第12話

 俺は大学に行って、サークルの部室で美紀先輩と弘樹に落ち合った。今の状況を話すと二人共、祐輔を探すことに協力してくれると言ってくれた。

 俺もその日から、祐輔がいそうなところを探しまくった。思い付くところは片っ端から訪れ、もしかしたら時間帯が違えばいるかもしれないと考えて同じ場所に何度も行った。

 しかし、祐輔の影すら見つけることができなかった。

 移動のため、電車に乗っている時も車両に祐輔がいるかもしれないと思ったら気が休まらない。祐輔に似た感じの人が電車に乗ってくれば、ついじっと見てしまう。

 どうして街にはこんなにも多くの人がいるのだろう。これじゃあ、会いたい人を見つけられない。

 学校の周辺をいくら探しても見つからないなら、実家に帰ったのかもしれない。そう思って、ターミナル駅から高速バスに乗って祐輔の地元にも行ったが空振りだった。

 一応、お父さんに話を聞くことはできた。けれども、ご両親が事業をやっていたこともあって、祐輔はあまり親を頼らない方だったらしい。行きそうな場所はわからないと言っていた。

 子どもの頃に家族旅行をしたことがあまりなく、それなりの歳になってからは自分で出掛けていたとのことだ。

 とはいえ、大学に入るまでのことで俺が聞いていないこともあるだろう。その中に祐輔が行きそうな場所のヒントがあるかもしれない。そう思っていろいろと話は聞いてみたものの、手がかりになりそうな情報はなかった。

 意気消沈して帰ってきて、美紀先輩や弘樹と部室で合流したが、良い知らせはなかった。

 警察にも一応行ったが、そもそも家族ではないので失踪届は出せなかった。リョウガさんも「警察は事件性がないと積極的に探してくれないからあまり期待をしちゃダメだよ」と言っていた。

 祐輔がいなくなって、そろそろ二週間だろうか。何もなければあっという間に過ぎてしまう日数だ。けれども、今はとても長く思える。まるで出口のない迷宮に入り込んだかのようだ。先が見えない日々に心が折れそうになっている。

 部室を出て、この後どうしようか考えていたら「おい」と聞き慣れた声で呼ばれた。

 振り返るとそこにいたのは勇人だ。正直、今コイツの相手をする気になれない。俺はぶっきらぼうに答える。

「なんだよ」

「祐輔、いなくなったんだってな」

「誰に聞いたんだよ」

「弘樹だよ。言っとくけど、ボクが強引に聞いたんだからな。あいつは悪くない。これってやっぱりボクのせいだよな」

「直接の原因はそうだろうな」

「だよな。本当、ゴメン」

「謝るのは俺にじゃなくて、祐輔にだろ」

「貴史の言う通りだ。祐輔、最近美紀先輩とかなり距離が近付いていただろ。だから、どうにかして離したかったんだ。でも、ボクのつまらない嫉妬でこんなことになるなんてーー」

 そう言う勇人の顔は何かに取りつかれたかのようだ。元々、小心者なところがある。起きた結果の重大さにショックを受けているのだろう。

「祐輔に何かあったらと思ったら、居ても立ってもいられないんだよ。見つけるためには何だってする。だから、お願いだ。ボクにも手伝わせてほしい」

 勇人の顔は涙やら何やらでぐしゃぐしゃだ。プライドが高いこいつが、ここまで情けない姿を俺に見せている。ということは、その気持ちは本物なのだろう。

「いいけど、お前が探してたら祐輔がまた逃げるだろ」

「確かに。ボク、いろいろ調べたんだけど、行方不明者を探すにはネットを使うのが有効らしい。せめて、それくらいはやらせてくれよ」

「お前、そういうの詳しいもんな。じゃあ、そっちは任せた」

「わかった。何かあったら連絡するから、連絡先を交換しようぜ」

 勇人はカバンを開ける。隙間から見慣れた存在が見えた。俺と祐輔が好きなアニメのキャラクターだ。

「お前、ユッキー派か」

「何故、その名前を」

「いやさ、俺が祐輔と仲良くなったのもそれがきっかけだから。アイツも同志には餓えてるから、勇人も仲間だって知ったら喜ぶと思うぜ」

「そうか。じゃあ、アイツを見つけたら三人で語り合おう」

「だな」

 勇人の表情が弛んだ。さっきまではコイツのことを敵だと思っていた。けれども、祐輔が安心して帰ってこれるようにするためには、勇人に協力してもらった方が良い。今のこの雰囲気だったら、上手く説得できるんじゃないか。

「ちなみに、お前が見た奴ってそんなに祐輔と似てたのか」

「似てた。でも、実際のところホクロはハッキリ見えた訳じゃないんだ」

「そうか。俺は祐輔を無事に連れて帰るにはできる限り戻って来やすい状況を作った方がいいと思うんだ。祐輔が見つかったら、その話をみんなの前でしてもらってもいいか」

 勇人は嫌そうな顔をする。みんなの前で自分が不確実なこと言ったことを認めるのに抵抗があるのだろう。誰だってそうだ。でも、今はしてもらわないと困る。

「お前、さっきなんでもするって言ったよな。頼むよ」

 勇人は目をつむる。

「わかった」

 これで帰ってきても大丈夫な環境は揃った。だから出てこいよ、祐輔。

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