第40話
私は新聞を読んでいた。
そこにはある記事が、一面に大きく掲載されていた。
「アンドレさん、これ見てください。私たち、無罪放免だそうですよ!」
「え、本当ですか?」
「ほら、ここに書いてありますよ」
彼も、新聞の記事を読んだ。
「ああ……、これで、こそこそとしなくても、いいのですね。エマ様も、貴族としての立場は、失われないと書かれていますよ」
「ええ、そうですね。まあ、これが嘘の記事だということは、さすがにあり得ないですね。こんな大々的に新聞を使って嘘をつけば、王宮は、民からの信頼を完全に失いますからね」
「ええ、そうですね……。あれ? 裏側にも、一面に大きな記事がありますよ」
「あら? 本当ですね。しかもこの記事、殿下とヘレンのことですね……。え、これって……」
そこに書かれた記事の内容を見て、私は驚いていた。
*
(※ウィリアム王子視点)
私は陛下のもとを去り、ヘレンのところへ向かっていた。
彼女に、私の下した決断を伝えなければならない。
これを伝えるのは、非常に心苦しい。
しかし、もう決断したことだ。
今更変えることはできない。
こんなこと、本当は決断なんてしたくなかった。
しかし、決断しなければいけない状況に、私は追い込まれていた。
これは、仕方のないことなんだ。
きっと、彼女もわかってくれるはず……。
「ヘレン……」
私は彼女を見つけて声を掛けた。
「殿下……、大丈夫でしたか? 陛下が殿下を呼び出した用事は、いったいなんだったのですか?」
彼女が心配そうな表情でこちらを見ている。
陛下に呼び出された時の私の様子を見ていたから、彼女が不安に思うのも無理はない。
「実は……、陛下は私のしたことをすべて把握していた。私が一度、君に騙されたことも、陛下は知っていた」
「ま、まさか、私に何か、処罰が下されるのですか?」
彼女の声をふるえていた。
目には、涙が浮かんでいる。
「陛下の話は、私にある選択を迫るものだった。どちらか一方を選ばなければならない状況になったんだ。一つ目は、君を刑に処して、私は王族として振る舞えるよう、徹底的に教育されるというもの。二つ目は、私は王族としての権限を剥奪され、君は貴族としての権限を剥奪される。そのうえで、この王宮から追放され、平民として暮らしていくというものだ」
「そんな……、そんなのって、あんまりだわ……。そ、それで、殿下はどちらを選ぶおつもりなのですか?」
「実は、もう選んで、その意思を陛下に伝えた」
私は彼女の顔をまっすぐに見た。
「殿下……、いったい、どちらを選んだのですか?」
彼女は声を震わせながら、私に質問した。
「それを伝える前に、君に言っておきたいことがある。私は、本当はこんな選択、したくなかったんだ。陛下に迫られて、しかたなく選択したんだということを、どうかわかってくれ」
ヘレンは、うつむいたまま、何も言わない。
私は続ける。
「それで、私が選んだ選択肢の話に戻るけれど……。私は……、君と二人で過ごすことを選んだ。私からは王族としての権限はなくなるし、君も貴族としての権限はなくなって、平民になってしまうけれど、二人で過ごすことができる。私は王族としての立場より、君のことを選んだ。なぜなら、私は君のことを愛しているからだ」
「殿下……、嬉しいです。私のことを、見捨てなかったのですね……」
「当然だ。君がいなくなったら、私は一人ぼっちになってしまう。平民になっても、二人一緒なら、きっと幸せになれる」
私はヘレンを抱きしめた。
この選択は、決して間違いではない。
私はすべてを失ってでも、ヘレンと一緒にいることを選んだ。
何もかも失ってでも彼女のことを選んだのだから、絶対に幸せなになってみせる。
彼女と一緒にいれば、それが私の幸せにもなるし、彼女の幸せにもなる。
王族でなくても、貴族でなくても、平民としてだって、きっと幸せになれる。
そう思っていた。
しかし私は、王族や貴族の権限を失ってから、平民として過ごすというのがどういうことなのか、この時はまだ完全に理解していなかったのだった……。
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