第34話

 私は、手を震わせながら、遺書を書いていた。 


 まさか、こんなことになるなんて……。

 せっかく、牢獄から出られると思っていたのに……。

 私は数日後に、処刑されてしまう。


 大勢の前で自分が死ぬ瞬間を見られるなんて、最悪の屈辱である。

 色々考えたけれど、それを避けるためには、こうするしかなかった。


 処刑される前に、旅立つしかない……。


    *


 (※ウィリアム王子視点)


 エマがまさか、私のことを拒絶するなんて……。


 もう、あの女のことは知らない。

 私に恥をかかせたことを後悔しながら、あの世へ旅立ってもらおう。

 私が惚れたエマは、あんなことはしなかった。


 昔のエマはもう死んでしまったのだ。

 今牢獄にいるのは、その抜け殻。

 今更抜け殻が死のうが何とも思わない。


 私はヘレンのところへ向かっていた。


 私は彼女の裏切りに、ひどいショックを受けた。

 そして、彼女を拒絶した。

 しかし、よく考えてみれば、私が今まで愛していたのは、ヘレンなのだ。

 確かにエマだと思っていたけれど、私が婚約者を愛していたのは、まぎれもない事実なのだ。


 彼女のしたことは、許されることではない。

 しかし、このまま一人になるのも嫌だった。

 ここは、寛大な心で、ヘレンの過ちを許そう。

 それこそが、愛というもの。


「ヘレン……」


 床に膝をつき、泣き崩れている彼女に私は声を掛けた。


「殿下……」


 彼女は、ゆっくりと顔を上げて私を見上げた。


「さっきは、すまない……。あまりに突然すぎて、動揺していたんだ。信じていた君に、大きな嘘をつかれたことがショックだったんだ。……だから君を、拒絶してしまった。でも、よく考えてみれば、そんなに怒るほどのことでもなかったよ。君は、私を愛しているからこそ、嘘をついて私に近づいた。そして、私も君との暮らしは本当に楽しかった。隣にいる君のことを愛していた」


「殿下……、私のことを、許してくれるのですか?」


「ああ、確かに嘘をつかれて悲しかったけど、君との関係が終わってしまうことの方が、もっと悲しいよ。そのことに、ようやく気付いた」


「殿下……」


 ヘレンがゆっくりと立ち上がった。

 そんな彼女を、私は抱きしめた。


「私は、君のことを許すよ。また、二人でやり直そう」


「嬉しいです、殿下」


 彼女は笑顔になった。


「もう、隠し事はないね?」


「ええ、何もありません」


 彼女は笑顔で答えた。

 姉に成りすましていたということ以上の大きな嘘など、あるはずもない。

 私は彼女の言葉を信じた。

 そして、彼女の唇に、私の唇を近づけようとした。

 しかし、その時……。


「殿下! 大変です!」


 兵が部屋に入ってきた。


「何の用だ!」


「今すぐ、牢獄に来てください! 大変なことになってしまいました!」


 私とヘレンは、兵について行き、エマが捕らわれている牢獄へ向かった。

 牢獄に着くと、私は中の様子を見た。


 そこには、驚くべき光景が広がっていた。

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