スキル
一方的な宣戦布告によって始まった戦いの戦場は森の外の平原ですることになった。
100mの距離を開けて赤髪の子──そういえば名前をまだ聞いてなかった──と、チハが向かい合う。
この戦いの前提? ルールとして、お互いに殺さない程度に戦う。勝敗はどちらかのメイン武装の破壊か無力化されたら決まる。
チハがこのルールを守るかどうかが不安だったが──。
──────────
「いいか? 絶対に殺すなよ? なんならできるだけ主砲打つなよ?」
「レイン様のお願いならば、了解しました、です。その代わりチハのお願い、聞いてくださいね?」
「お……おう……」
──────────
──という感じで、一応の説得はした……のだが普通に主砲やら機銃やらをバンバン打ちそうな、そんな予感がする。
対する赤髪の子は、腰に下げたやや大ぶりな直剣を抜き、正面に構えている。初対面で名前さえも知らないし、そもそもこの世界に転生したばかりで全く情報がないが、感じ取れるオーラや圧はすごい。相当な実力者だと思う。
「──レイン。既にあなたは私の
「え? あ、あぁ。」
横から金髪の子に問いかけられ、すぐさま答える。
「えっと……他人の思考や思ったことが分かる的な
「正しくは【
「え……? あ、多分それっすね。」
──あ〜。確かにその方がしっくりくるな……。ていうかそういうスキルが元々あるんや。
金髪の子は俺の答えと、思考を聞いて納得したように頷く。
「なるほど……。どうやら本当に転生者なのですね。」
「え、
「ええ、その通りですよ。それこそこの世界で知らない人は居ないくらいです。」
「ほぇ〜…………」
そんなに有名なスキルなのか……確かに使い勝手良さそうだし、強そう──と、思わず自分の手を見てしまう。まあ別にスキルが可視化できる訳ではないのだが……。
とその時、またもや俺の体が青色に発光する。しかし、今回はどうやら金髪の子が他3人に意思疎通か何かで情報共有してくれていたらしく、静観──剣の柄に手を置きながらではあるが──してくれている。
発光が収まると
【万能
【左手の指を手刀の形にし、右手の人差し指と中指で、左手の人差し指と親指を指先に向けてスライドすることで、現在習得している
なるほど、この名前からして今所持している
「今度は何のスキル手に入れたの?」
「レインさん。あなたに拒否権はありませんからね。正直に答えてください。」
「安心してくれ。俺は自称、正直者だからな。」
「はい。では万能
「……ハイ。」
渾身の? ボケを見事にかわされて、俺はちょっと傷つきながらも万能
いわれた通り? 書かれた通り? にすると、そこそこ大きな半透明の掲示板が出現する。どうやら他人にも見えているらしい。手を伸ばして触れようとする紫髪。「おぉ」と感嘆する黒髪。何故か俺に視線を向けてくる金髪──
「私達を髪の色で判別しないでくれませんか?」
「髪色で判別するなって言われても……俺まだ君達の名前知らないんですけれども……。」
そう答えると、一同「あっ……」と言うような顔をする。
「そういえばそうですわね……」
「忘れていました……」
「……人間に名乗る必要あるんですか?」
「うん。ある。」
そう。メタい話、誰がどうしたとか書く時、いちいち名前を書くより名前を書いた方が分かりやすいし、楽だから早めに名乗ってもらいたいのだ。
「すいません。改めて自己紹介をします。私の名はシャーリス・エレクサンです。」
と、金髪の子改めシャーリス。
「…………マルナ・カルタ……です」
と、紫髪の子改めマルナ。
「私はべレッタ・ファンクレン。そしてあそこに立ってるのはリュンテ・ユーラシア。」
と、黒髪の子改めベレッタ。そして、チハと対峙している赤髪の子改めリュンテ。
一通り自己紹介してもらったのだし、俺ももう一回名乗った方が良いかな──
「そろそろ始めるよ〜!!!!」
と、リュンテが言う。
シャーリスは両手で丸のサインをすると、1度チハの方を見る。
チハは──少なくとも落ち着いてはいないのだろう。砲塔の上にあるタブレットの絵文字が険悪さを物語っている。
「グルルルルルルルル」
もはや人──いや、戦車? 女の子? でないような唸り声を上げている。殺すなよ……頼むから……。
「それでは、私が審判をします。では────初めっ!!!!」
「先手必勝ぉぉぉぉぉ!!!!!!」
『ドォン!!!!』
開始と同時にチハは砲撃した。
「セェェイ!!」
『キンッ!!』
しかし、幸いと言うべきか、気合いの掛け声と同時に繰り出された斬撃によってチハの砲弾が真っ二つに斬られる。
「き、斬りおった……!?」
──これ、割とチハ不利だな……。もしかしてこれ、リュンテ以外の3人も同じくらい強いパターン……? と、頼もしさと敵に回った時の絶望感、加えてこの四人でも勝てない相手がいるという絶望感にかられ、俺は苦笑いする。
「……レイン。残念ながらあれだけ剣を扱えるのはリュンテだけです。」
「え、そうなの?」
聞くと「そうです。」「あれは異次元よ」「…………」順番に、シャーリス、ベレッタ、マルナと帰ってくる。
とりあえず成り行きを見ようと、俺はチハ達に視線を戻した。
__________
──チハの砲弾が弾かれただと!?
急ぎ装填を行いつつ、チハは内心焦りを感じていた。
初発で殺すつもりだったのに、いとも簡単に斬られてしまった。それにリュンテは着実に距離を詰めてきている。
「──ちくせう……」
チハは考えた。どうすれば勝てるのか……否、どうすればレイン様に褒めてもらえれるか、頭(砲塔)を撫でてもらえれるかを考えた。しかし、答えはすぐに分かった。そう──
「突撃じゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」(」°ロ°)」
『ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン…………』
自慢の主砲を連射しながらリュンテに突撃する。さしものリュンテもチハの方から近づいて来るとは思わず、さらにこの手を叩くようなピッチで砲弾が来ることも相まって、リュンテは斬るのをやめて回避する。
「ぇ……?」
不意にリュンテは体に力が入らなくなった。そして気を失いバタッと地面に倒れる。立て続けに、シャーリス、マルタ、ベレッタ、そしてレインも倒れる。
「レイン様っ……!?」
「安心してください。殺してはいません。気絶しているだけですから」
「な……!?」
突然目の前に現れた男、騎士は突撃してくるチハに怯むことなく、それも片手で軽々と受け止めた。
「このっ──」
「できるだけ暴れないで、僕の従ってください。そうしなければ……」
「くっ……!!」
チハの首筋(砲塔と車体のつなぎ目)に騎士の両手剣を当てられる。少しでも動けば一瞬にして切り落とされるであろう。
負ける? いや、ただ負けるだけではない。捕虜という屈辱的な立場にされるのだ。それだけは絶対に……嫌──
「もしここであなたに暴れられたら、僕は彼女たちを殺さなければならない」
「……」
「大丈夫、手荒な真似はしないですよ。それに、今ここで死んだら、彼女たちは悲しむのではないですか?」
「それは……」
悔しい。何も出来ない、弱い自分が悔しい、恨みたい。……だけれど、これが現実……。
長考の末、チハは口を開く。
「…………………………休戦、です」
「……分かりました。懸命な判断、感謝します。」
今は死ぬときではない。チハの死に場所は、レイン様の腕の中で笑って死んでやる──と、チハは突如現れた騎士に言われるがまま、レインと他4人を乗せて着いて行った。
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