第44話
(※ウィリアム王子視点)
「おい! 皿洗いにいつまで時間をかけているんだ! さっさとしないと、次の料理に間に合わないぞ!」
店主は私の横に立って、指導という名目で、私に怒鳴り散らしている。
しかし、そんな態度に、私もすでに限界を迎えていた。
いったい、何様のつもりだ?
平民の分際で、少し調子に乗り過ぎたようだな。
「いつまでそうやって、この私に怒鳴り散らすつもりだ? 平民の分際で、粋がるなよ。これで、少しは頭を冷やせ。怒りが消えれば、自分の立場が理解できるはずだ」
私は皿に残っていた水を、彼の頭にかけてやった。
これで少しは、自分の立場を理解できるだろう。
身の程を知れ……、なんてことを思っていたら、ものすごい勢いで店主の拳が飛んできた。
そして、その拳は見事に私の顔にヒットした。
「な、何をするんだ、貴様……」
私は床に這いつくばり、声を震わせながら言った。
「自分の立場が分かっていないのは、お前の方だろう? 私はこの店の店主で、お前は王子ではなく平民で、この店の新入りだ。どちらが上の立場かくらい、わかるだろう?」
「す、すいませんでした……」
私は頭を下げながら言った。
何たる屈辱……。
しかし、またあの拳を食らうのは御免だった……。
その後も、私はひたすら皿洗いをさせられた。
こんなに一日が長いと思ったのは、生まれて初めてだ。
ずっと立ちっぱなしで、ひたすら皿洗い……。
こんなにつらいことが、これから毎日続くなんて……。
*
(※ヘレン視点)
「おかえりなさいませ、殿下」
仕事から帰ってきた殿下を、私は笑顔で出迎えた。
「ああ、ただいま」
殿下も笑顔で応えた。
「お仕事の方は、どうでしたか?」
「ああ、初めての仕事だったけれど、とくに手間取ることもなかった。それどころか、次からは重要な役割を任せられるみたいだ」
「さすがです、殿下。あ、お食事の用意ができていますよ」
「ああ、それは嬉しいね。さっそく、頂こうか」
私たちは席に着いた。
「いただきます」
私は殿下が料理を口に運ぶ様子を見ていた。
料理が、彼の口の中に入る。
そして……。
「……うん、おいしいね、これ」
彼はそう言ったが、すぐに水を飲んでいた。
あれ?
もしかして……。
私も料理を食べてみた。
「……これは、失敗ですね。申し訳ありません」
私は目に涙を浮かべていた。
食べようと思えば食べられるけれど、全然おいしくない。
殿下は、私に気を遣ってくれたのだ。
「いや、気にすることないよ、初めてなんだから。まだ伸びしろがあるってことだよ」
「明日は、外食にしますか……」
「え、ああ、そうだね」
殿下は即答だった。
何とか料理を食べ終え、私は食器を洗っていた。
「ヘレン、君……」
「え、どうしたのですか?」
皿洗いをしている私を見て、殿下は驚いた顔をしていた。
「きちんと洗剤をつけて洗うなんて、偉いじゃないか。なかなかできることではないよ」
「え、ああ、そうですか、ありがとうございます」
よくわからないけれど、とりあえず褒められたので、嬉しかった。
明日は外食に決定したけれど、何を食べようかしら。
これから、殿下と相談してみよう。
殿下とお出かけできるのは、素直に楽しみである。
しかし、この時私は、明日あのような出来事が起きるとは、想像すらしていなかったのだった……。
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