第39話
(※ウィリアム王子視点)
私は王宮の廊下を歩いていた。
今にも心臓が張り裂けそうだ。
まさか、私が陛下に呼ばれるなんて……。
陛下とは、何年も口をきいていない。
会うことも、ほとんどない。
それは、私が期待されていないから。
兄たちのように、私に国政に関わらせるつもりはなく、期待もされていない。
お前が出来損ないだからだ、と陛下は私に言った。
その陛下が、私に今更何の用だ?
全身が緊張する。
額からは汗が流れていた。
私は今まで、放任されていた。
あるいは、放置されていた。
それなのに、私は今、陛下に呼び出されている。
こんなことは今までになかった。
私は陛下のいる部屋に入った。
「お呼びでしょうか、陛下」
そう言った私の声は、震えていた。
いったい、私は何のためにここに呼び出されたんだ?
いい話か?
それとも悪い話か?
わからない。
わからないからこそ、不安はどんどん膨らんでいく。
「最近、ずいぶんと好き勝手しているそうだな……」
陛下が口を開いた。
「お前は何をやらせても無能だから、国政にも関わらせず、放置してきた。少々馬鹿な騒ぎを起こそうが、私は関知しなかった。そのために割かれる時間や人員が無駄だからだ。しかし、今回は、さすがにやり過ぎた」
私は陛下の言葉を聞いて、体が震えていた。
さっきまでは、いい話か悪い話かわからずに不安に襲われていた。
しかし今は、悪い話だと察して、これから自分はどうなってしまうのかという不安に襲われていた。
「お前が誰と婚約しようが、べつにかまわない。私はお前を、政略結婚のための道具にすら見ていないからな。しかし、さっきも言ったように、お前はやり過ぎた。少々の騒ぎには目を瞑っていたが、限度というものがある。罪もない侯爵令嬢を処刑しようとしたのは、看過できない」
そんな……、どんなことをしても見逃してもらえていたから、私は何をやっても許されると思っていた。
しかし、それは私の勘違いだった。
度を越えた私の行いは、陛下の逆鱗に触れてしまったようだ……。
「それに、お前はその侯爵令嬢の妹に騙されていたらしいな。王族を騙したその女にも、何か罰を与える必要がある」
「お待ちください、陛下! ヘレンは……、彼女は何も悪くありません! すべては、私への愛ゆえの行動だったのです! どうか、彼女のことは、許してください!」
「まあ、正直、お前が騙されていようと、どうでもいい。しかし、また問題を起こされても困る。そこで、提案が二つある。どちらか好きな方を選べ。まず一つ目は、あの女とお前から、すべての権限を剥奪する。そして、王宮から離れ、平民として暮らすというものだ。そして二つ目は、あの女を処刑して、お前には、徹底的な教育を施す。拷問のように厳しい教育だから、無能なお前でも、都合よく使える駒くらいにはなれるだろう。お前には、このどちらかを選んでもらう。私としては、どちらを選んでも、面倒な問題は消え去るので、どちらでもいい。さあ、答えろ」
私はごくりとつばを飲み込んだ。
いきなり、こんな選択を迫られるなんて……。
つまりこれは、王族としての権限を捨ててまでヘレンを選ぶか、ヘレンを捨てて王族として生きるか、という選択だ。
いったい、私はどちらを選べばいいんだ……。
私は、王族としての権限を失いたくはない。
今まで好き勝手出来たのも、私が王族だったからだ。
それを手放すことは、私にとってはかなりの覚悟がいる決断だった。
一方、ヘレンとの関係も、これで終わりになんて、したくない。
せっかく、彼女との関係を修復できたのに……。
彼女は本音を話してくれて、前よりも彼女との距離が近くなった。
こんな私に構ってくれるのは、もう彼女しかいない。
そんな彼女を、見捨てろというのか?
しかし、彼女を選べば、王族としての権限は失われる……。
だめだ、このままでは堂々巡りだ。
私は、はっきりさせなければいけない。
何が自分にとって一番大事か、選ばなければならない。
今まで、王族として好き勝手振る舞ってきた日々を思い出す。
その次に、ヘレンと過ごした、幸せな日々を思い出す。
どちらも捨てがたい。
しかし、どちらか一方を捨て、どちらか一方を選ばなければならない。
どちらか一方と言われれば、私が選ぶのは……。
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