 途端チハたんがキャラキャラと音を鳴らして走り出す。


「お、おいチハたん!? 方向わかるん?」

大和魂です」

「えぇ……」


 不安が残るが、とりあえず俺はチハたんに乗ってついていった。


──────────


「──まさかほんとにこっちから来るとは……」


 チハたんに乗って南の橋まで来たが、ちょうど橋の先に数十名の武装した人たちがいた。そして一番前にいる黒髪の男、精密多彩な模様が描かれた大剣を持ち、それ以外の装備品はつけていないが他を寄せ付けない圧倒的な存在感を放っている。


 対してこちらは、俺とチハたんとルーカスとリュンテとシャーリス。戦力的には充実していが外交、例えば交渉や対話等となった場合はベレッタがいないから少々……いやだいぶ厳しい。


──さて……どう来るか……。


 チハたんから降り橋に近づいてみると、向こう岸からも一番先頭に立っていた男が橋に近づいてきた。


「よぉ」

「ど、ども」

「滅びかけた魔人の国が復興したって聞いたから来てみたがよぉ……まさかこのロりがこの国仕切ってんのか? てめ名前は、ってか何歳だよ」

「……先にあんたが名乗ったらどうだ?」

「ハッ! おめえなんかのロりチビに俺様から名乗るだと? バカかてめぇ! 俺様はクラメディア王国の王、マサト・トヨシマだぜ? お前みたいなロりチビなんかに先に名乗るわけねぇだろうが!」

「名乗ってますやん!」

「し、しまっ……!? ……俺としたことが口を滑らせちまったぜ……まぁいい、おめぇも名乗れよ」

「ハイハイ。俺はレイン、姓はない。歳は……えっと見た目は10歳、頭脳は39歳、精神年齢は31っス」

「……はぁ? てめぇ転生者か!?」


 クラメディア大国の王らしいマサトは、どうやら俺が転生者だと分かったらしい。少なくとも馬鹿なやつじゃないな。


「その通り。ってことはマサトさんも転生者なんだな?」

「んだよ転生者かよ……。てことはよぉ、おめぇもあれか? 何かしらのチートスキル持ってんのかよ?」


 ──なんと……この言い方からして絶対こいつもチートスキル持ってるじゃん……。


 さて、正直に答えるべきか……それとも嘘を言うか……。とその時、後ろからの物凄い殺気を感じ俺は嫌な予感にかられ、恐る恐る後ろに振り返る。


「──聞いていれば貴様さっきからレイン様をお前呼ばわりとは……すこしは立場をわきまえて言ったらどうですか……?」


 赤いオーラを纏ったチハたんだ。だいぶお怒りのご様子。


 どうやらマサトもチハたんに気がついたらしく「んだこれ!? 戦車!?」と驚いてる。


「貴様のようなクズに名乗る筋合いはありません。死ね」

『ドォン!』


 俺が止める暇もなくチハたんはマサトに向けて発砲した。だが幸い? ギリギリのところで回避した。


「っとぉ、自己紹介は不要だぜぇ。てめぇは大日本帝国陸軍の九七式中戦車チハだろ?」

「……っ!? 貴様っ何故それを……!?」

「ハッ! 俺の手にかかればてめぇの正体なんぞ一目瞭然だぜ!」


 車両名まで当てられ、チハたんは進みかけていたキャタピラを止める。


 という名前を知っているならまだしも、九七式中戦車だとまで言い当てるとは……もしやマサト、俺と同類ミリオタ!?


「ククク……どうして分かるんだ? って顔だなぁ。知りたいだろ? ハッ! 俺様のスキル叡智之魔眼ウィズダム・アイだって事、教えるわけねぇよだろ雑魚が!」


 ──わざとやってんのか!?


 もはやわざと言っているようにしか思えないマサトは、流石に己の失言に気がついたのか「あ……」というような顔をする。


「く、クソ……俺様としたことが口を滑らしちまったぜ……」

「雑魚が」

「んだとぉ!」

「まぁまぁお互い落ち着けって」


 これ以上事態が悪化させない為に、俺はとりあえずチハたんを下がらせ、マサトと俺1対1の状況にする。


「一段落着いたところだしマサトさん、ここに来た理由を教えてくれないか?」

「……わかったぜ。──単刀直入に聞く。おめぇはエイリスタの関係者か?」

「エイリスタ……?」

「……んだよ知らねぇのかよ! どうなってんだよディルカ!」


 マサトは頭を掻きながら後ろの配下の中の一人を呼び出した。


「申し訳ありませんマサト様。どうやら情報屋から得た情報が間違っていたようでございます。」

「あぁ? 情報屋だぁ? 後でそいつら連れてこい!」

「かしこまりました」


 そう言うとディルカという紫色の髪の秘書? は、ササササーと戻っていった。


「すまねぇなレイン。俺らの勘違いだったようだぜ……。時間取らせたな、悪ぃ。んじゃ」

「えちょ……」


 足早に帰っていこうとするマサトを、俺は慌てて止めた。


「んだよぉ。まだなんか用あんのかぁ?」

「そ、その…………これを機にこの2ヶ国間で友好を結ばないか?」

「ハッ! 友好なんざ結ぶわけねぇだろ」

「なんでぇ……?」

「そもそもなぁ交流一日目で友好結ぶ馬鹿がどこにいんだよ」

「うぐ……ご、ごもっとも……」


 たしかに「出会って初日に友達だ!」なんて言うのは非常識すぎる……。ってか非常識通り越して頭おかしいじゃん……。


「それによぉ、無茶苦茶強い国ならまだしもこんな廃墟みたいな国と友好結んでも無駄──」

「──ずいぶんと言ってくれるじゃない! そんなに言うなら私と勝負しなさいよ! あんたの言う廃墟みたいな国の力見してあげるわ!」

「リュンテ殿、チハも協力しますよ」

「……これは僕も参戦しないといけないようだね……」


 万を持したかのように、リリーナスの最高戦力の3人が前に出てきた。出来れば穏便に済ませたいところだが、ここまで舐められてはそうはいかない。俺を馬鹿にするのは良いが、リリーナス自体を馬鹿にされるのは許せないし、そもそも皆が許さない。建国してまだ間もないが、俺達には確かな絆が芽生えている──と思いたい!


「ハッ! いいぜ乗ってやろうじゃねぇかその勝負!」

「ボッコボコにしてやるわ!」


 こうして、レイン率いるリリーナス大国と、マサト率いるクラメディア大国の代表三人による決闘が始まったのである。

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