第26話
(※ウィリアム王子視点)
まさか、強盗ではなく、エマの父親が犯人だったなんて……。
私はそのことに、少なからずショックを受けていた。
世間からどういう目で見られるのかは、想像がついた。
しかし私は、覚悟を決めていた。
世間からどう見られようが、関係ない。
私はエマを愛している。
そして、今一番つらいのは、エマなのだ。
母親が殺され、その犯人が父親だと分かり、かなりのショックを受けているはず。
世間体を気にしてエマから離れるなんて、私にはできない。
こんな時だからこそ、私が彼女の側にいて、支えてあげなくてはならない。
この国では、殺人の罪はかなり重い。
しかも、凶器を用意したり偽装工作をしていることからも、衝動的なものではなく、計画的な犯行だと判断されるから、なおさら重い処罰が課せらるだろう。
最悪の場合、死罪だって充分にあり得る。
エマのことを思うと、胸が張り裂けそうだ。
彼女は今、どうしようもなく辛いだろう。
顔色は悪いし、ずっと不安に支配されているように見える。
私にも何か、できることがあればいいのだが、慰めることくらいしかできない。
でも、きっと大丈夫だ。
どんな傷でも、時が癒してくれる。
またいつか、二人で笑って過ごせる日常が訪れるはずだ。
その日が来るまで、私が隣にいて、エマを支えてあげよう。
そう思っていたのだが、このあと、兵からとんでもない事実を知らされるのだった……。
*
(※父親視点)
私は暗い牢屋の中で、天井を見上げていた。
もう、私の人生は終わりだ。
殿下に大きな嘘をつき、その秘密を守るために妻を撃った。
そのせいで、私は現在このような状態になってしまった。
しかし、そんな私にも、まだできることはある。
人殺しという重罪を犯してしまったが、ヘレンのために、動機は正直に話さなかった。
実をいうと、これはかなり迷った。
動機、つまり、殿下に大きな嘘をついていることを兵に話せば、司法取引で減刑も望めるだろう。
しかし、私はその選択をしなかった。
なぜなら、それだと一番得をするのは、エマだからだ。
私はそのことに気付いた。
もし私がすべての真実を話せば、ヘレンも罪に問われ、代わりにエマが本物だということが立証されてしまう。
ヘレンが悲しみ、エマが喜ぶような選択は、私にとって論外だった。
私とヘレンが処罰を受け、エマは可哀想な被害者として同情される。
そんなことになるくらいなら、私の減刑のチャンスなんて、棒に振っても構わない。
エマが高笑いする顔なんて、見たくない。
ヘレンが泣き叫ぶ顔なんて、見たくない。
だから私は、本当の動機は話さないと、固く決意した。
しかしのちに、とあることが発覚し、その決意を揺るがす事態になるのだった……。
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