第25話
「逃亡した貴女のお父様を、逮捕しました」
アンドレさんの知らせを受けて、私は大きくため息をついた。
やはり、強盗の仕業ではなく、真犯人はお父様だった。
お父様が、お母様を殺したのだ……。
彼は、詳しい事情を教えてくれた。
銃の売人が、お父様に銃を売ったと証言したこと、そして、お父様が自分が疑われていることを察して逃げようとしたこと、さらに、凶器と思われる銃となくなっていた金品が発見されたことが、新たな情報だった。
「その銃についていた指紋は、お父様の指紋と一致したのですね?」
私はアンドレさんに質問した。
「ええ、先ほど結果が出て、一致しました。銃の売人の証言と、指紋の照合結果で、ローリンズ氏が奥様を撃ったことは、立証できます。ただですね……」
アンドレさんはそこで言葉に詰まった。
私は、その様子から察した。
「もしかして、動機を話さないのですか?」
「ええ、そうなんですよ。夫婦喧嘩が過熱しただけだというのが、ローリンズ氏の証言です」
「秘密を守るために口封じをしたとは、言わなかったのですね……」
私は大きくため息をついた。
お父様は、溺愛しているヘレンを守ることを選択したのね。
これでは、ヘレンが成りすましの偽物だということが、ウィリアム王子に伝わらない。
私はもう一度、大きくため息をついた。
*
(※ヘレン視点)
「え……、お父様が、お母様を撃った犯人だったのですか?」
殿下から知らされた事実に、私は驚いていた。
まさか、お父様がお母様を撃つなんて……。
……もしかして、私のために、そこまでしたの?
私を守るために、お父様はお母様を銃で撃ったの?
そこまでして、私を守りたかったの?
「あの、お父様は、どうしてお母様を撃ったのか、言っていましたか?」
私は恐る恐る殿下に聞いた。
これでもし、殿下に嘘をついている件で言い争いをしたせいだ、とお父様が証言していたら、私は終わりだ。
しかし、殿下が私に変わらず接してくれているということは……。
「ただの夫婦喧嘩が過熱したせいだと、言っていたそうだ」
「そうですか……」
やっぱり、そうだった。
もしお父様が正直に話していたら、私が今こうしてここにいられるはずがない。
お父様は、私のことを庇ってくれているのね。
「……エマ?」
殿下が、私の顔を覗き込んでいた。
嘘がバレていないことに喜んで、思わず顔に出そうになったけれど、何とか表に出さずに済んだ。
一つだけはっきりとしていることがある。
お父様が嘘の証言をしたのは、間違いなく私のためだ。
しかし、銃で撃ったことについては、まだはっきりとしないことがある。
いったいお父様はどういう意図で、お母様を撃ったのかしら……。
お母様が秘密を漏らさないように、口封じのために撃ったのか、それとも……。
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